【第58話】ソルナと肖像画③
「彼も呪い子……?」
レミアが聞き返す。
ソルナは、それに答えるように、ひとつひとつ、噛みしめるように語り始めた。
「……彼は、ケミルは、触れた人の命を奪ってしまう呪い子だった。だけど、とても優しい人で、自分のその力をとても嫌っていたのよ。だから、人と距離を置いていて、いつも孤独だった。私も例に漏れず、彼の近くに寄ることを恐れていて、ほとんど話したことがなかったの」
ソルナはそこで言葉を切って息をつく。彼を避けていた自分を思い出し、責めているのだろうか、すこし苦い表情をしていた。
「それでね、ある日突然、人を絵にしてしまう呪い子のルーバーンが”呪いの石がこの学園にある”だとかなんだとか言って、編入してきたの。ルーバーンはとっても横暴で、”人殺しは絵に変えちまえばいいのさ”って言って、彼を……、ケミルを絵に閉じ込めてしまったのよ」
レミアはごくり、と唾を呑み込む。
人を殺めてしまうが優しい呪い子と、命を軽く扱うような横暴な呪い子。どちらも恐ろしいが、優しい彼は、望まない力を持っているが故に、辛く苦しかったことだろう、と思うと、どうしても、ケミルに少しでも幸せがあれば、と願ってしまう。
「そのとき、ルーバーンはコントロールが下手でね。少し離れた場所を歩いていた私たち姉妹に、ちょうど当たってしまったのよ。そしたら、私たちは2枚の肖像画になってしまって、周りはもう阿鼻叫喚で逃げまどってね。ケミルはね、もう人を傷つけなくて済むなら、この苦しみから解放されるなら、と自ら呪いを受けて絵に閉じ込められたの」
「だからもう関係ない人を巻き込むのは辞めてくれ。僕は逃げないから、しっかりと狙え」と言っている声が、突然絵にされて戸惑っている私たちにもハッキリと聞こえてきたわ、とソルナは付け足す。
「だけどね、ケミル自身の呪いの力に、ルーバーンの呪いの力が加わって、力が暴走してしまったみたい。ケミルの絵の目の前を通った人の命を次々に奪ってしまったのよ」
ソルナは、額縁の向こうに映る、雪山の絵を静かに見つめた。
「彼はそれに絶望してね、絵の中を彷徨い始めた。私たち姉妹の絵は密室で出ることは叶わなかったけど、幸い、彼の絵の中には世界が広がっていたみたいなの。それで……、それでね、”目の前で僕を見ることになる君が苦しまないように”と、一番……」
ソルナはそこで、目を伏せて、黙ってしまった。
しばらくの沈黙を経て、再び話し出す。
「…………………………いちばん綺麗な死に方ができるようにと、雪山を歩いて見つけて、そこで……、降りしきる雪の中に埋もれて………………、彼は……、死んでしまったわ」
ソルナはそこまで言うと、ワッと泣き出してしまう。
「ソ、ソルナさん……」
レミアは何と声をかければ良いかわからず、そう言いながらソルナの肩にそっと手を置いた。
すると、体に刺激物が巡ったように、全身に違和感が走る。
ぐにゃりと視界が歪み、またドクン、と大きく心臓が脈打つ。
(な、に……?)
絵の中に取り込まれるよりも前に感じた、あの体調不良とよく似ていた。ただ、それよりも酷い。悪化していた。少しは良くなったと思ったが、気のせいだったのだろうか。
「ハァ……ハァ……」
「ちょ、ちょっと!? 貴女!?」
(く、苦しい……)
レミアは喉のあたりを抑えてうずくまる。そしてそのまま、倒れるように横になる。ソルナが頬を伝う涙を隠すこともなくそのままに、驚いた様子で声をかけてきたのが目に入った。
(ダメかも……これ)
レミアの頭には、そんな弱気な考えが過る。
ぼんやりとした頭で、「ソルナの体にも、触れると命を奪ってしまう子の呪いが残留していたのだろうか」と考えたが、ソルナが受けた呪いは人を絵に変える呪いだったと思い当たった。
(あれ……? じゃあ私、これから絵になるの……? 絵の中で、絵にされちゃったらどうなるんだろう……)
そんなことを考えていると、急に頭がガンガンと痛くなり出す。
(え!? 痛い! 何!? 痛い!!!)
そしてまた、あの声が聞こえる。
奪え! 奪え! 奪え! 奪え!!!
レミアは少しでも頭の痛みを和らげようと、頭を抑え込む。すると、指に母の形見のヘアピンが引っかかった。
「……ぁ……! ……ぅく……、ぁ……!」
声が出ない。
頭は殴られているようにガンガンとするし、体は灼かれているように熱かった。
(お母さん……! お母さん! たすけて!)
そんな祈りに意味はないとわかっていながら、必死にそう叫んだ。
これが、奇跡を起こす道具だったらいいのに。
そう願って、ふと気付く。
もしこれが、エドに渡したヘアピンと対になる魔道具だったら?
このヘアピンもただのヘアピンじゃなくて魔道具なんじゃないか。
魔道具だったらいい。
魔道具であってくれ。
(お願い助けて! 何でもいい! 誰でもいい! たすけて!! お母さん! お父さん! ペパー! ノア! おじさん! エド! 生徒会のみんな……!! たすけて!!)
──その願いが通じたのか。
突然ピカリとヘアピンが光り出す。
「……ぇ」
その光がそのまま大きくなり、小さな部屋を真っ白に染め上げた。
──そして、光がパッと消える。
部屋の中にはソルナがぽつりと、一人で立ち尽くしていた。
「……な、何……?」
ソルナの口から、無意識に言葉が零れる。
「何が起こったの? ……ねぇ! どこに行ったの!? また私を一人にしないでよ! ……ねぇってば!!」
レミアは光に攫われるように、いなくなってしまっていた。
ソルナは自分を抱きしめるように腕をまわし、ゆっくりと床に落ちるようにへたり込む。
「もう、孤独は嫌よ……」
か細い声が、小さな部屋の中に吸い込まれていった。
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これで良かったんだろうか…?とかなり疑問の残る回となりましたが、直したくなったら後で大改稿するかもしれません。それが出来るのがアマチュアweb連載のいいところですよね
年末年始スペシャルボーナスタイム!が明日も続くといいな〜




