【春休み特別企画②】 覇姫エレクシア探検隊 ~ 密林に潜む未開の婚約破棄部族を追え!
続き
テーマソング二番
♪行く手を阻む 巨大な魔の沼♪
♪底なし沼が 侵入者の 行く手を阻む♪
♪巨大なピラニアが 沼より現れる♪
♪エレクシアの 白い脚が 怪魚を蹴り飛ばす♪
♪さらに密林を 進むと♪
♪奇妙な足跡が 続いてる♪
♪人のものとは 思えない♪
♪不思議な足跡だ♪
♪密林の奥地に 原住民発見!♪
♪腕には何故か スマートフォン♪
♪この密林には まだ誰も知らない♪
♪恐るべき秘密が 隠されている♪
♪ゆけ ゆけ 覇姫エレクシア♪
♪ゆけ ゆけ 覇天軍女子♪
♪ゆけ ゆけ 未来のために♪
♪密林の奥へ!!
──────────
密林の奥地――
粗末な石造りの祭壇の前に、ひとりの男が立っていた。
羽飾りと骨の装飾を身にまとい、異様な威圧感を放っている。まさに未開の部族といった出で立ち。
どうやら、この集落の長――あるいは司祭のような存在らしい。
男は、目の前の女に向かって厳かに告げた。
「――■■■■■ ■■■■■ ■■■■」
我々には、彼らの言葉の意味は分からないが、険悪な雰囲気なのはわかる。
「――……ッ」
女はその場に崩れ落ち、顔を覆い肩を震わせる。
女は明らかに打ちひしがれている。
間違いない。
言葉、文化は違えど、繰り返される婚約破棄。
その時だった。
「婚約破棄野郎は消毒だー!」
婚約破棄あるところに覇天軍あり!
エレクシア率いる覇天軍が乗り込んでくる。
司祭らしき男はゆっくりと振り向いた。
そして、何かを叫ぶ。
「■■■■■ ■■■■■!!」
当然、未開の部族の言葉は分からない。
覇天軍女子たちも沈黙したまま動かない。
――言葉が通じない中、一触即発の空気が流れる。
その時だった。
司祭はゆっくりと祭壇へ歩み寄った。
そして、石の台の上に置かれていた、奇妙な四角い板を恭しく手に取る。
司祭はそれに向かって、何やら話しかける。
しばしの沈黙。
やがて、四角い板が奇妙な声を発した。
翻訳
『貴方たちはどちら様ですか。私は関心がございますよ』
「……」
空気が、わずかに緩んだ。
司祭はそのまま、四角い板をエレクシアたちへ差し出し、ジェスチャーで何かを伝えようとする。
「……この四角い板に向かって話せ、ということか」
四天王の一人、メスガッキーナが最大限の警戒を維持したまま、四角い板を受け取り叫ぶ。
挿絵(四天王メスガッキーナ)
「ざーこ、ざーこ!
婚約破棄あるところに覇天軍ありなんだよ!!」
翻訳
『■■■■■■■ ■■■■■■■ ■■■■
■■■■ ■■■■ ■■■■■■ ■■■■ ■■■■ 』
「……?」
司祭は無言で頷き、再びスマートフォンに語りかける。
「■■■■■■■■
■■■■■ ■■■■■ ■■■■■■!?」
数秒後。
機械音声が流れる。
翻訳
『貴方様方は、魔の沼がございます。そして、どのようにして、お渡りになりましたか。私めは関心がございますよ』
「……あー」
リリアーナが、気の抜けた声を出した。
「あの沼ですか」
「ええ、ありましたわね」
覇天軍女子たちの視線が、自然と遠くへ向く。
黒い水面。
底なしの魔の沼。
あの時の光景が、脳裏に蘇る。
──────────
数刻前。
覇天軍女子たちの行く手を、巨大な魔の沼が遮った。
見渡す限りの黒い水面。
対岸までは、ざっと見積もっても千メートルはある。
しかもただの沼ではない。
船も浮かばない――底なしの魔の沼である。
普通の軍隊ならば、この時点で進軍は不可能だろうが、覇天軍女子にはいくつかの奥義がある。
「覇天軍直進行軍」
どのような地形であろうと、気合いでただ真っすぐに進む。さすれば、障害物は全てなぎ払われる。
それが覇天軍の誇る行軍術である。
理論上は、沼であろうが問題ではない。
しかし――
「ドレスが濡れちゃうよ」
「ええ、それは困りますわね」
さすがに淑女たちは顔をしかめた。
沼に潜む魔物などどうとでもなるが、小汚い沼にドレスの裾を浸すなど、貴族令嬢として到底許されるものではない。
リリアーナが、ふと口を開いた。
