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(๑'ᴗ'๑) 婚約破棄され系女子 ( 漢 ) の生き様伝  作者: よっちゃん


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【四】顎クイ系女子~美女と野獣の恋物語?

――今北産業。【壱~参】。

TS転生系悪役令嬢――公爵令嬢、覇姫エレクシア。

醜女系女子、元侯爵令嬢、醜姫ブス・グロリア。

美と醜がガチで殴り合ったが決着はつかず。

 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 醜女よ、俺に貴様の愛羅武勇をよこせ

 おなごの顔面の造形など、漢にとって些末な事。

 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 王都の灯が遠く滲む丘の上、 公爵家本邸は今や婚約破棄を狩って回る“覇天軍”の根城と化していた。庭には見張りが立ち、廊下には武装した兵が控え、屋敷そのものが一つの要塞。

 本来なら舞踏会の音楽が流れるはずの大広間には、鎧が立てかけられ、軍旗が垂れていた。


 その奥、暖炉の炎だけが静かに揺れている。


 公爵令嬢にして覇姫(はき)――エレクシア。


 月光を浴びながらなお、その横顔は夜に属さぬ光を()びていた。

 銀の髪は聖冠(せいかん)のごとく淡く(ふち)()られ、白磁(はくじ)の横顔は静謐(せいひつ)にして峻烈(しゅんれつ)、触れれば焼け落ちるかのような気配を宿している。

 月は彼女を照らしているのではない。

 ただ、その美を映すことを許されたに過ぎぬ。

 それが、覇姫という存在であった。


 傍らには男爵令嬢リリアーナ。

 婚約破棄のあの日以来、彼女は覇姫の影となった。


 静寂。


「エレクシア様、どうなされたのですか?」

「リリアーナよ、貴様は愛とは何か知っているか?」 「愛……ですか」


 リリアーナは炎を見つめたまま、静かに答える。


  「私は貧しい男爵家を支えるため、幾度も男に愛を(ささや)きました。あの言葉は、私にとって刃と同じです。相手の心に入り込むための」


 小さく首を振る。


「ですが……私自身が、誰かを愛したことはございません」


 炎が、ぱちりと()ぜた。


「かつて俺の師が言っていた」


 エレクシアの声音(こわね)は低い。


「愛を知る人間こそ強者(きょうじゃ)

 愛を知らぬ者に天は握れぬと」


 前世の最期を思い出す。守るものはなかった。背負うものもなかった。ただ、(いただき)だけを見、孤独のまま倒れた。

 ――覇王の敗北。


 しばしの沈黙。


「……愛を(ささや)くとは、どういう言葉だ」


 わずかな間ののち、リリアーナは答える。


「それは、よく使われるのは――“愛してる”。

 あるいは “I love you” です」


 炎が揺れる。


「……(あい)()()()か」


 エレクシアはその音を反芻(はんすう)する。


(あい)死天流(してる)、男を殺す必殺の(ことば)


 低く、確かめるように。

 リリアーナが小さく頷く。


「男の耳元で(ささや)くのです。 あ・い・し・て・る、と」


「ふむ、やはりな」


 エレクシアは腕を組む。


(あい)()()()、それは一子(いっし)相伝(そうでん)か?」


 わずかに目を細める。


「……え? 一子(いっし)相伝(そうでん)ですか? それは、私にはよく分かりませんが、昔から使われている言葉です」


「古代から続く男殺しの暗殺拳か」


 リリアーナが固まる。

 エレクシアは続ける。


「愛を(ささや)き心を奪い、理を狂わせる」

「死とは、それすなわち己を失う事」

「天を掴もうとするのではなく」

「流す……送り出す、か」


「つまり――愛死天流(あいしてる)とは、武ではなく感情で殺す、有情(うじょう)の暗殺拳!」


 リリアーナが恐る恐る口を開く。


「あの、エレクシア様、それは……」


 炎が揺れる。


「そして(あい)()()(ゆう)!」


 エレクシアは目を閉じ、その音を吟味する。


「愛を(つら)ね、武を(いさ)む」

「“愛”とは情ではない。己を削り、他者を守る覚悟」

「“羅”とは網。すべてを受け止める器」

「“武”は力」

「“勇”は恐れを踏み越える意志」


 瞳が細まる。


「つまり(あい)()()(ゆう)とは」

「愛を抱いたまま、戦い、守り抜く覚悟。

 まさに愛死天流の極意がここにある」


 (まぶた)を開く。

 その瞳には、光が宿っていた。


「師の言葉、愛を知らぬ者に天は掴めぬとは、

 愛死天流(あいしてる)の極意、愛羅武勇(あいらぶゆう)を纏うこと!

