(1)わりとまじめな前書き
できるだけ、堅苦しくなく書ければと思います。不定期更新。
ドナー。
知っているようで、正確な定義を明快に言える人は少ない用語である。
WIKIで検索してみると、
ドナー (donor) は、「提供者」を意味する英語
(ラテン語: donator < dono/donare 「贈り物をする」より)。
と、なっている。
医療のほうで使われると臓器提供がすぐに思い浮かぶ方も多いだろうが、今回わたしが遭遇したのは「骨髄提供」のほうである。
骨髄とは、文字通り骨の髄液のこと。そう書くとなんだか恐ろしい気もするが、ドラマや有名人の報道で白血病という病気が周知されると同時に、「骨髄バンク」という言葉と付随して多少は耳に入っているのではないかと思う。
そう、わたしはその「骨髄バンク」に登録して、見事ドナーに当選してしまったのだ。
* * *
骨髄バンクは、誤解を招きそうな名称だが、骨髄を集めて保存している場所ではない。あくまで病気の治療のため他人の骨髄を必要とする患者さんのために、骨髄提供をしてくれそうな人および骨髄提供の場の仲介をしてくれるところである。
もう一歩突っ込んで書くと、バンクに登録するのに骨髄を採られる必要は特段なく、骨髄提供への説明と普通に想像される血液検査を行なうだけで充分なのだ。
保存され、かつ重要なのは、登録者のデータである。
ざっくり言えば血液型。厳密にいうならHLA型という白血球の種類は、個々人によってかなり違う。
どれくらい分かれるかというと、HLA型はまずA座、B座などという「6種類の座」に分かれ、その中でさらに「A1、A2…」と数種から数十種類に細分類される。そしてそのまた「A2」の中でも「0201、0206…」と区別されるのだ。
間違うなかれ。ひとりにつきひとつの「座」ではない。数種から数十種類に細分類される「6種類の座」(6抗原とも言う)をさまざまに組み合わせて持っているのだ。
例として書くとこんな感じだ。
A**B**Cw*DR**DQ*DP**
そしてさらに。
二重鎖のDNAをもつ宿命か、われわれヒトは、このHLA型を両親から一種類ずつ受け継ぐ。
つまり結果として――「数種から数十種類に細分類される『6種類の座』をさまざまに組み合わせたもの」を二種類、自身の中に装備しているのである。
A**B**Cw*DR**DQ*DP**+A*B**Cw**DR*DQ**DP*(←これで一人分)
太古よりウィルスや細菌と戦ってきた免疫システムの成せる業は偉大だ。偉大というか膨大だ。
このデータから適合者が探される。
もちろんデータにも重要度の高い低いはあるが、想像するだけで頭が痛い。
適合率は、島国日本のこと、わりに高い。いただいた資料とWEBの情報によると、血縁者間で約30%。非血縁者間では数百~数万人に一人だそうだ。
ドナー登録者では、適合した人は約29.6%(1992 年から2005年3月まで)。血縁者間とあんまり変わらないようだが、実際骨髄提供をした人は2.4%となっている。
ひるがえって患者視点でみると、骨髄バンクに登録して適合者が見つかる確率は約95%である。そう聞くと登録しがいがあるようだが、実際にはわたしが登録してから十数年、とんと音沙汰がなかったのだ。
放置もいいところ――とはいえ、放置されて期待外れというわけではない。むしろその他大勢の登録者さんと同じように、何事もなく期限が過ぎる(適合期限は18歳~54歳まで)だろうと踏んでいたのだ。
ところが、わたしが踏んだのは違ったものだったらしい。ある日オレンジの封筒が届いた。
そこからドナーな日々が始まった。