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鴇色雑記  作者: 鴇合コウ
ドナーってどんな?
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(4)ファーストコンタクト?

 最初のやりとりは、まず骨髄バンクの事務員さんからはじまった。

 すでに問い合わせは受け取っているので、まるっきりの「はじめて」ではないが、長い「調整」の道のりがここからスタートするのである。


 ちなみに、この先の予定を示すと以下のようになる。現在はまだ①だ。

  ①ドナー候補に選ばれる

  ②詳しい検査(確認検査)でさらに絞られる

  ③最終同意(これを決めたら引き返せない)

  ④さらに検査

  ⑤自己血採血

  ⑥入院・手術←ここでやっと骨髄を採る!

 遠い!と思ったそこのアナタ。実際はもっとかかるのです。合掌。


 というわけで。①から②に移行すべく対話がはじまった。

 電話なのでもちろん顔は見えないが、明るくほがらかな印象の女性である。


「このたびは『骨髄提供のコーディネート』のご承諾ありがとうございます」

 いえいえ。

「問診表についていくつかご確認させて頂きたいのですが……」

といって、言及されたのがこの二点だ。


 ○アレルギーについて

 ○腰痛について


 アレルギーは、わたしの人生とはまったくもって切り離せないもので、「花粉アレルギー」「金属アレルギー」「日光アレルギー」と三つも抱えているのだ。べつに大事にしているわけではないが。

 花粉と金属はアレルゲン(アレルギーの原因になる物質)を検査済みだ。花粉に関してはイネ科の多年草。金属はマンガン・ニッケルなどの身の回りの安価な金属である。だいたい生活環境が知れるというものだ。

 で、そのアレルギーが骨髄提供とどう関係するかというと。


「もしドナーに選ばれた場合、アレルギーの飲み薬は提供まで中止していただくようになるんですが」

 えー。

 アレルギーの薬は、体内で起こっている過剰な免疫反応を抑える役割がある。それは副作用として「感染を起こしやすい」環境を作り、健康な骨髄を欲している側としては「薬に害されているなんてもってのほか!」なのでしょうけれども。

 わたしのアレルゲンであるイネ科の多年草のピークは、3月~11月である。つまりほぼ年中。

 多少抵抗をこころみた。


「目薬とかもだめですか?」

「いえ、目薬とか鼻薬とか一過性のものならいいですよ」

「塗り薬はどうでしょう?」

 アレルギーは出はじめにたたくのが一番効果があるので、弱いステロイド剤は常備なのである。

「どれくらいの頻度で使われますか?」

「一月に一、二回くらいです」

 疲れが溜まると特定の場所に湿疹ができるのだ。非常にわかりやすいバロメーターだ。

「それくらいなら大丈夫と思いますが、念のため先生に確認してみますね」

 やたっ。一次通過?である。


 で、もうひとつの腰痛について。これがやっかいだった。


「今は腰の調子はいかがですか?」

「問題ないです。油断するとくるので、ならないようにがんばってます」


 腰痛とのつき合いも、アレルギーほどではないが長い。

 最初は、『埴色の職場』で机と机の間という極小スペースで図面を書いていたのがきっかけである。そりゃもう、てきめんに腰にきた。体が曲がらない、ねじれない、ベッドで眠れないという症状は、MRIまで検査した挙句「軽度の腰椎ヘルニア」という微妙な診断をいただいた。

 残念なことに湿布も温熱リハビリもまるできかなかったが、整体で快癒した腰は、それでもゆるゆると日常生活の足を引っ張り。立ちっぱなしと中腰がメインの動物病院の仕事では、辞める直前はシャッターの開け閉めが重労働に感じるくらいのレッドシグナルだった。

 わあ腰が抜けそう、というリアルなヤバさは体感した人でないとわからない。本当に動けない。

 なので、予防をがんばるしかないのである。←イマココ。


「じゃあ今は痛みとかは?」

「ないです」

 だから、あったらまずいんだってば。

 痛みそうになったら、風呂上りの柔軟とマッサージをしっかりやるんだよ。それで無理なら整体だ!

 伊達に長く腰痛とつき合ってないんだぜ!!


「そうですか。先生に確認してみますが、もし腰に関して事前に健康診断を受けていただくということになりましたら、それはだいじょうぶですか?」

「ええ、まあ」

 そんなことがこないだのオレンジ一式の中に書いてあった気がするよ。

「健康診断に関しては、自己負担という形になるのですが、よろしいでしょうか?」

 ……そんなことも、こないだのオレンジ一式の中に書いてあった気がするよ……。

「健康診断って、あれですよね、たしか」

「そうなんですよ。保険がきかないんですよ……すみません」

 …………そんなことも(以下略)。


 保険がきかない、とくると動物病院時代の習い性が頭をもたげる。動物は任意の保険しかないので、だいたいの価格は想像がつくのだ(いや自分は人間だが)。

 腰といったら、レントゲンかMRIだ。

 レントゲンはだいだい「四つ切(画用紙サイズ)」か「大四つ(ちょっと大きめ)」の大きさのフィルムがあり、背-腹(うつぶせorあおむけ)と左-右(右下or左下)の二方向で撮る。


――えーと、四つが二方向で○千円、大四つが○千五百円で設定してたよね……これに再診料がかかって……やっぱり健診扱いだから保険はどっちもきかないか。MRIだったら万超すなあ……。


「MRIいりますか?」

「あ、とりあえず腰の状態を診ていただくということになりますので、おそらくそこまでは」

 仕方あるまい。今シーズンの服を買うのはあきらめるとしよう。

「じゃあ、いいです。早いうちがいいんですか?」

「今は腰の痛みがないということですので、今日のお話を先生にお伝えして、もし健康診断が必要ということになればあらためてお願いすることになります」

「わかりました」



 翌日、早々に連絡が来た。

 なんと腰の健康診断(自腹)はしなくてよいのだという。らっきー!!

「では、これより先はコーディネートが担当いたしますので」

「わかりました、ありがとうございました」


 なんとなく順調にすすんでいるようである。少なくともこのときは。

 後日、腰痛問題が別の意味で憂鬱な形で降りかかってくるとは――――たぶん、神さまでさえ予想していなかったと思う。

 そう願いたい。


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