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第10章:滅べクズ男!

~人生を棒に振る覚悟なんか持つな~


 世の中には、二種類の酒場がある。

 夢を語るための酒場と――過去を言い訳するための酒場。


 王都の外れ、場末の酒場『灰の杯亭』は後者だった。

 埃っぽい空気に、安酒の匂い。壁の染みは落ちず、笑い声だけがやけに響く。


 そこに集まる男たちは、皆、似た目をしていた。

 「俺は悪くない」と言い続けるために、世界を敵にしている目だ。


① 導入:クズ男たちの墓場


「……結局さ、女が俺を理解しなかったんだよ」


 泥のようなワインを揺らしながら言ったのは、元騎士団長補佐――カイルだった。

 鎧はない。剣もない。あるのは、鏡の代わりに磨き上げた安物の杯だけ。


「俺は伝説の騎士だったのにさ。あいつが、あの……地味な聖女が、急に意地悪になって」


 カウンターの端で、鼻で笑ったのは元財務局の中堅文官――ゼノス。


「あー、だるいよな。俺もだよ。結局、周りが無能だった。部下とか、婚約者とか。俺のせいじゃなくない?」


 その隣で、髪をやけに整えた男が、へらりと笑った。


「女って怖いよねぇ。ちょっと寂しかっただけなのにさぁ」


 隣国第三王子だった――ランスロット。

 王子だったはずの肩書きは今、ただの“やけに綺麗な男”に戻っていた。


 彼らは、いつも同じ話をする。

 誰かが悪い。運が悪い。環境が悪い。王が悪い。女が冷たい。

 自分だけは、悪くない。


 杯がぶつかる。


「乾杯。――俺たちの不幸に」


 その瞬間だけ、彼らは仲間になる。

 痛みを分け合うのではなく、責任を薄め合う仲間に。


 酒場の扉が開いた。

 外の冷たい空気と一緒に、別の匂いが流れ込んできた。


 石鹸の匂い。

 紙の匂い。

 香辛料と、花の匂い。


 光が入った。


② 展開:最後の一足掻き


 通りかかったのは、一団の女性たちだった。


 白いローブの聖女――アリア。

 財務の書類を正しく扱う女――リナ。

 研究ノートを抱えた魔術師――ソフィア。

 馬車を持ち、外交を動かす女――エレナ。

 サロンを運営する実業家――クロエ。

 新しい店の焼き菓子を抱えた職人――ミリー。

 噂を掃除した貴族令嬢――セシリア。

 国際貿易を回す女――マリア。

 そして公爵家当主となった――エルザ。


 彼女たちは、視察や移動の途中だった。

 ただの偶然で、酒場の前を通った。


 けれど“偶然”は、時に残酷だ。

 過去に縛られた者ほど、その光が眩しい。


 カイルが、立ち上がった。

 無駄に背筋を伸ばし、昔の癖で胸を張る。


「……おい、アリア」


 アリアが足を止める。

 カイルは、笑ってみせた。自分がまだ“選べる側”だと信じている笑み。


「俺がいないと、寂しいだろ? 戻ってやってもいいぞ」


 ゼノスが鼻で笑う。


「そうそう。あの頃は大変だったよな。俺は忙しかったし。まあ、俺のせいじゃなくない?」


 ランスロットは、涙を作る癖が抜けていない。


「エレナ……ねえ、俺、本当は君だけだったんだよ。信じてくれよぉ」


 彼らの言葉は、昔と同じ。

 世界が変わったのに、自分だけが同じ場所にいる。


 女性たちは――誰も怯えなかった。

 誰も怒鳴らなかった。

 誰も泣かなかった。


 ただ、淡々とした目で見た。


 “道端の石ころ”を見る目。


 アリアが、静かに微笑んだ。


「あなたたちのために流す涙も、怒るエネルギーも、もう一滴も残っていないの」


 それは勝利宣言ではなかった。

 終わった、という報告だった。


 カイルの頬が引きつる。

 自分が“敵”ですらないと気づいたとき、人は一番みじめになる。


「……は? 何だよ、その言い方。だるいんだけど」


 ゼノスが肩をすくめる。


「俺たちは被害者なんだぞ」


 ランスロットがすがるように言う。


「俺は悪くない!」


 ――最後まで、それ。


③ 転:断罪(真の決別)


