陰キャ、小説の審査に挑む!! ーそれがたとえ落ちていてもー
不知火先輩の試合から一週間が経った。
秋が深まってきている。朝晩はさらに冷え込み、制服の上に羽織るものが必要になってきた。木々の葉も、少しずつ色づき始めている。
校内では、期末テストの話題が出始めていた。
教室では、真面目な生徒たちがすでに勉強を始めている。教科書を広げ、ノートに要点をまとめている。一方で、まだ余裕を見せている生徒もいる。
俺は――どちらかといえば、後者だった。
いや、余裕があるわけじゃない。ただ、まだ実感が湧いていないだけだ。
放課後、いつものように文芸部の部室に向かう。
廊下を歩いていると、窓の外に夕焼けが見えた。オレンジ色の空。その下には、部活動に励む生徒たちの姿がある。
平和な光景だ。
こんな日常が――今の俺には、当たり前になっている。
部室の扉を開けると、瀬良先輩が一人でパソコンに向かっていた。
いつもの光景。キーボードを叩く音だけが、静かに響いている。
「お疲れ様です」
「あら、高一くん」
瀬良先輩は手を止めて、俺を見た。
「今日は早いわね」
「まあ、特に用事もなかったんで」
「そう」
瀬良先輩は微笑んで、また執筆に戻った。
俺も自分の席に座り、パソコンを立ち上げる。
自分の小説を開く。
コンテストの二次審査の結果が、そろそろ出る頃だ。
一次審査を通過してから、もう一ヶ月以上が経っている。
緊張する。
でも――期待もしている。
メールボックスを開く。
新着メールが、一通来ていた。
差出人は――コンテストの事務局。
「……っ」
心臓が、跳ねた。
マウスのカーソルを、メールの上に持っていく。
手が、少しだけ震えている。
クリックする。
メールが開かれる。
そこには――。
『二次審査通過おめでとうございます』
その文字が、画面に表示されていた。
「……通った」
小さく呟く。
信じられない。
二次審査も、通過した。
「高一くん?」
瀬良先輩が不思議そうに俺を見る。
「あ、いえ……その……」
俺は画面を瀬良先輩に見せた。
瀬良先輩の目が、一瞬大きく開かれる。
そして――満面の笑みを浮かべた。
「おめでとう、高一くん!」
「あ、ありがとうございます!」
「すごいじゃない。二次審査通過なんて」
瀬良先輩は本当に嬉しそうだ。
「これで、最終審査ね」
「……はい」
最終審査。
そこまで来たのか、俺は。
陰キャの俺が、小説のコンテストで最終審査まで。
信じられない。
でも――嬉しかった。
「……頑張ります」
「ええ。応援してるわ」
瀬良先輩は優しく微笑んだ。
その笑顔に――俺は、また少しだけ顔が熱くなった。
※ ※ ※
その日の夜。
俺は自室のベッドに横になっていた。
天井を見つめながら、今日のことを思い返す。
二次審査通過。
最終審査へ。
まだ実感が湧かない。
スマホが震えた。
グループチャットに通知が来ている。
開くと、瀬良先輩からのメッセージだった。
『高一くんの朗報、みんなにも伝えたわ』
その下に、不知火先輩と浅葱からの返信が続いている。
『すごい! おめでとう!』
『やったね、高一くん! お祝いしなきゃ!』
俺は――少し考えて、返信した。
『ありがとうございます。まだ最終審査があるので、気を引き締めます』
送信ボタンを押す。
数秒後、返信が来た。
『堅いわね。でも、それがあなたらしいわ』
瀬良先輩からだった。
『高一くんなら大丈夫だよ! 絶対通る!』
浅葱からも来た。
『私も応援してる! 頑張って!』
不知火先輩からも。
その言葉に――俺は、少しだけ勇気が湧いてきた。
「……ありがとな、みんな」
小さく呟く。
一人じゃない。
応援してくれる人がいる。
それが――何よりも力になる。
俺はベッドから起き上がり、机に向かった。
パソコンを開く。
小説の続きを書こう。