 あの爺めが、その奥義を教えぬとは!

 ならば……俺自ら、愛を、知らねばなるまい!」


 低く(つぶや)く。


「あの醜姫(しゅうき)の悲しき瞳の色、やつは愛羅武勇を知っている」


 ふ、と唇がわずかに(ゆが)む。

 炎が、その横顔を静かに照らしていた 。


「ふふ、見きったわ」

 

 続けて


愛死天流(あいしてる)の極意――愛羅武勇(あいらぶゆう)

「愛を(まと)い、天を掴む技……か」


 そして――


「俺は――あれを、砕けなかった」


  ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 冒険者ギルドの酒場は、今夜も騒がしかった。笑い声、酔った罵声、卓を叩く音。

 オレは隅の席で、ひとり酒を飲んでいる。


「見ろよ、あの顔。とんでもねえ醜女(しこめ)だ」

「うげえ、あれでよく表を歩けるよな」

「あの顔のせいで、貴族の世界から追放されたらしい」


 こんな誹謗(ひぼう)など、聞き慣れた声だ。

 視線も、(あざけ)りも、もう数え切れない。

 オレは何も言わず、(さかずき)を傾ける。

 酒は少しぬるい。


 ――名ばかりの侯爵令嬢であった日々よりは、今の冒険者としての生活も悪くはない。


 赤い覇姫のことを思い出す。

 あまりに圧倒的だった。力も、技も、格も。

 オレでは全く歯が立たなかった。

 あの瞳は太陽だ。(まぶ)しく、強い。

 だが――寄る者を焼き払う光。

 奪う光であって、守る光ではない。まして背負う光でもない。

 ただ――焦がすのみ。


 オレは杯を置いた。

 それが、あの覇姫の弱み。


 そのとき、急に外が騒がしくなる。


「覇天軍だ!」

「赤い旗だぞ!」


 酒場の空気が凍る。


 ……来たか。

 オレを殺しに来たのかもしれない。気が変わったのだろう。あれほどの力を持つ者が、敗者を生かしておく理由はない。

 オレは立ち上がらない、逃げない。

 覚悟は……とうに出来ている。

 婚約破棄をされ、貴族社会を飛び出したあの日から。


 次の瞬間。

 酒場の扉が轟音とともに弾け飛んだ。破片が舞い、冷たい夜気が流れ込む。


 赤いドレス、揺れる銀の長髪。

 やはり美しい――美の太陽のような覇者。

 覇姫エレクシア。


 歴戦の冒険者たちが一斉に膝を折る。武器を握る手が震える。誰も、目を合わせようとしない。


 エレクシアはゆっくりと酒場を見渡し、そして、まっすぐオレの前へ来る。


「醜女よ」


 美しく、低く、静かな声。


 逃げ場などない。


 次の瞬間。

 白い手が伸びた。

 (あご)を、くい、と持ち上げられる。


 視線が絡む。


 近い、顔が近すぎる。

 吐息がかかる。甘い香りと、微かな鉄の匂い。

 太陽の熱が、肌のすぐ前にある。

 息が止まる。息を吸えば、触れてしまいそうな距離。


 同じ女だというのに――

 眩暈(めまい)がした。この距離で見ても、なんと美しいことか。

 いや、この距離だからこそ、焼ける。


 エレクシアの瞳が、オレを覗き込む。

 奪う目、逆らえぬ目、まさに美の覇姫。

 背筋が凍る。


 ――殺られる。

 もう、だめだ。

 そう悟った、その瞬間――


「貴様の、(あい)()()(ゆう)を、俺によこせ!」

 

 そして、エレクシアの親指が、わずかに(あご)をなぞる。


「俺に、(あい)()()()を伝えろ」


 世界が止まった。

 死を覚悟し、受け入れた矢先の告白に、思考が追いつかない。


「……え、えええ?」


 間の抜けた声が、漏れた。

 I Love Youをよこせ? 一体どんな意味だ?自分だけを愛せって事か?

 そして、愛してるを……伝える?