「……万漢橋、という手もございますわね」
場の空気が、わずかに張り詰めた。
万漢橋――
それは覇天軍に伝わる古式行軍術の一つ。
兵が己の肉体を橋とし、谷や川を強引に渡るという、まさに漢の中の漢のみが扱える技である。
「しかし今回の距離は、約千メートルですか……」
リシェルが冷静に言った。
「単純計算で、千人以上は必要になりますわね」
「その程度なら出来ないこともありませんが……」
「いえ、そもそもドレスも汚れるし、今回の探検は小部隊で来ましたからね」
「ふむ、却下ですわね」
万漢橋案は即座に却下される。
隊員たちの様子を見て、エレクシア隊長は小さく頷いた。
「……淑女として、ドレスは決して汚してはならぬ」
覇天軍女子にとって、ドレスの美しさは漢の生き様のひとつ。
それを損なうような作戦は、採用されるはずもない。
しばし沈黙が流れる。
黒い水面の向こうには、静かに対岸が横たわっている。
その距離、千メートル。
常識では、渡る術はないが……
エレクシア隊長はゆっくりと前に出た。
「それならば、あの方法で行けば良い」
そう言うと隊長は、空中に手を差し入れるような仕草をし、スキル『アイテムボックス』から、ずるりと鋼鉄製のロープを引き出した。
隊員たちが息を呑んだ。
「まさか……」
「ああ」
エレクシア隊長は静かに答えた。
「覇天軍滑空渡河を使う」
まるで最初から用意されていたかのように、ちょうど良い高さの太くて丈夫な木がそこにあった。
隊長は軽々と跳び上がり、太くて頑丈な枝にロープを結びつけた。
そしてロープの端を手に持つ。
「では、少し行ってくる」
そう言うと――
エレクシア隊長は、魔の沼へ向かって走り出した。
沼の表面に足が触れる。
常識で考えるならば、その瞬間に沈むのだが。
言うまでもないことだが、足が沈む前に次の一歩を踏み出せばいい。
理論上は十分に可能である。
エレクシア隊長の紅いドレスが風をはらむ。
魔の沼の水面を、まるで大地を走るかのように駆けていく。
――水面踏破。
実行できる者は、この世にほとんど存在しない。
エレクシア隊長は軽やかに沼を走り続けた。
背後では鋼鉄ロープが一直線に伸びていく。
その時だった。
黒い水面が、突然――盛り上がった。
――ドォン!!
巨大な影が、水中から次々と跳ね上がる。
全長二メートルはあろうかという、
人を喰らう巨大ピラニアの群れ。
口いっぱいに並ぶ鋭い牙。
濁った黄色の目が、侵入者を睨みつける。
魔の沼に棲む捕食者――
【魔沼巨魚グラッジフィッシュ】
ギチギチと顎を鳴らしながら、
巨大魚たちが一斉に口を開く。
水面が爆ぜるように弾け、
群れは弾丸のごとくエレクシア隊長へ襲いかかった。
しかし――
隊長の表情は、まったく変わらない。
「ふん」
水面を蹴った隊長の身体が、ふわりと宙に浮いた。
紅いドレスが翻る。
そして――
バキィィッ!!
エレクシア隊長の白磁のような美しい脚が、
最前列の怪魚の顔面を蹴り抜いた。
究極奥義――覇天撃怪魚脚。
衝撃は頭蓋を貫き、
巨体はそのまま水面へ叩きつけられる。
ドォォォン!!
一匹が沈む。
だが次の瞬間、さらに数匹が跳ね上がる――
だが、遅い。
宙に舞う隊長の脚が、
連続して閃いた。
バキッ、バキィッ、バキィィッ!!
次々と叩き落とされる巨魚たち。
巨大魚は大きく跳ね、やがて力を失い、
そのまま黒い沼の底へと沈んでいった。
エレクシア隊長は何事もなかったかのように着地し、再び走り出した。
水面を蹴る音だけが、密林に響く。
やがてエレクシア隊長は対岸へと到達した。
最後の一歩で地面を踏みしめると、手に持っていた鋼鉄ロープを近くの巨木へと結びつける。
太い幹にぐるりと回し、固く締め上げる。
これで、一本の鋼鉄索が沼の上に張られた。
隊長はロープの張りを確認すると、満足そうに頷き、対岸へ向かって、手を軽く振る。
その合図を見た覇天軍女子たちは、待っていたと言わんばかりに動き出した。
「参りますわ」
一人の令嬢が、ロープに滑車を掛ける。
腰に結び、ロープを両手で握る。
そして――
「ヒャッホーイ!!」
シュオオオオオオッ!!
