【第6話】街歩き②
その雑貨の屋台は、主に魔道具を扱っている店らしかった。魔道具とは、その道具の中に魔力が込められており、術者の素質やレベルを問わず、道具単体で魔法を発動できるものだ。
店の品にざっと目を通すと、重厚な装飾のペンダントやブローチなどがたくさんあった。それに混ざって、日の光を受けて白く光る、シンプルな銀のヘアピンが目に入る。
もっと近寄って見てみると、それはレミアが持っている、母の形見のヘアピンによく似ていた。長方形で平べったい、あのシンプルな銀のヘアピンだ。
「お! お嬢ちゃん、それが気になるかい?」
真剣に見つめていると、すかさず店主に話しかけられてしまった。
「あ、えと」
「それはね、高度な魔道具らしいけど、対になるものがないといけないらしくてね。1個じゃ使い物にならないんだよ。どうだい? 1ルペでいいよ」
レミアが口ごもっていると、店主は続けて捲し立てる。どうしても売り捌きたいのだろう。
「え……じゃあ、ください」
あまりの安さに少したじろぎながら、財布を取り出して1ルペを支払う。
なんだかとても惹かれたから、こんなに安い値段で自分のものになったと思うと嬉しかった。でも一方で、そんな安い価値しかつかなかったことに少し寂しさを覚える。
(でも……買い物なんて滅多に出来ないからね)
レミアはそっとヘアピンを両手で握りしめ、心の中でそう呟く。
魔力なしには買う権利すらないものが、この世にはあまりにも多すぎる。だから、必需品以外を買う機会があまりない。久々の、心踊る買い物だ。
「良かったね」
レミアのそんな様子を見て、エドワルドは嬉しそうに笑いかけた。
「うん」
レミアもエドワルドの方を見てにっこりと笑う。だって本当に嬉しかったから。
エドワルドは、特に欲しいものもないようで、2人はお店を離れてまた歩き出す。
「それ、どうして欲しかったの?」
特に装飾もなく、シンプルなヘアピンに喜ぶレミアが珍しいのか、エドワルドは不思議そうに聞く。
「あ……えっと、今持っている大事なものに似てるんだ」
「そうなんだ。いいね、大事なものが増えたね」
「! うん!」
エドワルドのその言葉を聞いて、なんて素敵な考え方だろう、と感心した。
思わずとても嬉しくなる。
「でも、似てるんだったらもしかして、対のアイテムだったりしてね」
「……えっ?」
エドワルドはハハ、と笑って「なんてね」と言ったが、もしかしたら、それもあながち間違いではないかもしれない。
だって、このヘアピンは、あの、母の形見にあまりにも似ている。
もしこれが、母の形見とセットになるものだとしたら、これも元は母が持っていたのだろうか。
そう思うと、なんだか少しワクワクした。そうだったらいいな、なんて思う。
ボーン。ボーン。
そうこうしているうちに、お昼を告げる鐘の音が街に鳴り響いた。
「もうこんな時間か……」
と、エドワルドが言ったそのとき、不意に影が横切った──かと思えば、それは再び2人の近くに舞い戻ってきて、うろちょろと影を落とす。
空を見上げて確認すると、黄色い鳥がエドワルドの頭の周りをパタパタと飛んでいた。
やがて、エドワルドの目の高さまで降りてくると、羽を緩やかに上下に動かし、その位置で留まった。そして一言。
「ソクタツ」
と言った。
「……俺に?」
エドワルドが、覚えがない、といった様子でそう返すと、
「コノ ペンノ モチヌシ アテ」
と、鳥が言い、ピィ!と鳴くと、キラキラとした光の粒とともに、目の前にシンプルな黒い万年筆が現れる。
「……俺のだね」
「ジャア コレネ」
エドワルドに万年筆を渡し、鳥はそう言うと、またピィ!と鳴く。先ほどと同じように、光の粒を纏いながら、今度は小さなブローチのような、宝石のようなものが現れた。
エドワルドがそれを受け取ると、
「ジュリョウノ シルシニ」
「受領の印に……?」
エドワルドがそう聞き返すと、鳥はエドワルドの手を嘴でチクッと刺す。
「え、痛っ」
「マリョク チョウダイネ〜」
そう言って鳥はどこか遠くに羽ばたいて行ってしまった。
「……は?」
エドワルドはそう言って立ち尽くす。
今の一部始終を見ていたレミアも同じ気持ちだが、誰かに振り回される、エドワルドの新たな一面を見られて少し嬉しい自分もいた。
「……い、今の、何?」
「あ〜……たぶん速達鳥だね。俺も初めて見たけど……。あんま使われてない理由がわかった」
そう言って彼は先ほど刺された手を恨めしそうに見やる。見た感じだけで言えば、特に傷などはついていない。
「てかわざわざこんな鳥を使って一体誰が何を……」
エドワルドは、ぶつぶつと呟きながら手にしたアイテムを確認する。よく見るとそれは、平べったくて丸いガラスの容器の中に、薄い円盤のようなものが入った不思議なものだった。
「これは、何……?」
さっきから何でもかんでも聞いてばかりで、レミアは少し恥ずかしくなってくる。
「これは……ボイスレコードストーンかな」
魔道具だね、と彼は説明を付け足しながら、側面に付いているスイッチのようなものを手前に向けてカチッと動かす。
瞬間、円盤がくるくると回り、中から声が聞こえ始めた。
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