第9話 終電の異変
「ふぁー。なんとか終電には間に合うな……」
会社の最寄り駅に向かう足どりは自分でも意外なほどに軽い。
前までは、この時間に帰れても、ぐったりしていはずだった。
──夕食はコンビニかな。カリナの分はどうしよ。スイーツでも差し入れるかね
終電に揺られながら、ぼーとそんなことを考える。
どうやら冷蔵庫ダンジョンはその由来からなのか、ドロップ品で食料を落とすモンスターも多いと言っていた。
なので、カリナは基本的にはダンジョンモンスターのドロップ品をセーフポイントで調理して食べているようなのだ。
とはいえ、甘いものは好きなようなので、差し入れをしたら多分、喜んでくれるだろう。
──なんだか俺もすっかりカリナのいる生活に慣れてきたよな。あれ、そういえばドロップ品の換金はどうするんだっけ?
セーフポイントに積み重ねられたドロップ品をちょくちょく見かけてはいるが、そういえばそのままになっていた。
入り口のセーフポイント自体がとても広いのでそこまで邪魔にはなっていない感じだ。しかし、カリナが探索に励むので、相当な量がたまっているようには見えた。
カリナも、探索する事自体が楽しい様子なので、そこら辺は後回しになっているのだ。
──そろそろ、何とかしないといけない量だよね、あれ。まあ、帰ったら確認……
その時だった。
急に乗っていた終電が急停車する。
アナウンスが流れる。
『急停車いたします。急停車いたします。ただいまスタンピード警報が発令されました』
俺はつり革をつかむ手に力を入れる。
それは、本当に急停車だった。慣性に持っていかれそうになる体を、必死に支える。
『──ダンジョン特措法四条二項の規定に基づき、線路への立ち入り規制が解除されます。繰り返します。ダンジョン特措法に基づき、線路への立ち入り規制が解除されます。ドアが開きます。降車の際はご注意ください』
再度のアナウンス。その内容の通り、緊急停車した列車のドアが開く。
線路の、ど真ん中だ。
それでも、俺以外の乗客は次々と列車から飛び降りるように線路へと移動していくのが見える。
俺は急激な事態の変化についていけず、オロオロとして固まってしまう。
──えっと、落ち着け落ち着け。ダンジョン特措法四条二項ってことは、緊急避難時の免責に関するやつ、だっけ? えっと、たしか、各種公共交通機関の乗客が避難する時に、交通機関は責任を問われなくなるやつ?
混乱した頭で、現状を把握しようと頑張る。免責の発生のために、個人の避難の妨害にならないことが優先されて列車のドアが開かれたのだろう。
要は、あとのことは個々人の自己責任で行動しろと言うことだ。
そうしている間にも、俺の乗った客車の乗客はどんどん減っていく。
──だとすると、たぶんだけど、相当近くでスタンピードが発生したんだよな。だとするといま、下手に動くのは逆に危ないかも……。なら──
俺は客車の隅の方に移動して壁を向くと、周囲に人影がないことを確認して、小声で呟くのだった。
「AI創成スキル」
メッセージウィンドウが、現れた。