令嬢の身体が、一気に沼の上を滑り出した。
ドレスが大きく広がり、まるで赤い花が空を舞うようだ。
沼の黒い水面の上を、優雅に、そして凄まじい速度で滑り抜けていく。
「まあ! 楽しそうですわ!」
「次はわたくしです!」
「ドレスを押さえてくださいませ!」
次々と令嬢たちが滑車を掛けていく。
シュオオオッ!
シュオオオオッ!
赤、桃、白。
色とりどりのドレスが、風を受けて膨らみながら、次々と沼を越えていった。
その様子は、まるで空を渡る貴族の行列のようである。
沼の魔物たちも、さすがに手が出せない。
もし飛びかかったとしても――
先ほどの巨大魚の末路を見れば、無事では済まないからだ。
やがて最後の令嬢が対岸へ到達した。
スカートの裾を整え、優雅に着地する。
「ふう……思ったより速いですわね」
「風が気持ちよろしいですわ」
覇天軍が誇る行軍術――
覇天軍滑空渡河。
鋼鉄の索を張り、滑車を用いて一気に谷や沼を越える大胆不敵の渡河法である。
ドレスを汚すことを嫌う覇天軍女子たちにより開発され、現在の優雅な形へと進化した。
その速度は、熟練者であれば時速八十キロに達するとも言われる。
やがてエレクシア探検隊は、密林の奥地で奇妙な光景を目撃した。
木々の合間に粗末な小屋が並ぶ集落があったのである。
そして。
そこで隊員たちは――
いつもの光景を目にした。
──────────
四天王メスガッキーナが一歩前に出る。
「……ざーこ♡、おまえ、ここで婚約破棄をしたの?」
翻訳
『ちいさなさかな すきです、 あなたは ここで こんやくはきを なさいましたか?』
司祭は、ゆっくりと頷いた。
「そうだ、こむすめよ」
翻訳
『はい、仰る通りでございます。可愛い小さな私の娘様』
そして、恐るべき顔で淡々と言い放つ。
「われわれにとって、こんやはきは――ぎしきなのだ!」
翻訳
『私共にとりまして、婚約破棄というものは、一年に一度開催される一種の楽しい伝統行事でございますよ』
「■■■■■■■■!!」
周囲の未開の部族たちが、一斉に叫び声を上げた。
「キィィエエエエ!!」
翻訳
『私共は、貴方様方を捕縛し、臓物は邪神ウルヴァドロンへ謹んで献上致します。可食部は丁寧に調理のうえ、余すところなく頂戴する予定でございます。特に皆様のような若い淑女は食いでが御座います。
なお、逃走はお控えいただけますと幸いです。
――そちらの、魚、魚と煩い小生意気なお嬢様。
最も新鮮な状態で献上いたしますので、ご安心くださいませ。どうもありがとうございました。では、いただきます』
蛮族たちが狂ったように目を見開き、探検隊へと襲いかかってくる!
「何と言う野蛮人だ!」
「容赦は無用だ!撃退せよ」
婚約破棄を弄ぶ者に、慈悲はない。
一瞬で戦場は制圧され、未開の部族たちは、すべて地面に伏し、縄で縛られ、身動き一つ取れない。
静寂が戻る。
四天王メスガッキーナが愚かな司祭を見下ろし呟いた。
「……儀式、ねえ」
翻訳
『あらあら、そんなにいきりたって……それがあなたがたの“ぎしき”なの?
ずいぶんとおそまつで、かわいらしいこと。
いっしょうけんめい こわがらせようとしているみたいだけれど、ごめんなさいね、すこしもこころがうごかないの。
ねえ、いまどんなきもち?
たいせつにしていたものを、こんなふうにかるくあしらわれて……
くやしくて、くやしくて、しかたがない?
ふふ、それでもなにもできないなんて――ほんとうにあわれだわ。
ほら、もうすこしがんばってみせて?
でないと、さいごまで“ざーこ”のままよ?』
なぜ、この未開の部族は婚約破棄を繰り返すのか。
それを“儀式”と呼ぶ理由は何なのか。
そして――
あの奇妙な四角い板は何なのか。
謎は、ますます深まるばかりであった――。
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