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鴇色雑記  作者: 鴇合コウ
いろいろ雑記
17/55

白い呪い

くだらない話です。。。


 日本人は、日常生活周辺機器の利便性の追求に、異常なこだわりをみせる属性をもつと常々思っている。

 例えば、かの有名なトイレのウォッシュレット。今や人に反応して便器の蓋が開け閉めするのは当然、使用時間によって流す水量を調整する機能まであるという。

 手をかざすだけで水が出てくる蛇口。濡れた手を乾かしてくれる温風乾燥装置。

 どれをとっても素晴らしいのだが、残念なことに、便利なことは決して良いことばかりではないのが現実だ。



 三連休の初日ともなる土曜の夜、わたしは同級生4人と連れ立って、夕食を食べに行った。目的はどちらかというと食後のお酒とてらいのないお喋りなのだが、お腹が減ってはどうにもならぬというので、まずは腹ごしらえと相成ったのだ。

 選んだのは時間制限なしのバイキングで、これでもかと最後デザートまで詰め込んだ後、わたしは友人一人と共にそそくさとお手洗いに向かった。

 用を済ませ、手洗い場のサイドスペースに鞄を置き、手を洗ってハンカチを取り出そうとしたわたしの目に飛び込んできたのは――なぜか泡まみれになった自分の鞄の姿だ。

 どうやら、手洗い桶の傍にあった白い小さな箱型のものは、センサー式の石鹸であったらしい。レバーなどを押さずとも、手をかざすだけでホイップされた清潔な石鹸が噴き出されるという、画期的代物だ。


――あーあ、馬鹿なことをしたなあ。


 迂闊にもその直下に鞄を置いてしまったわたしは、苦笑しつティッシュを取り出し、泡を拭き清めた。自分の不注意が悪いのだから、仕方もない。

 が、改めて鞄を脇へ避けると、またも反応したセンサーが、しゅるる、と何もない床へ泡を噴き出した。


――いや、もう分かったから。


 慌てて、もう一度丁寧に泡を拭き取ると――ふしゅるる。

 歯擦音に似た軽い音と共に、洗練された貴族のように取り澄ました白い泡が、再び洗面台横のスペースに山盛りになった。


――拭くとセンサーが反応するなら……。


 息を止め、人の限界の素早さで泡を取り去――ふしゅるるる。


 三度(みたび)現れた白い泡の山を、ぎりぎりとわたしが睨んでいるところへ、用を済ませた友人が出てきた。

 何をしているのかと問われたので、かくかくしかじかと事情を説明する。

「なにを途方に暮れてるのかと思えば」

「だって、鞄ってどうしても横に置くじゃない。まさか泡が出てくるとは思わないし」

 自分の迂闊さを棚に上げて、わたしは自己弁護に走った。

「だけど、これってもう無理じゃない?」

「でも、こう手早くさっと拭けば――」

 ふしゅしゅ。

 わたしの努力をあざ笑うかのように、あがけばあがくほど、白い泡の山は高度を増していく。

「だから無理だって。……あ。センサーを指で隠してその隙に拭く……のも、一緒か」

 結局わたしたちは、センサーが反応するなら何をしたって同じである、という結論に達し、泡の山をそのままに敗北感いっぱいで席に戻った。


 その話を聞かせた他の友人たちの反応は、当然爆笑である。それから、

「じゃあ、行くついでに確認してきてあげるよ」

という流れになり、別の二人が連れ立って敵地に赴いていった。数分後。


 どうだった、と聞くまでもないくらいイイ笑顔で二人が帰ってくる。

「分かったよ、うん。頑張った跡がよく分かった」

 いや、そこを確認して欲しいのではなく。

「え、じゃあ拭いてきてくれた?」

「そのままに決まってるじゃない」

 なんて友達甲斐のない人たちなのだろう。

 握り拳を作りそうになるわたしに、別の友人が言い出す。

「それって、片手で泡を受けて、その間に拭けばいいんじゃない?」

 おお、ナイスアイディア!

 で、その成果は?

「え、言ってみただけ」

「……」


 たぶん、いやおそらくかなりの確率で、わたしと同じ失敗をした人がいるはずなのだ。いるはずなのだと信じたい。

 信じる者は救われ――たいわけではなく、むしろ泡を掬いたかったのだが、自分の駄目さ加減をよく分かっているわたしは、心の中で両手を合わせて頭を下げると、友人たちとその店を後にした。

 あの白く呪われた泡の山が、他の人への警告となるように祈りつつ。


 そして次なる世代には必ず、人の動きの違いを感知して泡の吐出をコントロールできる自動泡石鹸装置ができることを願いながら。




  


天○屋さん、すみませんでした…。

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