【第66話】逃走②
ヘアピン魔道具の眩い光が見えたかと思うと、次の瞬間には体が宙に浮き、暗い場所に放り出される。そして、暗闇に目が慣れるのを待つことなく、体が急降下を始めた。それによって、髪や服が風で巻き上がる。
「ひっ……!」
(ひゃぁぁぁぁあああああ!!!!!)
レミアは、叫びそうになる口元を咄嗟に押さえ、心の中で大絶叫しながら落ちていく。
「おっ! ナイス!!」
やや遠くからヴァンの声が聞こえたかと思うと、体が茂みの上にドサリと着地した。思っていたよりも早い着地に、レミアは思わず拍子抜けする。
(な、なんだ……。もっと高いところから落ちてるのかと思った……)
レミアが、茂みの上にうつ伏せで伸びながらもホッと胸を撫でおろしていると、ヴァンが走りながら近付いてきた。
「いいとこに落ちたじゃん」
「……そ、そうですね」
レミアはそう答えて、乗っかっていた茂みから片足ずつ降りた。これがいいところなのか悪いところなのか、中々判別しがたいが、クッションになってくれたという意味で言えば、いいところにはなるだろう。
しかし、元々そんなに高い場所に転移しないのがわかっていれば、平地に足で難なく着地できたのでは?とも思ってしまう。
しかし、今はそんなことはどうでもいい。急いで帰らなければならないのだ。
「座標は私が指定したわけではないんですが、とりあえず今は早く逃げましょう。王都はどっちですか?」
「ふーん。王都はあっちだな」
ヴァンは、レミアの問いに答えると、斜め左の方向を指差した。たしかに、夜空に薄っすらと城の影のようなものが見える。ヴァンの進む方向にレミアがついていく形で、2人は小走りで進み、やがて林に突入した。
ここまで来れば木々が視界を遮ってくれているから、すぐに見つかることはないだろう。
「てか、自分で座標指定したわけじゃねぇならこれ、鈍ってそうだな」
そう言って、ヴァンはズボンのポケットから銀のヘアピンを取り出した。
「どういうことですか?」
「話を聞く限り、ヘアピンを持ってる奴のところに転移できるっつー魔道具の可能性が高そうだが、それにしちゃ今も俺から少し離れたところに転移してたし、あの家にアンタが突然現れたときも、エドの部屋じゃなくてリビングに来た」
「……なるほど。部屋が違うのはいざというとき困りますし、仕様ではなさそうですね……」
レミアが小走りをしながら考えていると、ヴァンが「ん」と言って、ヘアピンをレミアの方に差し出して来た。
「あ、それ、エドにまた渡しておいてもらえませんか? まだ使えるかわかりませんけれども……」
「そ。了解」
レミアのお願いに、ヴァンは短くそう答えるとヘアピンをズボンのポケットに戻した。
「えっと……、もしかしてめちゃくちゃ遠いですか……?」
城の影を確認したときから薄々と感じていたが、そろそろ息がきつくなってきて、レミアは思わずそう訊いた。
「いや? この林を抜けると小さい町に出るから、そっから馬車で30分くらいだな」
「ばっ、馬車で30分は近いんですか……??」
「知らね。1時間以内は全部近いだろ」
呑気にそう言うヴァンに、レミアは絶望する。
「えっ、あの、今って馬車とか出てるんですか……?」
「……あ~……、今の時間は馬車ねぇわ」
「えっ。ど、どうするんですか!?」
レミアは思わず立ち止まる。走り続けているヴァンと、距離が開いた。
しばらくして、ヴァンも走るのをやめて、レミアのいる後ろを振り向く。
「歩くか走る」
「……」
レミアはごくり、と唾を呑み込む。今日は色々ありすぎてすでにもう疲れていたが、まだ体に鞭を打つ覚悟を決めた方が良さそうだ。
「……わかりました。町までは頑張って走ります」
その後のことはその後考えようと思って、レミアはとりあえずそう答える。
「おっけ。疲れるだろうから、身体強化かけとけよ」
「身体強化をかける?」
あまり聞き馴染みのない組み合わせの言葉に、レミアは困惑した。”かける”ということは、まさかそんな魔法が存在するのだろうか。
「身体強化魔法だよ。まさか、知らねぇのか?」
「そ、そんな魔法があるんですか?」
レミアが目を見開いてそう言うと、ヴァンもまた、目を見開いて驚く。そして、次の瞬間には呆れ顔に戻ると、こう言った。
「おいおいおい。マジで知らねぇのかよ。学校で習わねぇのか?」
「な、習ってないです……」
「あっそう。まぁいいわ。しょうがねぇから今回は俺がアンタにかけてやる」
ヴァンはそう言うと、レミアに向かって何やら呪文を唱え始めた。すると、10個くらいの小さな光の粒が、キラキラとレミアの体をらせん状に上昇しながら1周して、夜闇に消えていった。
「こんなもんか」
「あ、ありがとうございます」
(ちょっと体力が上がったり、力が強くなったりとかしてるのかな!?)
レミアは、ワクワクしながら試しに足を一歩踏み出してみる。しかし、それだけでは、特に地面が凹むなどのことは起きなかった。
(ま、まぁさすがにね……。急にそんなことにはならないか)
一旦は、落ち着いて自分にそう言い聞かせる。でも、身体強化を早く実感してみたいレミアは、待ちきれなくて少し小走りをしてみた。
「うわっ! すごい! 体が軽いです!!」
それに、走り続けていても、さっきよりも明らかに息が続いていた。
「そりゃ良かったわ」
自分にも身体強化魔法をかけた様子のヴァンが、追いついてきてそう言った。
「持続時間はせいぜい3分くらいだから気を付けろよ」
「えっ3分!?」
びっくりして、思わず大きな声が出る。
そもそも持続時間が存在するところまで頭が回っていなかったが、思っていたよりも、だいぶ短い。
「全力疾走したら3分で町まで着きますか?」
「まぁ足も速くなってるし着くとは思うが、やめといた方がいいぜ」
「なんでですか?」
「別に無敵状態ってわけじゃねぇからだ。全力疾走なんてしたら普通に疲れるぞ」
それを聞いて、レミアは少し考える。身体強化が効いているうちに駆け抜けるか、体力を温存しつつ小走りで進むか。
「……わかりました。やめます」
この後の道のりを考えると、極端に疲れることはやめた方が良いだろう、と考え、レミアは小走りを選んだ。
閲覧ありがとうございます!
この度も更新大変お待たせいたしました。
ストックとして随分前に書き終えていたのですが、中々最終チェックをしてアップするという最後の行動が出来ずにいました。
どうしてこんなに簡単なことがずっと出来なかったんだろう。
今回も楽しんでいただければ幸いです。