最終審査に向けて、もっと良いものを作ろう。
そう決めた。
※ ※ ※
翌日、昼休み。
いつもの空き教室。
今日は四人で集まっていた。
弁当を広げて、それぞれ食べている。
窓からは、秋の柔らかい日差しが差し込んでいる。
「ねえ、高一くん」
浅葱が口を開いた。
「最終審査っていつなの?」
「来月の中旬らしいです」
「もうすぐじゃん!」
「……そうですね」
俺は少し緊張した。
もうすぐ、最終審査。
結果が出る。
「緊張する?」
不知火先輩が聞く。
「……めちゃくちゃ緊張してます」
「ふふ、素直ね」
瀬良先輩が微笑む。
「でも、大丈夫よ。あなたの小説なら、きっと通る」
「……根拠は?」
「私が保証するわ」
瀬良先輩は自信満々に言う。
その自信は、どこから来るんだろう。
でも――その言葉が、嬉しかった。
「それにしても、高一くんすごいよね」
浅葱が感心したように言う。
「小説のコンテストで最終審査まで行くなんて」
「いや、まだ受賞したわけじゃないですから」
「でも、すごいことだよ」
不知火先輩も頷く。
「私も、高一くんの小説読んでみたいな」
「え、読みたいんですか?」
「うん。どんな話なの?」
三人の視線が、俺に集中する。
俺は――少し恥ずかしかった。
自分の小説について話すなんて。
「えっと……陰キャの主人公が、少しずつ変わっていく話です」
「陰キャ?」
「はい。最初は一人で、誰とも関わらなくて。でも、ある日出会った人たちのおかげで、少しずつ変わっていく」
俺は自分の小説のあらすじを話した。
三人は、真剣に聞いてくれている。
「……それって、高一くん自身の話?」
浅葱が聞く。
「え?」
「だって、高一くんも変わったじゃん。最初は一人だったのに、今はこうしてみんなと一緒にいるし」
その言葉に、俺は――はっとした。
確かに。
俺の小説は、俺自身の物語だ。
陰キャだった俺が、少しずつ変わっていく物語。
「……まあ、多少は自分の経験も入ってます」
「やっぱり!」
浅葱が嬉しそうに笑う。
「じゃあ、私たちも出てるの?」
「え、まあ……似たようなキャラは……」
「読みたい! 絶対読みたい!」
浅葱が興奮している。
「私も読んでみたいわ」
瀬良先輩も興味を示す。
「……完成したら、見せます」
俺は少し照れながら答えた。
「約束ね」
「……はい」
こうして、俺は約束した。
完成したら、三人に見せると。
それが――また一つ、頑張る理由になった。
※ ※ ※
放課後、文芸部の部室。
俺は一人で執筆していた。
瀬良先輩は今日、用事があって早退した。
静かな部室。キーボードを叩く音だけが響く。
集中できる。
物語が、どんどん進んでいく。
主人公が変わっていく過程。
孤独から、繋がりへ。
一人から、みんなへ。
それは――俺自身の歩んできた道だった。
「……そうか」
ふと、気づいた。
俺は、この小説を通して、自分自身と向き合っていたんだ。
変わることへの恐れ。
昔の自分を裏切るような気持ち。
でも――それを乗り越えて、前に進む。
それが、この物語のテーマだった。
「……書ききろう」
そう決めた。
この物語を、最後まで。
俺の青春を、形にするために。
キーボードを叩く手が、止まらない。
言葉が、溢れてくる。
窓の外では、夕陽が沈んでいく。
部室が、オレンジ色に染まっていく。
その中で――俺は、物語を紡ぎ続けた。
陰キャの俺の物語。
それは――もう終わりに近づいている。
でも、俺自身の物語は――まだまだ続く。
「……もう少しだ」
小さく呟いて、俺は執筆を続けた。
最終審査まで、あと一ヶ月。
それまでに、完璧な作品に仕上げる。
そう決めた。
俺の青春ラブコメは、まだ終わらない。
そして――これからも、続いていく。
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