【第61話】再会③
エドワルドはそんな2人の背中を見送ると、リビングに横たわったままのレミアの様子を確認する。相変わらず顔色はあまり良くなかったが、先ほどよりはかなりマシになったようだった。額に浮かんだままの汗を拭おうとして、ピタリと手を止める。
「……魔力暴走を起こしてるって聞いたけど、なん……、で…………、というかどうしてこんなところに……。いや、そもそもこの年齢で魔力発現……? っていうか紫ピンズってすごいんじゃ…………?」
エドワルドは次々と零すようにそう呟く。先ほどまでは自分もギリギリの状態だったからか、頭が回っていなかったようだ。様々な疑問が今更になってたくさん浮かぶ。
「元々魔力がない人は少ないけど、他のことに比べたら比較的珍しくない……。でも、高等科まで行ってから魔力発現だなんて聞いたことがないし、そもそも元々魔力がない人に急に魔力が発現する例を聞いたことがない……。それに紫ピンズ……? 歴史上数人しかいないって聞いたな。そんなことってあり得るのか?」
エドワルドはぶつぶつとひとりごとを言いながら、頭の中を整理していく。
「えっと……、あとなんだっけ……。……ぁあ、そうだ、なんでここにいるのか、と、なんで魔力暴走なんて起こしたか……。ここにいる理由は後で聞けばいっか……」
そして、エドワルドは顎に手を当てて、一層考え込む。
(フィオナとヴァンが魔力暴走を起こすのは呪い子だからだと思ってた……けど、それじゃ俺が暴走を起こさないのはおかしい? ……いや、俺は毎日魔力切れを起こすくらい魔力を使ってて、真逆の状態にいるから起こさないだけか……? でも他の人が魔力暴走なんて起こしてるのを見たことがない……。俺が同世代の学生と関わりがないからか? 魔力の増加は学生時代が一番大きいって聞いたことがある。これくらいよくあるのかな……。……いや、違う。孤児院時代の周りの子たちは起こしてなかった……! でも年齢が低すぎたのか? わからない。今ある情報だけで可能性を導き出すなら……)
そこまで考えて、エドワルドはごくりと唾を呑み込む。そして再び、ゆっくりとレミアの方を見た。
「……呪い子…………?」
自分が導き出した結論に、ドクドクと心臓が嫌な音を立てていた。嫌な動悸がする。そんな可能性は、あって欲しくなかった。
「……いや、まさかね。今は情報が少なすぎるだけだ。さっきもそうだったけど、俺は情報が遅れてる」
そう呟くと、エドワルドはレミアを横抱きに抱え、そのまま自室を目指した。
部屋に向かう途中で、フィオナを送り届け終わった様子のヴァンとすれ違う。
「そいつ、お前の部屋に連れてくの?」
「……レミアね。そのつもりだけど」
ヴァンは相変わらず失礼な物言いで、レミアの方をピッと指差す。エドワルドはヴァンのそんな態度が気に入らなくて、わざと不満な様子を露わにしてそう答えた。
「あんま遅くならねぇ内に返しとけよ。ザーガのおっさんに見つかったら絶対めんどくせぇことになんだろ」
「……わかってる。なんとかするよ」
「ん。まぁなんかあったら声かけろよ」
「ありがとう」
相変わらず冷たい態度だが、かけてくれる言葉にはどことなく優しさが滲む。ヴァンはこういう男なのだ。こういうところがあるから、エドワルドはヴァンに信頼を置いていた。
「フィオナは?」
「寝かした。あいつも疲れてるだろうから」
「そっか」
「…………フィオナも、ちゃんと育ってたら、呪い子じゃなかったら……、今頃学校とか行って、普通の生活をさ……。……いや、なんでもねぇわ」
「……うん、……そうだね」
エドワルドは「なんでもない」と締めたヴァンの言葉を受け止める。たら、れば、もしも、など、ないのだ。そんな過去もそんな未来も、そんな現在も、自分たちは持ち合わせていない。
だから、考えない。
でも、彼がフィオナに普通の幸せを望んでいることは、ずっと感じていた。彼が何か望んでいることがあるとすれば、自分自身のことではなく、きっとそれだろうと、そう感じていた。
だから、口にせずともわかるのだ。だから、俺たちはわざわざ言葉を交わさない、エドワルドはそう考えていた。
ヴァンはレミアの方をジッと見ると、ゆっくりと口を開く。
「……幸せになろうな」
ヴァンのその言葉にエドワルドはびっくりして、思わず彼の瞳を見つめる。髪の色とそっくりな、ルビーのような真紅の瞳だ。
「とか、頑張って生きようなとか、俺たちには似合わねぇじゃん」
「……そうだね」
エドワルドは胸を撫で下ろす。彼が一緒に幸せになろう、だなんてことを言い始めた日には、偽物のなりすましを疑わないといけなくなるからだ。
「ただ、終わる時に、……与えられたカードは最悪だったけど、後悔のない人生だったって言えたら最高じゃん」
「……」
エドワルドは、ヴァンからのらしくない言葉に少々面食らう。ヴァンの口から出たことを疑うほど良いことを言っているのだ。
「だからお前も、心のままに生きろよ、っていう……、アドバイス?」
「人生の、アドバイス……? 年下からの?」
「そ、年下からの」
ヴァンはそこで初めて、いつも通りの悪い笑みを浮かべて、ニヤリと片方の口角を上げる。
「でもこの夏でエドの歳に追いつくけどな」
「いやいや、冬には俺がまた1個抜くから」
「ハッ。張り合うなんてお前も子どもみたいなとこあんじゃん」
「だから、ヴァンは俺より年下だからね?」
そんな穏やかなプチ口論をして、2人は小さく笑い合う。少しだけ、本当に少しだけ、2人の心が通った瞬間だった。今この瞬間だけは、誰にも邪魔されない。とても尊くて穏やかな時間が流れていた。
そんな2人を、月のようなランプの光が、優しく温かく照らしていた。
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