 そのとき、酒場の外で、小さな嗚咽が聞こえた。


 若い女の子が一人、通りの陰で泣いていた。

 頬に手の跡。乱れた髪。震える肩。

 その隣に、酔った男がいた。腕を掴み、低い声で囁く。


「お前が悪いんだろ? 俺をイライラさせるから。謝れよ」


 ――まただ。

 万国共通。

 “お前のせいで怒った”。


 アリアは一歩前に出た。

 エルザが彼女の背中を支えるように並び、クロエが女の子の手を取り、ミリーが上着をかけ、リナが周囲の人を呼び、ソフィアが記録魔法を起動し、エレナが投影水晶を置き、セシリアが証拠の導線を整え、マリアが法務官へ連絡を飛ばした。


 彼女たちは、迷わない。

 もう“孤独な戦い”をしないと知っているから。


 アリアは、泣く女の子の目を見て、優しく、でも力強く言った。


「いい?」


 声は小さいのに、空気が変わった。


「――あの男のために、人生を棒に振る覚悟なんか持つな!」


 女の子が、息を止める。


「あなたの価値は、誰かに決められるものじゃない」


 アリアの言葉に、クロエが頷き、エルザが静かに息を吐く。

 何度も自分を削られた人の、同意の呼吸。


「不幸にした人へ代償を払わせるのは、あなたが幸せになることなのよ」


 アリアが手を上げると、聖なる魔力が――いや、音のようなものが流れた。

 歌のように。祈りのように。


 風が通り、道端の花が揺れ、泣いていた女の子の頬から涙が止まる。

 男の怒鳴り声は、妙に小さく聞こえ始めた。


「は? なんだよ。俺は悪くないだろ!」


 男は叫ぶ。

 でも、もう誰もその叫びを“正義”として受け取らない。


 記録魔法が回っている。

 投影水晶が映している。

 法が、現実が、言い訳の逃げ道を塞ぐ。


 男は、言葉の檻に閉じ込められる。

 自分が吐いた「悪くない」「だるい」「お前のせいだ」という檻に。


 酒場の中から、それを見ていたカイルたちが、急に静かになった。

 彼らは気づいたのだ。

 自分たちも同じ檻の中にいることに。


 そして、その檻は――誰かが壊してくれるものではないことに。


④ 結末:再出発(Outro)


 夜。

 女性たちは馬車に乗り込む前に、一度だけ振り返った。


 酒場の灯りは薄暗く、そこに残った男たちは、もっと薄暗い。

 世界が彼らを追放したのではない。

 彼らが自分で世界を狭めたのだ。


 アリアが、最後に言った。


「全世界に生息するクズ男さんたち。さようなら」


 その声は穏やかで、冷たくない。

 ただ、距離がある。

 もう届かない距離。


「私たちは、私たちの道を行くわ」


 馬車が走り出す。

 夜風が頬を撫でる。

 星が見える。


 誰かが小さく口ずさんだ。

 それは“呪い”じゃない。

 自分を守るための合言葉。


 クズ クズ クズ男。

 残念だけど全世界に生息する。


 でも――


 人生を棒に振る覚悟なんか、持つな。


 それが、私たちの“再生”だ。

 それが、物語の本当の勝利だ。


 滅べ、クズ男。

 ――私の人生から。


「Outro」


 私は最後に、入口の看板を見上げながら呟いた。


「数自慢する男って、中身が空っぽだから数字を頼るしかないのよね」


 そして、心の中で付け足す。


 さようなら。

 101人分の怒りに、焼かれなさい。

最終章までお付き合いくださり、本当にありがとうございました。

この物語は、クズ男を滅ぼす話でありつつ、いちばんは「自分の人生を取り戻す」話です。

怒りも涙も尽きた先に残るのは、自由と仲間と、明日を選ぶ力。

あなたの現実にも、どうか“棒に振らない選択”がありますように。

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