黒い襲撃
人によってはR指定…かもしれません(汗)。
今年は、日本中が猛暑に苦しむ夏であった。
9月に入ろうと一向に引く様子のない太陽の紫外線攻撃に、日本国中が嫌気が差していたこの頃、一陣のお湿りが台風という形で訪れたのは、二日ほど前のことである。
直撃された地方はたまらないだろうが、端っこの雨雲のかかるわたしの地域では、久々の天の恵みに心地よい冷気を覚えていた。
そんなとき、風と共にやつがやってきた。
かさ、ぽとり。
あえてここに伏字すら記すまい。傍らにいた猫が目の色を変える中、わたしはおもむろにティッシュをごっそりと掴み取り、逸早く臨戦態勢に入った――が。
かささ。
すばやい身のこなしで危機を悟り、それは本棚の闇の中へと逃亡した。やむなく、わたしは次なる手段に打って出ることにした。
攻撃には準備が肝要である。色めき立つ猫を別室に隔離し、敵が潜伏すると思しき辺りを外側から徐々に暴いていく。キャットフード、ペン立て、小物、本、手紙の束。
武器を持ち、構える。すでに試射は済ませた。いざ、出陣!
――うわ逃げ……って、そこプリンターだから! な、中に入るんじゃなあああぁーいっっ!!
太古より変わらないと噂される平べったい体形を見事に生かし、敵は、人間の手の届かない印刷複合機という名の未開のジャングルへと逃げきった。
しかし、ここで負けたらホモ・サピエンスとは呼べない。サピエンスは知恵あってなんぼのものなのだ。
セットされた用紙を外し、プリンターの内部にかからないように周囲に武器を充分に散布する。
でき得る限りの逃走経路を予測し、一見して仕留められるように、オープンな状態にしておく。
そして――電源を入れる。
ガ…ゴゴゴ
常とは違う異音を響かせて、プリンターは起動した。が、インクの動きは思ったよりスムーズだ。
――ここではないのか?
不安が掠めた瞬間、振動に驚いたらしい敵が跳び出してきた。しかも、撒いた武器に足を滑らせて転倒。
さらに蒸気となって立ち昇るピレスロイド系の一撃が、やつに追い討ちをかける。
――貴様が地上に君臨しようなんざ、百億年早いわっ!!
心の中で嘲笑を浴びせ、わたしは死闘に打ち勝った。
何にも知らない母の応対は、極めて冷静である。
「夜なのに元気ねー」
好きで戦ったわけではない。潜んでいる状態の部屋で寝ろというのか、この母。
「あ、そういやごはん置いておくの忘れてた。今度用意しとくね」
「……」
ごはん=ホウ酸ダンゴ
母が言うと、本当に餌付けしそうな雰囲気である。
「飼ってるみたいな表現、やめてくれる?」
「似たようなもんじゃない」
確実に違うと思うが、とりあえず、いろんな意味でわたしにとって、この夜はもっとも暑いものであった。
いや、それとも――涼しくなった、と言うべきなのだろうか?
夏の夜は、まだ終わりそうにない。
2010/9/7 22:00余りの出来事でございました……。