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鴇色雑記  作者: 鴇合コウ
〝魔法〟について考える。
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〝魔法〟について考える。-①水-

お久しぶりすぎて、エッセイの書き方を忘れました。。。

だいぶ雰囲気が違います。すみません。

 

 最初に断っておくが、わたしは素人である。

 創作分野においても科学分野においても、純然たる素人である。

 素人が、素人なりに創作に生かせそうな科学知識を理解しようとして調べ、理解しきれていないけれど新たに知った事実が記憶の底にかき消える前に留め置くために、そしてついでに他の人にも共有したいと考えて、安易に筆をとった次第である。

 半眼で流し読みしていただけると幸甚である。


* * *


 創作好きな人間から見て〝水〟は、わりとロマン溢れるものだ。

 ファンタジーの世界では、四大元素のひとつ。『万物の根源は水である』と言ったのは、タレスだったか。

 さて、人間が生きる上でも欠かせないこの水を〝魔法〟で創り出すにはどうすればいいか。

 考えられる屁理屈いいわけは二通りある。



(1)どこからか〝水〟をもってくる。


〝魔法〟をある特定の自然現象と親和性が高いもの、と規定した場合によく用いられる理屈だ。

 雲や、池などの水源から移動(もしくは転移)させるというのが、もっとも基本的なところだろう。地下水は地盤沈下が怖いので、できるだけ使うのを避けたい。


 そのほかでありがちなのが、空気中、あるいは水を出そうとする人間の周辺から、水分を凝集させるというものだ。

 空気中の水蒸気を集める、というのは、わたしもかつて取り入れた手法である。読み手に想像させやすく、理解させやすい説明いいわけだ。雨を降らせるのもたやすい。

 だが問題がある。ひとつは強引に空気中の水蒸気をかき集めた場合、そこだけ一気に気圧が下がると予想され、平衡状態を保とうとして他から圧力が流れ込み――結果、使い続ければその地の気候の破綻を招くかもしれないということだ。


 また、気温 25 ℃、相対湿度 60%のとき、空気1㎥(1000 L)中に含まれる水分量は、およそ13.86gである。大さじ1杯(15g)にも満たない。

 コップ1杯を満たそうと思うと、だいたい200ml=200g。ざっと14倍、和室4畳分の空気が必要だ。汲んできた方が早いんじゃね?と言われる可能性大である。

 さらに、水蒸気が液体の水になるときの〝凝縮熱〟は2442 kJ/kg。大さじ1杯(15g)の水を創ろうと思うと、36.63 kJが必要だ。

 1kJは、100㎏の物体を1m持ち上げる作業と同じと言われる。

 36.63 kJは、3663㎏≒3.7トン。シャチ1頭、もしくはゴマフアザラシ28頭分を持ち上げる力を持って、大さじ1杯の水を手に入れなければならない。

 なかなかハードだ。


 ここでひとつ朗報がある。

 人体の6~7割は水でできている。体重60㎏の人間で36㎏の水が確保できるのだ。

 とはいえ、水分減少率2%で脱水の症状が現れ、20%で死亡するらしいので、確保できるのはせいぜい1%の600gというところか――水分減少率は体重の変化でみるため、減っても体に影響のない水分量というのは、実際はもっと少ないかもしれないが。

 そもそも、喉が渇いているときに自分の水分を絞り出して飲むのは本末転倒な気がする。昔どこかの漫画で、脱水症状になったら尿の回数が増えるので、溜めておいて蒸留して飲むというのを読んだ気がするので、生命活動維持には有効なのかもしれない。が、魔法としてのキラキラ感は皆無だ。

 当然、他人からもらうのも全力で拒否したい。飲んだ後で水の正体を知ったら、軽くトラウマである。植物由来以外の水分が口にできなくなりそうだ。


 しかし、この場合、攻撃力としてはわりと高いといえる。毒も武器もなく、相手の体内水分だけを奪って死に至らしめられるのだ。奪った水分を空気中に放散してしまえば、証拠はゼロ。

 彼の通った後には塵しか残らない――そんな暗殺者の誕生である。

 普通に怖い。



(2)〝水〟そのものを生成する。


〝魔法〟は想像力が物を言う、というルールのある場合がこちらだ。これはさらに二種類に分けられる。

 純粋にH2Oの水を生み出す場合と、水に似た〝なにか〟を生み出す場合だ。

 

 まず、〝水〟とはなにかを考えたい。

 水の分子は、言わずと知れた化学式H2O。1個の酸素原子Oと2個の水素原子Hが、『O-Hの距離95.84pm』で『H-O-Hの角度を約104.45°』で結合した化合物であることが分かっている。なおOとHは、それぞれ持っている電子をひとつずつ提供する〝共有結合〟で結びついている。

