チャイムの鳴る校舎
それは、梅雨入りしたばかりの6月頃。
高校の同級生だった友人の金村と喫茶店に訪れたときの事だった。
お昼時だったにも関わらず、席がほとんど埋まっていなかったのを覚えている。
「ねぇ、隣町の廃校になった中学校覚えてる?」
それまで社会人になってからの近況や恋愛話を語っていた彼女が、一変して訳ありの話を持ち出してきた。
私が頷くと、彼女はその話をするのを躊躇っているのか、ゆっくりと逡巡しながら言葉を紡いでいく。
「その校舎、この間取り壊しの工事が始まったんだけど、急に中止になったの」
「どうして?」
私は、彼女の話をなるべく邪魔しないほどの質問や相槌を打っていく。
「その校舎には耳の聞こえない女子生徒が1人いたの。その子は筆談なんかでコミュニケーションを取ろうとするんだけど、クラスでは馴染めなくて」
彼女は運ばれてきたアイスコーヒーにミルクや砂糖を入れながら話を続ける。私の注文したホットコーヒーは私の手元でゆっくり熱を失い始めていた。
「その後すぐ、クラスで浮いていた彼女をある男の子が執拗にちょっかいをかけ始めたの。次第にクラス全体でいじめが蔓延して。耐えられなくなった彼女は……」
彼女はコーヒーをストローでくるくると回しながら、その後は口にしなかった。
「それで、志願者が減って廃校に?」
「そう。そして、新しい学校を作るために取り壊しが始まったんだけど、ここで事件が起こるの!」
彼女の語彙が急に強くなる。
「その工事現場、学校だったこともあってか住宅街の近くにあったの。朝や昼に多く作業するんだけど、日に日に工事の音が大きくなって、住民からの苦情が相次いだの」
今まで右から左に聞き流していた私も少し前のめりになる。
「でも、工事の人達はほとんど音を出していないと口を揃えて言う。その後すぐ、全員が聴力を失って工事が中止になったの。その人たちが最後に聞いた音が耳鳴りがするほどのチャイムの音だったって話。どう? 怖かった?」
彼女は笑って話を切り上げるので、先ほどまでの重い雰囲気が嘘だったのだと少し安心した。
「実際にあったなら怖いけど、美優の作り話でしょ?」
「って思うじゃん? 私も人伝に聞いたから分かんないんだよね。でもこの間、気になって何人かで行ったんだけど、なにもなかったよ?」
「え! 入ったの?」
彼女はあっけらかんとそんなことを口にする。
別になにもなかったからって入って良い場所じゃないのだけれど。
「ちょっと肝試しついでに? 聴力は失くなってないしー。でも、変な音聞こえるんだよね」
「どんな音?」
「チャイムの音がなんか微かに?」
「もー! 心配して損した。作り話はもう良いから」
私がそう言うと、彼女は笑って誤魔化す。
その数日後、美優は聴力を失った。




