陰キャ、彼にとって青春とは何か ー青春を堪能できない理由ー
朝日が俺の部屋を照らす。
俺は目を擦りながら学校に行く支度をする。
そんな中で俺の脳裏には、不知火先輩との昨日のデート――いや、約束が過ぎる。
俺の青春どうなってるんだ。
鏡に映る自分の顔は、なんだか疲れているように見えた。
そんなことを思っていると、我が妹の柚葉が勢いよく扉を開けてやってきた。
「お兄、朝ごはん――」
「ノックくらいしろ」
突然の訪問に俺は戸惑いながらも、我が妹に視線を向ける。
「なんだよいきなり。俺は今から地獄という名の戦地に向かうんだ」
「何言ってるの……それより、瀬良さんと不知火さんっていう人が来てるよ」
「――マジで?」
終わった……また周囲の殺意に満ちた視線が俺に集まるじゃねぇか。
そんなことを思いながら俺は支度を進める。
心臓がバクバクしている。緊張と恐怖が入り混じった感情だ。
「お兄、大丈夫? 顔真っ青だよ」
「……大丈夫じゃない」
俺は正直に答えた。
※ ※ ※
重い足取りで玄関を開ければ、そこには案の定、不知火先輩と瀬良先輩が立っていた。
ただ純粋そうに微笑んでいる不知火先輩と、どこか不機嫌そうな笑みを浮かべている瀬良先輩。
あれ? 俺殺されるヤツ?
そんな不安が脳裏をよぎるが、俺は渋々2人の元に歩み寄る。
「おはよう、高一くん」
「お、おはようございます……」
瀬良先輩の笑顔が怖い。なんか、笑ってるけど目が笑ってない。
「ねぇ、昨日優花とデートしたって本当?」
ほら来た。さっそく爆弾発言。
その返答の言い訳を探していた時、俺の隣にいた不知火先輩が優しく微笑む。
「そうだよ、楽しかったよね! 高一くん!」
「あ、はい……」
この人何いきなり爆弾発言に対して返答してんの!? 俺死ぬじゃん! 確定じゃん!
すると、当然のごとく瀬良先輩の雰囲気が悪くなった。
そして、瀬良先輩は俺の腕に自分の腕を絡ませてきた。
柔らかい感触が腕に伝わる。心臓が跳ねた。
「高一くん、今日は部室に来なさい。貴方にはみっちりと教えなきゃダメそうね」
瀬良先輩が言うと、不知火先輩がムッと頬を膨らませる。
それがどうにも愛おしく見えたが、今はそれどころじゃない。
「あ、ずるい! 由良だけ!」
不知火先輩が俺の反対側の腕を掴む。
「お、おい、二人とも――」
「だって、高一くんは私の部員なんだから」
「でも、昨日は私と一緒だったんだから」
「それがずるいって言ってるの」
「ずるくないよ。正当な権利だよ」
俺を挟んで言い合う二人。
その様子を、柚葉が玄関から覗いている。
「……お兄、すごいね」
「すごくない! 助けて!」
俺の叫びは、誰にも届かなかった。
※ ※ ※
学校に向かう道中。
案の定、周りからの殺気と憎悪に満ちた視線が刺さる。
俺は二人の美少女に挟まれて、完全に死刑囚の気分だった。
「ねぇ、由良。高一くん、困ってるよ」
「あら、そう? でも離さないわよ」
「私も離さない」
「「……」」
俺別に悪いことしてないのに(涙)。
通りすがりの男子生徒たちの視線が痛い。
「あいつ……」
「許せねぇ……」
「羨ましい……いや、憎い……」
聞こえてくる呟きに、俺はただ前を向いて歩くしかなかった。
「高一くん、顔色悪いよ?」
不知火先輩が心配そうに聞く。
「……気のせいです」
「無理しないでね」
優しい言葉をかけてくれるが、状況は何も変わらない。
こうして、俺の地獄の登校は続いた。
※ ※ ※
午前の授業も終わり、昼休みとなると俺は相変わらず最高の空間――空き教室ならぬマイホームに来ていた。
今日は1人だ。
浅葱も、誰一人として生徒はいない最高の環境だ!
そんなことを思いながら、弁当を取り出す。
「ふぅ……やっと一人になれた」
平和だ。静寂だ。これが俺の求めていた空間だ。
そう思いながら弁当の蓋を開けた、その時。
「お! 今日は一人かい?」
綺麗な声が聞こえた。
俺は思わずその声の方に視線を向ける。そこには不知火先輩が立っていた。
「……先輩」
「呼んだ?」
「呼んでません」
不知火先輩は俺を見るなり、嬉しそうな顔をして俺の隣に座った。
不知火先輩から良い匂いがする。シャンプーの香りだろうか。
「今日は由良も浅葱ちゃんもいないんだね」
「はい……やっと一人になれたと思ったんですけど」
「あはは、ごめんね。でも、私も高一くんと話したかったから」
不知火先輩は少し照れくさそうに笑った。
その笑顔が可愛くて、思わず目を逸らした。
そんな時、不知火先輩は不思議そうな顔をして俺に問いかけた。
「高一くんって、浅葱ちゃんとか由良とかに好かれてるのに……高一くんには好きな人とかいないの?」
ド直球だった。
ド直球の質問に俺は黙った。
俺に好きな人か……好きな人を作るのは俺にとって多分それは至難の業だ。
なんせ、俺は今この青春の物語を堪能しきってないからだ。
「……いないですね」
「本当に?」
「本当です」
俺は即答した。
「じゃあ、もし誰かを好きになったら――どうする?」
「え?」
「ちゃんと向き合う? それとも逃げる?」
不知火先輩の質問は、なぜか真剣だった。
その瞳が、じっと俺を見つめている。
「……わかりません」
「正直だね」
不知火先輩は少し寂しそうに笑った。
「でもね、高一くん。いつか答えを出さなきゃいけない時が来るよ」
「……それって」
「ふふ、まだ内緒」
不知火先輩はそう言って、自分の弁当を開いた。
「さ、一緒に食べよ?」
「……はい」
俺も弁当を開く。
静かな空き教室に、二人だけの時間が流れる。
「ねえ、高一くん」
「はい?」
「私ね――」
不知火先輩が何か言いかけた、その時。
「あれ? 二人とも、ここにいたんだ」
浅葱の声が聞こえた。
振り向くと、浅葱が笑顔で立っている。
「私も混ぜてよ!」
「あ、浅葱ちゃん。もちろん!」
不知火先輩は笑顔で浅葱を迎え入れた。
だが、その笑顔の奥に――少しだけ、寂しさが見えた気がした。
「……先輩、さっき何か言いかけてませんでした?」
俺が小声で聞くと、不知火先輩は首を横に振った。
「ううん、何でもない。気のせいだよ」
その言葉が、なぜか嘘のように感じた。
こうして、俺の昼休みは――いつものように賑やかに過ぎていった。
だが、心のどこかに――もやもやとした感情が残っていた。
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