 気体の水は、水分子がばらばらに運動している状態。

 固体の水は、水分子が動きを止めて結合している状態。

 では液体の水はどうかというと、実はその構造について、詳細が不明なのである。


 水分子が、昨今よく聞く〝クラスター〟という集合体を何種類か作り、そのクラスターたちが混在して液体の水を形作っているというところまでは分かっている。

 そこからが謎なのだ。このクラスター、かっちりしたものではなくて、1兆分の1秒くらいで壊れたり生まれたりを繰り返すらしい。さすが〝水〟というべきか。落ち着きがない。

 残念なことに、われわれはまだ、この水分子の状態を直接視認する技術を持ち合わせていない。動いているものの痕跡を追いかけ、理論と、これまでに得た事実と照らし合わせ、ああでもない、こうでもないと言っている状態なのだ。

 タレスの死からおよそ2500年経った今なお、人間は〝水〟を理解し尽くせていないのだ。


 さて、ここで問題である。

 想像力をもって、あなたは手のひらの上に水を生み出した――果たしてそれは、本当に〝水〟だろうか。


 現代科学においてすら理解しきれていない〝水〟というものを、人は本当に正しく〝想像〟できるのだろうか。

 さらに言えば、生み出した源が想像力であるなら、生み出された水もまた想像物であるというのは、有り得ない話ではない。自分自身と周囲の人間に『ここに水がある』と思わせればいいのだ。〝想う〟ことが〝魔法〟であるならば、それもまた真であるはずだ。〝現実〟がどうなっているかはともかく。

 残念ながら、このことを突っ込んだファンタジー作品を、わたしはまだ読んだことがない。まあ、ここを突っ込むと魔法のダークサイドに突入していくほかないので、避けたい気持ちはよく分かる。


 では、生み出されたものが想像物ではなく、確かな物体だと仮定しよう。

 どうやってそれが〝水〟であると検証するのか?

 試験紙がある世界ではないだろう。試験紙の基となる化学反応も、科学知識すら疑わしい〝魔法〟の世界だ。

 電気分解して確認するにも、実験道具がままならない。ナトリウムなどのアルカリ金属が発火するか試すという手もあるが、もともと反応性の高い金属なので、〝水〟の判定には不確かだ。金属の調達も問題である。

 一番単純な確認方法は〝飲む〟ということだが、水はそもそも無味無臭だ。

 

「え、水って味あるよね? 美味しいよ?」と思った、そこのあなた。

 おそらくその味は、水に溶けている別の成分のものだ。飲料水でよく見かける〝天然水〟や〝ミネラルウォーター〟の成分表示は、必ずカルシウムやナトリウムなどの鉱物ミネラルが含まれているはずだ。悪いわけではなく、〝自然な〟水はそういうものなのである。

 余談だが、夏に頭痛を起こしやすい人は、マグネシウム不足が原因ということもあるので、水分補給にはマグネシウム含有量の多い高硬度の水をお勧めしたい。

 豆腐を作る際のにがりの成分でもあるマグネシウムが多いと味にえぐみが出るので、はっきり言って飲みにくい。だが、熱中症対策用のタブレットやスポーツ飲料にはマグネシウムが含まれていないことが多いので、頭痛を繰り返す人は一度試すと良いと思う。


 閑話休題。

 水の美味しさの要因については、似非科学も含めて諸説あるのでここでは割愛するとして、大切なのはH2Oのみの水を味わう機会は、一般的にはあまりないということだ。

 蒸留や、高精度のフィルターを通して飲料水に含まれるミネラルなどを除去することで、限りなくH2Oのみに近い〝純水〟の水を得ることは可能だ。最近では一般家庭用もあるようだが(飲料水として認可されるレベルというのが引っかかるが)、これを飲むと「あれ?」というくらい素っ気ない。

 わたしが飲んだのは〝イオン交換水〟と、有名な某製造装置の〝純水〟だが、どちらも『すごく不味くはないが美味しくない。本当にただの水』という印象だった。なんというか、化粧を全部落としたら目鼻もないのっぺらぼうだったという感じだ。


 この〝純水〟からさらに限界まで不純物を除去した〝超純水〟というものもあるが、これは飲める気がしないので試したことはない(そもそも飲用ではない)。〝超純水〟は清浄すぎて、とても汚染されやすいのだ。

 装置から汲み出して外気に触れた瞬間から、どんどん周りのものを吸収していく。サイトによっては〝強溶解性〟や〝ハングリーウォーター〟という呼び方がされているが、それくらい様々なものを自分自身に取り込むのだ。勿論、ミクロ、ナノ、イオンというレベルの話である。

 つまり〝超純水〟を飲もうと思ったら、容器などに移し替えず、どうにかして装置から直接飲むのが一番なのだが、口に入れた段階で純粋ではなくなるので、理論上〝超純水〟を飲むのはほぼ不可能と個人的には考える。


