あたたかい出会い。
【再掲】2012/12/16初投稿。
先日タイ料理を食べに行ったら、デザートにバナナが饗された。
果実そのものではなく、1センチほどの厚さに切ったバナナを春巻きの皮に包んで揚げた「揚げバナナ」である。仕上げに粉砂糖まで振りかけられたそれは、熱々甘々で絶品だった。
そこで思い出したことがある。
「焼きバナナ」の存在だ。
「バナナはおやつに入るんですか?」
という質問が鉄板ネタになるくらい、バナナはわれわれの日常生活に馴染みの深い果物だ。
子どものころは、夏場になると冷凍庫で凍らせてアイス代わりに食べていたこともあったが、一般には生食、あるいはパンやケーキに混ぜるくらいの食べ方がほとんどである。
そのバナナをなぜか、どういう経緯か忘れたが、南の島にいた若かりし頃バーベキューで焼いて食べようという話になったのだ。
みんなお酒を呑んで、軽くはっちゃけていたことは否めない。言い出したのは、「食べられるか食べられないか」が分類の第一定義だというやつで、かれはなんと近くに生えていたパンノキの実まで一緒に網の上に乗せてしまった。残念ながらまだ熟してなかったのか、その実は渋くて食べられなかったが、匂いだけは本当に焼きたてのパンのようなかぐわしい香りだった。
一方、焼きバナナはどうかというと、わりと普通である。皮が真っ黒になるまで焼いても中身は無事で、あのさっくりした食感がしっとり、ねっとりする程度。肉や野菜に飽きた頃のデザートに、ちょうどよい感じであった。
確かいろいろ試した結果、「甘いバナナよりもちょっと青いバナナのほうが美味しい焼きバナナになる」という結論だったように記憶している。
だからどうした、と言われればそれまでだが、生食でも素のまま焼いてもイケるとは、なかなか気骨のあるやつではないだろうか。
バーベキューをされる際には、ぜひお試しいただきたい。
「焼く果物」ということで、もうひとつ思い出す食べ物がある。
寒いこの季節にぴったりな「焼きみかん」だ。
全国的な知名度は、残念なことに林檎に比べて微妙と思う。かく言うわたしも、『埴色』の職場ではじめて遭遇したものだ。
作り方は簡単。
ストーブの上に皮のままのみかんを直に置き、ときどきひっくり返しながら全体をあぶって焼く。皮に焦げ目がついたらできあがり、である。
味は――「あたたかいみかん」そのものだ。あたたかさのせいで酸味がほどよく緩和され、甘みが増すというよりはマイルドになる。
味の好みは分かれるところだ。酸っぱいみかんが好きな方には、違和感があるかもしれない。
それでも、想像できないしありえない、などと思う前に、一度試して欲しい。なにしろこの「焼きみかん」、ネットで検索してみると、嘘か真か焼くことにより皮のさまざまな効能成分が果実にうつり、生で食べるより体に良いとあるのだ。
食わず嫌いなどせず、いつものみかんに食べ飽きたら、挑戦してみることをお勧めする。
なにに対するチャレンジかと言われると、それはまた言葉に困るのではあるが。
* * *
ある新聞記事によると、家庭で食べられる果物ランキングで、ここ数年はみかんを抜いてバナナが1位を獲得しているという。
そのままでよし、冷凍してよし、焼いてよし(?)のこの両者。
日本生まれ日本育ちのみかんを応援したい気持ちはあるが、そもそも味も食感も含まれている成分も、まるで方向性が違う。みかんにはビタミンCが豊富で風邪予防に効くと言われるし、バナナは素早いエネルギー源としてスポーツやダイエットに有効との話だ。
加えて言うならば、草本であるバナナは厳密には「野菜」なのだという。同じ意味でイチゴもスイカも「野菜」である。比較の根本から揺らいでしまいそうだ。
生産者にとってランキングは気になるところであろうが、消費者としてはそれで切磋琢磨してより美味しい食材が手に入れば御の字だ。和を尊ぶ日本人らしくそれぞれの特徴をうまく生かして、色とりどりの食生活を上手に送れたらよいと思う。
一時期の健康ブームなどにとらわれない、末永い付き合い方を。
一度口にしたら、哀しいかな、必ず消費されてしまうのが食べ物だ。
食事は、そのたびごとが一期一会。
一度きりの出会いを大切にしたい。
焼きみかんは、北陸・東北・九州などいろんなところで食べられているようですね。
専用のみかん焼き器もあるようです↓
http://item.rakuten.co.jp/saji/10000416/