陰キャ、デート開始三分で死亡フラグ回収 ―ラブコメの神は悪意しかない―
片腕に不知火先輩、もう片方に瀬良先輩。
まさに――両手に花。
……いや、正確には両手に地雷かもしれない。
周囲の視線が刺さる。
「羨ましい」「リア充爆発しろ」「殺す」――あれ? 後半、明らかに殺意混じってるんだけど。
そんな嫉妬と怨念を浴びながら、俺たちは駅に到着した電車へ乗り込んだ。
※
電車に乗れば、少しはこの修羅場も落ち着くだろう。
そう思っていた。ほんの数分前までは。
なぜなら今――俺を中心に、両隣に先輩たちが座っているからだ。
「あ、あの……」
「どうしたの? 高一くん」
「顔が赤いわよ? それに、手が震えてる。――大丈夫?」
やめてくれ。
そんな距離感で話しかけられたら、体温も理性も溶けるわ。
「きょ、今日ってどこ行くんですか? お墓巡りとか……? せめて死ぬ前に墓は選ばせてください」
「バカ言ってないで、今日はこれをするのよ」
瀬良先輩がため息をつき、スマホを俺に見せてくる。
画面には、今日のスケジュール表。
「買い物に……名所巡りに……映画鑑賞に……食べ歩き二回……。
先輩、誤字してません? “巡り”が二連続してますけど、文芸部員としてどうなんですか?」
「そ、そんなとこ見ないでよ!」
瀬良先輩が慌てて画面を隠す。
それを見て、不知火先輩がくすくす笑っていた。
「ねぇ高一くん!」
「はい高一です」
「最近できた『世界のスポーツ体験施設』行こうよ!」
「はい! 全力で行かないです!」
「えぇぇ!? なんで!?」
「前にも言いましたけど、陰キャとぼっちは運動を拒絶する生き物なんですよ。
例えるなら、生まれたての赤ちゃんに“100kmマラソン走れ”って言うようなもんです。完走できると思います?」
俺の意味不明な例えに、不知火先輩が“こいつめんどくせぇ”って顔をした。
その会話に瀬良先輩が割って入る。
「そもそも貴方は赤ちゃんじゃないわ。
ちゃんと人間として歴のある高一くんは、もう少し体力つけるべき。……優花も、それを遠回しに言いたかったのよね?」
「アハハ。私は別に、楽しければそれでいいけどね」
やめろ、その包容力で俺の理性を削るの。
「……分かりました。なら、これなら俺も対応できます」
「「なに?」」
ふっ、食いついたな。
この俺が考える完璧なデートプランを披露してやろう!
「まずは駅に着いたらホテルにチェッ――」
――バキッ! ドゴッ!
同時に炸裂する左右の拳。
不知火先輩の鋭いボディブローが脇腹に、瀬良先輩の拳が頬に突き刺さる。
「ゲボッ!!」
意識が飛びかける俺の前で、2人の先輩が静かに殺気を放っていた。
周囲の乗客の視線が痛い。
――ざまぁみろ、って言ってない? 今の空気。
「ちゃんと考えてないの?」
瀬良先輩の声が冷たい。
俺は慌ててスマホを取り出し、速攻でスケジュールを組み直す。
「えっと、午前は買い物と映画鑑賞、午後にスポーツ施設。……これなら体力的にちょうど良いと思います!」
「おっ、いいじゃん! 高一くんにしては上出来!」
「そうね。無駄な体力も使わないし、合理的だわ」
ふぅ……助かった。
こうして、俺の命はギリギリ繋がった。
「じゃあ、次の駅で降りるわよ」
「はい」
2人が立ち上がる。
俺の目の前で揺れる、知性派とスポーティ系――二人の背中。
……スタイル、良すぎだろ。
※
電車を降り、駅の改札を抜けると、賑やかな街の喧騒が広がっていた。
ビルの間を風が抜け、人の波が流れる。
「あれ? 高一くん?」
その声を聞いた瞬間、俺の背筋に悪寒が走った。
やばい、逃げろ。これは危険だ。
「ちょ、ちょっとトイレ行って――」
「どこ行くの?」
瀬良先輩に肩を掴まれ、逃走失敗。
その隙に、不知火先輩が嬉しそうに声を上げた。
「おおっ! 浅葱ちゃんじゃん!」
浅葱美鶴。
陽キャ界の女王(勝手に呼んでるだけ)。
“リア充”という概念を体現した存在。
当然、彼女の周りには陽キャ仲間が群れている。
つまり――地獄の始まり。
「あれ、不知火先輩じゃね!?」
「ほんとだ、瀬良先輩もいる!」
光に集まるのは虫だけじゃない。
陽キャも同じだ。いや、もっとタチが悪い。
――浅葱率いる陽キャ軍団、ここに参上。
ああ……帰りたい。今すぐにでも、布団の中に帰りたい。
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