 話を戻そう。

 想像力によって生み出されたそれは、果たして〝純粋なH2Oの水〟なのか。

 無色無味無臭――だからといって〝不純物のないH2Oのみ〟ということにはならない。ましてや〝無い〟という証明は非常に困難だ。人間の五感を理由にするなら、なおさらである。

 証明には客観的事実、最低でも第三者による確認が欲しいところだが、この場合の第三者というと、もはや〝神〟ということになってしまいそうだ。創作人の創った創造神なので、あやふやなことこの上ないが、〝神〟とはおよそそういうものではある。

 

 これを解決するのに便利な理屈いいわけが、『魔力で作った水は普通の水とは違う』というものだ。ただし、魔法の水と普通の水をきちんと区別して説明する必要がある。

 だがまあ、これこそ創作の醍醐味というやつかもしれない。昔この違いを主人公が結構しつこく追及する話を読んだが面白かった。

 ストーリー展開にもよるので、どんな話でも掘り下げれば良いというものではないし、だいたい異世界の水や物理法則が現実と同じという大前提の検証をされないことがほとんどなので、微妙に偏った論理に落ち着くのがもったいないところではある。


 ときどき見かけるのが、魔法の水は出し入れ自由で、すぐに乾くというものだ。一瞬アルコールを想像するが、組成も理由も曖昧なことが多い。

 違いが明白で分かりやすいが、すぐに乾燥する魔法の水では、喉や水源を潤したりお風呂を溜めたり植物を育てたり調理をしたりという、〝水を自在に操る魔法〟の良いところが楽しめないのが残念だ。

 いや、風呂と洗濯くらいはいけるのか。疲れてお風呂で寝たとたん、湯船が空になったらしょんぼりだが。

 利点としては、汚れを洗い流すのに対象物が濡れないことや、敵を溺死させても痕跡が残りにくいことなどが浮かぶが、もっとも重要な点としては『オアシスの井戸の底には水属性の魔法使いが眠っている』なんていう、暗黒童話めいた事態からは回避されるだろうということだ。


 正直、〝本物の水〟を創り出す〝魔法〟の一番のリスクは、わたしはここにあるように思う。

 性善説を前提として構築されたインターネットに犯罪が跋扈しているように、〝魔法〟の世界に悪意があるのは当然である。

 人間が生きるために絶対に必要なものを自在に生み出せるというのは、それだけ危険で魅力に満ちている。だからこそ余計に〝魔法〟を使いたいと、われわれに思わせるのだ。


 地球の外、あの広い宇宙で、液体の水はまだ直接その存在を確認されていない。

 単純なようで奥が深い〝水〟の魔法。

 清濁飲み込んで、創造を楽しみたいものである。




<参考サイト①>

水→https://ja.wikipedia.org/wiki/水

飽和水蒸気量の計算→https://www.s-yamaga.jp/nanimono/taikitoumi/kukichunosuijoki.htm

 ※温度25℃のとき飽和水蒸気量23.1g/㎥。湿度60%だと23.1×0.6=13.86 g/㎥が水分量。

体積の一辺の長さ→https://www.calc-site.com/volumes/cube_volume

 ※14㎥の一片の長さは約2.42m。検算:2.42×2.42×2.42=14.172

畳・平方メートルの換算→http://www.shoshinsha.com/tools/tubo_menseki/tubo.html

 ※2.42×2.42=5.86㎡→3.78畳。

和室の天井高→https://www.homepro.jp/wafu/wafu-basic/789

凝縮熱→https://ja.wikipedia.org/wiki/蒸発熱

ジュール(単位J)→https://ja.wikipedia.org/wiki/ジュール

脱水→https://www.otsuka.co.jp/nutraceutical/about/rehydration/water/dehydration-signs/

水の構造→http://www.spring8.or.jp/ja/news_publications/research_highlights/no_54/

水の性質→https://ja.wikipedia.org/wiki/水の性質

クラスター→https://www.con-pro.net/readings/water/doc0003.html

水分検出試験紙→https://axel.as-1.co.jp/asone/d/61-0478-79/

pH試験紙→https://axel.as-1.co.jp/asone/d/1-8508-02/

水の電気分解→https://sciencenote.jp/electrolysis-of-water/

ナトリウム金属と水の反応→https://www.natureasia.com/ja-jp/ndigest/v12/n4/アルカリ金属の爆発の秘密が明らかに/61962

飲料水→https://ja.wikipedia.org/wiki/飲料水

ミネラルウォーター→https://ja.wikipedia.org/wiki/ミネラルウォーター

マグネシウムと頭痛→https://www.kaku-neurosurgery.com/cora_2.html

純水・超純水→https://www.organo.co.jp/purewater/

純水・超純水装置→https://www.merckmillipore.com/JP/ja/lw/learning/LkGb.qB.RcYAAAFGPDwcWQNg,nav


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