おじいのズボン~夢色の島・番外~
島国である日本の中でも、特にO県は島で成り立っている県である。離島として認められている島だけで、なんと54もあるという。
そんな島の集合体であり、おおらかな風土漂うこの地域にも、厳然とした境界線が存在する。それは本島と離島という、ある意味分かりやすい線引きである。
このことを突っ込むと言葉を濁す人もいるが、本島の人たちは離島の住民とあえて線を引こうとする向きすら、わたしには感じられた。付き合いはするが、コミュニティに入れることは歓迎しない。
わたしたち内地の人間からすると差異はそれほどないように思えるのだが、習慣や価値観などにおいて、彼ら的基準でかなり異なるようで、なかば本能のように交わりあうことを嫌う。
そして「島から来た」ということは、その微妙な方言の違いで、結構な確率でばれてしまうのだ。
「ライオンズマンションって言ってみて」
「らいおんずまんしょん?」
「あ、I島の人でしょ」
字にすると分かりにくいが、イントネーションが見事に違うのだ。
一般的に「ライオンズマンション」という単語は、「らいおんず(→アクセントなし)まんしょん(↓語尾が下がる)」と発音される。これが島の人だと、
らい(語尾上がる↑)おんず(徐々に下がる↓)まんしょん(語尾上がる↑)
と、いう感じに、イントネーションが変化する。
しかも、このことを本人たちは気づかないので、なぜその単語を繰り返し言わされるかがよく分からかったりする。勿論、言わせるほうも悪気があるわけではなく、ほとんど挨拶代わりだ。
「あい、訛ってるぅ~」と笑いながら、普通に挨拶が続けられる。ほがらかなわりにナイーブなところのある島の人は、それを笑顔で流しながらも、その線引きを黙って受け入れるのだ。
ところで、こうやってイントネーションの違うことで島の人と境界を持つ本島の住人も、やはり内地からすると、かなり訛っている。
最近の若者たちはテレビの影響もあって、おじいやおばあ(注:おじいさんとおばあさん)の使う正しい「うちなーぐち(沖縄の方言)」を話せる人は減ったらしいが、それでもわたしの喋るH県の方言が標準語に聞こえてしまうくらいには訛りが強い。
ある友人の車に乗っていた時のことである。
洋楽好きの友人は、わたしともう一人を家まで送り届ける車内で、Ozzy Osbourneを流していた。知らない人に説明すると、彼はちょっとぶっ飛んだキャラのへヴィ・メタル・ミュージシャンである。学校帰りのテンションをあげるのはもってこいだ。
わたしと運転をしてくれる友人はゴキゲンだったが、もう一人の子は、あまり音楽に詳しくない。
「この人、なんて人?」
「オジー・オズボーン」
「おじい?」
「オジー・オズボーン!」
ここでポイントなのが、教えた人も教えられた人も、うちなんちゅだということだ。イントネーションを表わすとこうなる。
おじぃ(やや下がる↓)・おずぼーん(徐々に上がる↑)
これを個人名だと知らないうちなんちゅが聞くと、結果、
「おじいのズボン?」
確かにオジーは、「おじい」なので、ある意味間違いではない。しかし、絶対的に誤りである。
訂正しようにも、イントネーションがそうである以上、もう「オジー・オズボーン」は「おじいのズボン」以外の音に聞こえてこないから話はややこしい。
「違うってば! おじぃ・おずぼぉーん!」
「おじいのズボンでしょ?」
「……もういいよ、それで」
かくして、かの〝悪魔の使い〟オジー・オズボーンは、極東の島国のさらに南の島のごく一部で、極めてほのぼのとした名前で呼び称されることとなった。
数々の伝説をもつかの人の性情を察するに、こんな呼ばれ方など歯牙にもかけなさそうだが、その友人には一度「おじいのズボン」を生で見せてみたいと思う。わたしのひそかな野望だ。
是非彼には、来日の際、南の島にも足を伸ばしてくれることを期待する。
オジーに関して、こんな記事見つけました。
やっぱ軽く人間超えてるわ…(笑)
http://rocketnews24.com/?p=55663
(やっぱり普通じゃなかった! オジー・オズボーンの遺伝子は特異であることが判明)