【第63話】再会⑤
(え、な、何!? どういうこと!?)
レミアはクローゼットの中で、なんとか安定できる体勢を探す。足元には靴が置いてあり、まず足の位置が定まらない。それにクローゼットの中は、なんというか……埃っぽい。時々やってくるくしゃみの波をなんとか堪えながら、もぞもぞと服の間に上半身を収めた。
そして、レミアは動揺しながらも扉と扉の隙間から入ってくる光越しに部屋の様子を確認する。ちょうど、レミアが目視出来る画角から外れる方向に、エドワルドが急いで歩いていくところだった。
次の瞬間、オレンジ色の光が消え、辺り一面が真っ暗になる。ランプ魔道具を消したようだった。レミアの目が暗闇に慣れるよりも早く、エドワルドはこれまた音を立てずにスルリとベッドの中に潜ると、本当に寝てしまったのかと思うほど上手な寝息を立て始めた。
約1分後くらいだろうか、コンコン、と控えめに扉を叩く音が聞こえたかと思うと、ふと部屋の扉がゆっくりと開くような音がした。
「ヴァ、ヴァン……? は、は、入るよ……? 寝ちゃったのかな……? さ、さっきまで明かりがついてたかと思ったんだけど……」
ややしわがれた声がした後、背を丸めた痩せ型の男が部屋にゆっくりと入ってくるのが見えた。
「あれ……!? エ、エドだ……? 部屋、間違えちゃったのか……」
男はぶつぶつと言い続けている。
(何……? あの人、ちょっと怖い……)
「……おかしいな……、やっぱりここの部屋のドアの下から電気が漏れ出てた気がしたんだけどな……」
男が相変わらずひとりごとを言っている傍らで、レミアはくしゃみの我慢大会を開催していた。
(ま、まずい……今2回やり過ごしたけど次も我慢できるかな……)
そんなことを考えている間にも、埃が鼻の奥をくすぐって攻撃してきていた。
(やばいやばいやばいやばいやばい!!)
レミアは咄嗟に鼻と口を覆う──も虚しく、
「はぇ………………へくちっ!」
ついにくしゃみを我慢することが出来なかった。
(やっちゃった……!!)
レミアは顔面蒼白でその場に凍りつく。
「ん……? も、もしもしかして……、だ、だ誰かいるんですか……!?」
男は怯えた様子で声を震わせながら、クローゼットの方を振り向いた。
「どどどどどうしよう……。エ、エドを起こして助けを求めてもらおうか……、い、いや、ダメだ……。エドはいつも疲れて熟睡してるから、どんなにゆすっても起きるはずがな、ないよね……。じゃ、じゃあヴァンかな……。よ、呼びに行かなくちゃ……!」
男はそうして、くるりと体を半回転させ、部屋を出て行くのかと思いきや、扉の方を向いたまま固まってしまった。
「ででででも、ぼ、ぼぼ僕が部屋を移動してる間にしっ、侵入者が場所を移動しちゃったら、ど、どうしよう……」
そう言って、男は体を小刻みに震わせていたが、急に肩をビクッと大きく震わせる。
(ど、どうしたのかな……!? と、とにかく早く出て行ってよ〜〜〜〜〜!!!!!)
レミアは口から飛び出そうなほど力強く脈動する心臓を感じながら、強くそう願う。
「こ、これ……僕の今の言葉、ぜ、ぜぜ全部聞かれてるんじゃ…………」
そして、男は急に大きな声を出して、両手を前に伸ばしながら、こちらに走ってきた。
「あ、あぁああぁあ!!!! もももももう終わりだぁ!!!」
(やばいやばいやばいやばいやばい!!! あの人やばい!! どうする!? 魔法で迎撃する!?)
ぎゅっと汗ばむ手を握り込む。
すると、銀のヘアピンを2つ持っていることに気付いた。
(エドに預けた分、持ってきちゃった!? こ、これっ、何かに使える!? ど、どうしよう!? 鋭利でもないし、鈍器にもならない……! ヘアピンは武器にならない……! い、いやでもこれ魔道具だからっ、えっとどうしよう!? どうすればいいの!? あの時みたいに願いを込めたらいい!? 2つとも私が持ってて意味あるの!? 使えるの!? えっこれ意味ある!? 何かもっと有効な魔法が、あっ! 光の魔法を最大出力で相手の目を焼く!!!!!?!?)
あまりにもパニックになったレミアの頭は大忙しだった。わずか1秒ほどで大量のことを考え、光の魔法で迎撃することに決めたその瞬間だった。
男の手がクローゼットの取手にかかる。
(失敗だけはするな……!)
そして、詠唱するために、レミアが息を吸う。
「ザーガさん」
レミアの喉が呪文の最初の一音を発するギリギリ前、そして男がクローゼットの扉を開ける前に、エドワルドの声が静かに響いた。
レミアはドコドコと心臓を大暴れさせながら、一旦口を閉じる。
(エド……!? もしかして、気を引いてくれてる……!? でもどうする……? そーっと出て、別の部屋に移動してみる……? で、でもこの家の間取り図がわからない……!)
レミアが頭を高速回転させてそう考えていると、2人の間で話が進んでいたようだった。
「いや、やややっぱり僕が自分で開けるよ……。君は、ここまでくる体力もあまりないはずだし……」
「いや、俺、今日はなんかいつもより元気なんです。だから俺が」
「ううん。ぼ、僕もたまには怖いことにチャレンジしなきゃ君たちを守れないよ……。い、一応保護者だしさ……」
男はそう言うと、再びクローゼットに向き合った。
その瞬間、扉の隙間から見えていた男の瞳と目が合う。──いや、そんな気がしただけだ。こちらも向こうも、辺りはまるごと暗いから見えてないはず、レミアはそう自分に言い聞かせた。
しかし、次の瞬間、男はこちらを嘲笑うように唇の端をめくった。
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