【第56話】ソルナと肖像画①
55話のソルナの噂の引用部分を修正しました。
かなり重要な部分を間違えていて申し訳ないです。すみません。
(ソルナの肖像画……!!!)
レミアは、心の中で静かに叫んだ。
「ねぇ! 本当に嬉しいの!! 人だわ!! 何年もずーーーっと1人で寂しかったのよ」
額縁の中のソルナは、嬉しさと寂しさが両方滲んでいるような表情でそう言った。
一方のレミアは、人間を見てこんなにも喜ぶソルナに恐怖心を抱いていた。それに、噂のこともある。このままでは取って喰われてしまう、そんな悪い想像が、頭の中を支配していた。それはまるで、視界の悪い暗い煙が、頭の中を埋め尽くしているようだった。
「…………」
レミアの額を、一筋の汗が流れる。
その場から動けぬまま、何も答えられないでいた。それに、まるで何かに惹きつけられているかのように、縫い留められているように、レミアはなぜか、ソルナから目を逸らすことが出来なかった。
「ねぇ、貴女……?」
どうして返事をしてくれないのかしら、まさか、人ではないのかしら、ソルナがそう言っている声が遠くで聞こえる。
気付けば、意識が朦朧とし始めていた。
ソルナとは違う、歪んだ音質の低い声が、ぼんやりと聞こえる。それが、段々と大きくなる。
奪え! 奪え! 奪え! 奪え!!!
──ドクン。
突如、心臓が大きく脈打つ。
呼吸が苦しくなる。
レミアは胸のあたりを抑えて床にしゃがみこんだ。
「ハァ……、ハァ…………」
(なにこれ……!!!)
荒い呼吸をすることしか出来ない。
(……もしかして……、人が死ぬっていうソルナの呪い……?)
「……ミア! …………か!? 魔力の…………な増大…………る!」
ペパーがこちらを見て、心配そうに何かを言っているのがわかったが、握りしめているはずの意識は、どんどん自分の指の隙間から流れ落ちていく。
(魔力……増大……? あぁ、おじさんが言ってたやつかな…………)
レミアは、王立研究所に訪れた際、ロベルトに言われたことを思い出していた。
――――――――――
あんまり魔力が増えるようならちょい危険性があるなってだけ
――――――――――
そういえば、魔力を減少させる魔道具を作ってくれると言っていた。少し日がずれていれば、ロベルトに会えていて、こんなことにならずに済んだのだろうか。
そんな風に、レミアはぼんやりと考えていた。
──ドクン。
再び、心臓が、血が、大きく暴れるような感覚がした。
(あつい……!)
何か、熱い、魔力のようなものが全身を駆け巡るのを感じた。無意識に魔法を使ってしまったのだろうか? この狭い空間で魔法が暴発したらどうなる……? 薄靄がかかる脳でそんなことを考える。頭は沸騰しそうなほど、手足はちゃんと付いているのかわからないほど、全身の感覚があべこべだ。しかし、レミアの頭は思考を辞めようとしなかった。
突如、目の前に禍々しい紫色の光のような、炎のようなものが現れる。
「……な、に……?」
「キャーーーー!? なぁに!? どうしたの、これ!?」
それがどんどん大きくなりながら、光を増していく。
ソルナが叫んでいる声が聞こえた次の瞬間、真っ白な光が辺り全体を包み、何も見えなくなった。
──そして。
ドサッ。
「えっ!?」
「……へ?」
レミアは尻もちをつくようにして、狭い部屋の絨毯の上に転がっていた。
目の前には、驚いた表情で振り向くソルナの顔と、椅子の背が見える。
「え……? こ、ここは…………?」
レミアは困惑しながら、辺りを見回す。ここは、どうやら正方形の小さな部屋のようだった。かつて暮らしていた屋根裏部屋と同じくらいか、それよりも少し広いくらいだろうか。とにかく、ここで過ごすには、少しばかり窮屈だと感じるような部屋だった。部屋の中には絨毯、ソルナの座っている椅子、くらいしかなく、一方は何もない壁、一方は壁一面の本棚、もう一方は、四角い小さな窓がついた壁だった。窓の外には、どこまでも続きそうな、無限の草原が見える。そして、もう一面の壁、ソルナが面して座っている壁を見ると、そこには額縁があり、先程まで自分のいた廊下が描かれていた。
うまく事態が飲み込めない。
"「ソルナの肖像画の前で人が死ぬの!」"
聞いた噂が頭の中で、いたずらに、こだまする。
(私……、死……ん、だ……?)
レミアは無意識に心臓のあたりに手を当てる。鼓動を確認するよりも前に、胸元の服がしわくちゃになっていることに気付いた。
(そういえば、さっきまで苦しかったから……。……それで、この辺を掴んでて、……)
気付けば、体調も先ほどより良くなっていた。
苦痛を感じなくなったのも、命が潰えたからだろうか、そんな、嫌な想像が頭の中にじわじわと広がり出す。それと同時に、心臓が早鐘を打つ。
とりあえず、心臓は動いているようだった。
(生きてる……と、思っていいのかな……)
レミアは、不安になりながらソルナの方を見る。すると、ソルナが口を開いた。
「な、何をしたの……!?」
「えっ……?」
狼狽した様子でそう問うソルナに、レミアは同じ質問をぶつけたい気持ちで困惑する。
「何って……、あなたが何かをしたわけではないんですか……?」
「私? 私はなんにもしてないわ!! あなたが急に苦しがって、紫色の光がぱーーっ! ってなったら、白色の光がブワッ! ってなって、気付いたらあなたがここにいたのよ!?」
「…………」
ソルナの言った情報が自分の知るものと大体一緒だったため、何も言えないままレミアは口を噤む。むしろ、ソルナの方が自分よりも事態に付いていけていないような印象まで受けた。
ソルナの言っていることと、自分が感じたことを合わせると、やっぱり自分が魔法を暴発させたらしい? ことが原因だろうか、とレミアは考える。
(じゃあ、この現象は噂と関係ない……? 少し楽になったのも、魔法を放出したからとか……?)
レミアはそれを確認しようと、ソルナに向かって質問をする。
「あ、あの……、私って、……し、死んでませんよね……?」
「死?」
ソルナは目をぱちくりさせた後、元気よくこう言った。
「さぁ……? 私にはわからないわ!」
「……」
ソルナと少し話してみてわかったことだが、おそらく彼女は裏表のない性格のようだ、とレミアは思った。今回も嘘はついていなさそうな雰囲気で、本当にわかっていないのだろう。
「でも、よくわからないけど、私も生きているし、あなたもそうなんじゃない?」
ソルナは、人差し指をレミアに向けると、指先をぐるぐると時計回りに回しながらそう言った。
そして、突然「んふふっ!」と笑う。
「びっくりしたけど、まぁいいわ! とってもちょうどいい! あなた名前は? 私のお話相手になってよ!」
レミアはソルナの指先をじっと見つめて、尻もちをついた姿勢のまま、じりりと少し後ろに下がった。
彼女の無邪気な笑顔が、一周回って怪しく見えてきたのだ。
レミアは唾を呑み込む。
その額には、じわりと汗が滲む。
そして、勇気を振り絞って答えた。
「い、嫌です……」
大変長らくお待たせいたしました。
年末年始スペシャルボーナスタイム!ということで、明日も更新します!
よろしくお願いします。




