(5)コーディネートとお休みの決定
<△月9日>
コーディネーターさんは、骨髄バンクに所属される方で、ドナーと医師との調整役。なにもわかっていない素人を「ドナー」に仕立てあげないといけない、責任重大な役割である。ドナーにとってはすべての相談役となるのだ。
という重大案件は、たいてい書面で通知されるのだが、このたびはそれを飛び越えてまず電話が来た。
明るい女性のかたである。
「このたびコーディネートをさせて頂くことになりました、K野です。お願いいたします」
「よろしくお願いします~」
「今度確認検査に来て頂けるということで、ご予定をうかがいたいのですが……」
②ドナーを絞りこむための詳しい検査(確認検査)。
これは適当なところで受診していいわけではなく、骨髄バンクが指定した病院から選ぶことになる。今回指定された三軒のうち一軒は知らない個人病院だったが、残る二軒は大きな総合病院で、うち一軒は骨髄バンク登録で利用した病院、もう一軒は仕事で関係のある病院だった。残念ながら、どこも近隣ではない。
問診票提出の際に一緒に希望を回答するのだが、任意で出しておいたら、奇しくも仕事関係の総合病院に決まってしまった。ちょいとフクザツな気分である。
「曜日はいつがよろしいですか?」
「月曜日以外でお願いします」
仕事の予定を頭の中で確認して答える。仕事の手帳は職場に置き去りなのである。
「じゃあ、21日の10時からはいかがですか?」
「たぶん大丈夫だと思います。時間はどれくらいかかりそうですか?」
「そうですね、今回はドナー提供についての説明をおこないますので、一時間半から二時間くらいでしょうか。検査は血液を採るだけですので、そんなにかからないです」
「結果出るまで待つわけではないんですか?」
「結果は後日ということになっております」
「じゃあ、職場の人と相談して決定でも大丈夫ですか? 明日には確認してみますので」
「ではご連絡お待ちしていますね。なにか、分からないこととか不安なことはございますか?」
そんなこと言われても、すべてが雲をつかむような話なのだ。
「分からないことが分からないので、また聞きます」
「承知いたしました(笑)」
だいたい、こんなやりとりで最初のコーディネートが終了した。
* * *
ドナーに決定ではないのだが、検査は哀しいことに平日と決まっている。なので、どうしても未知数を多く残したこの状況で、職場に話をふらざるを得ない。
仕事は個々でかかえるレベルで、自分が休んだら素直に自分の首が絞まるという職場だ。有休もむしろとることを奨励されているくらいで、休んだことを怒られることはまずない。それでも許可は必要である。
とりあえず、人事に話を持っていった。
「ってことで、事前の検査で休むんですけど、普通の手続きでいいんでしたっけ?」
「骨髄のドナーとかだったら特休(特別有給休暇)出そうじゃない? 見てみようか」
人事の規定を調べた結果はなんと――「無給休暇とする」の文字が。
「〝無給〟なんじゃねー」
「ねー」
これはわたしが無知だった。じつはきちんとオレンジ一式の中の「説明書」というしおりにも書いてあるのだ。
事前の確認検査および検査に来院する交通費を含め、ドナーに費用負担はない。「ドナーから骨髄をもらう患者さん」の健康保険から支払われるのだ。恐ろしい金額になると想像されるが、その中にドナーの休業手当はふくまれないのである。当然、ドナー的には「無給休暇」という扱いになるわけだ。
「有休とれば? 余ってるでしょ?」
「うん、そうします」
「ドナーって、よう決めたねぇ。まあ、がんばってー」
「まだ決定じゃないですけどね。ありがとうございますー」
働く部署は、じつはわたしを含めて二人体制である。まとめ役かつ同僚にあたるそのひとの許可をとれれば、あとは直にトップに話をもっていくことになる。英語で言うとHead。日本語で言うと〝長〟がつく立場のひとだが、さいわい主な仕事もこのかた由来である。
「とゆーわけで、21日半休いただきます」
全日休暇をとると自分の首がもたないことに気がついたのである。
「いいけど、君ほんとに骨髄採られるの?」
「今回の検査で合えば決定です。たぶん」
「ええーっ。針刺されるんでしょ?」
「骨盤に二、三ヶ所らしいです。骨から採るんで」
「何日かかるの、それ?」
「入院は二日くらいみたいですよ。その前に検査に何回か通って――とりあえず決定したらの話ですが」
「うわ、すごいねえ」
「とりあえず、決定したらまたお話します」
「うん、わかった」
職場で話を振って思ったのだが――親に言ったときもそうだが――「骨髄のドナー〝候補〟に選ばれた」という正確な内容を一発で理解してもらえるのは難しい。
だいたい単語を聞いたとたん「骨髄ドナー」→「針刺されるの?まじ?」という反応である。
心配してくれたり感心してくれるのはありがたいが、そうなると「ドナー候補」という話から「選定」されて「最終同意」して「検査」して「採取」という流れを話さないといけなくなり、そこまでするとだいたいみんな話の本質が脳からこぼれるという有様だ。
そのうえ、最終的な「採取」の段階になると、
「え、まだやってなかったの?」
という反応。一抹のムナシサを覚える。
タイムラグというのは、まことに面倒で――人間の相互理解のむずかしさをこんなところで痛感するしだいなのである。