 頭が追いつかない。心臓の鼓動がバクバクとうるさい。この醜の人生で、そんな言葉を一度も聞いた事がない。


 と、とにかく何か答えなければ。


 酒場の奥から、どっと笑いが起こる。


「おい、聞いたか?」

「覇姫さまが、あの醜女(しこめ)に、なんつった?」

「何かの余興か? それとも罰ゲームか?」

「美女と野獣ってレベルじゃねえぞ……」

「ギャハハ、醜女(しこめ)の野郎、顔が赤くなってやがる!」

「覇姫さま、人間未満のその醜女を、からかわないでやってくださいよ」


 聞き慣れた嘲り、聞き慣れた悪意。

 胸は痛まない。

 慣れている、慣れている、はずだ。


 それでも……今は、今だけは――



「黙れ(ごみ)(くず)共」



 低い声が落ちた。

 酒場の空気が凍る。笑いが、ぴたりと止まる。

 顎を掴む指は離れない。


 エレクシアはオレから視線を外さぬまま言う。


  「貴様ら有象無象(うぞうむぞう)に、この女の何が分かる」


 静寂。


(わら)うことでしか己を保てぬ弱者が」

強者(きょうじゃ)(ぼう)を語るな」


 膝をつく者が出る。視線を伏せる者が出る。


「……へへ」


 空気を読めぬ、酔った愚かな冒険者が、よろりと前に出る。


「覇姫さまが、愛がほしいってんならよォ……」


  下卑(げび)た笑みを浮かべる愚者。


「このあっしが、手取り足取り――」

「……焼け」


 一瞬の間。

 轟音とともに炎が吹き荒れる。


「ヒャッハー、汚物は消毒しますわ♡」


 悲鳴は一瞬だった。

 焦げた匂いが広がる。


「……」


 誰も息をしない。


 エレクシアは振り向かない。ただ、オレだけを見ている。

 顎を掴む指に、わずかに力がこもる。


「……見よ」


 低く、断じる声。


「この(ぼう)は、強者の(ぼう)


 ごくり、と誰かの喉が鳴る。


「挑み続け、戦い抜いた者の顔だ」


 女神の甘い吐息がかかる。

 頭がクラクラする。


「顔面の造形など些末」


 瞳が、まっすぐオレを射抜く。

 鼓動が跳ねる。


 称えられた。醜女だ、化け物だとしか言われたことのないオレが―― 初めて。生まれて、初めて、誰かに褒められている。


 エレクシアの指が、ゆっくりと動く。顎を掴んでいた白い手が、力を緩める。


 逃がすのではなく――撫でるため。


 指先が、頬の傷跡をなぞる。

 まるで、壊れ物を扱うかのように。

 ざらりとした感触。 それでも指は止まらない。


 ゆっくりと、優しく。頬から、こめかみへ。

 親指が、唇の端に触れかける。


 息が絡む。

 近い。 あまりにも近い。


 ただ、見つめる。


「……醜い、だと?」


 囁くような声。

 その指が、もう一度、頬を撫でる。


「これは、この覇姫に挑んだ者の顔」


 熱い吐息が、唇にかかる。

 熱が込み上げてくる。体が熱い。


 指が、そっと止まる。逃げ場はない。だが、恐怖はない。 ただ、熱だけがある。


 そして――


「この目」


 低く、確信に満ちた声。


「哀しみを背負い」

「自ら醜を纏い」

「それでも愛を捨てぬ目だ」


 酒場は静まり返る。

 もう笑う者はいない。


「愛というものを知らぬ俺にとって……」

「この瞳は、何よりも美しい」


 溢れそうになる涙を(こら)える。


「俺に愛を教えろ」

「ブス・グロリア」


 そして――


  「――俺の隣で」


 その言葉が、酒場の天井に静かに吸い込まれていった。



 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★


 成楼(なろう)書房刊『異界武術大全・改訂第七版』より


 ―― (あい)死天流(してる) ――

 古代東方に伝わるとされる一子相伝の暗殺術。

 主に男性を対象とし、心理操作・色仕掛け・致命の一撃を一体化させた必殺流派。

「愛してる」と囁いた瞬間、相手は既に詰んでいる。

 ちなみに現代でも、意中の相手に想いを伝える際は「愛してる」と言うが、この暗殺術の名が由来というのが通説である。



 ――(あい)羅武勇(らぶゆう)――

 愛死天流の奥義にして真髄(しんずい)

 対象の心を完全掌握し、自ら破滅へと歩ませる境地を指す。

 武勇とは武力ではなく、「心を制する勇」である。

 現代ではこれを「告白」と呼ぶが、相手に武の心得があれば、術は容易く反転し、己が破滅へと堕ちる危険もある事は言うまでもない。



 ――(あい)堕射(たい)――

 愛死天流・秘奥義。

 瞳を潤ませ、上目遣いの視線と、甘い言葉のみで心を射抜き、対象を恋慕と錯覚させる精神侵食技。防御不可。


挿絵(By みてみん)

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