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終焉の呪い子たち(さいごののろいごたち)  作者: 藤宮空音
第3章 生徒会編

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【第54話】澱み

「レミア・ミュー! 生意気だわ!」


目の前で、イレーナ・ジュビムーンがオレンジ色の縦ロールを揺らしながらそう叫ぶ。


「みんなが実技の練習をしている間に勉強してズルをしたのね! 卑怯だわ!」


なんだか、この光景に覚えがあった。デジャヴ、というやつだろうか。


そして、イレーナがレミアに向けて魔法を発動する。レミアが(おもむろ)に腕を上げ、人差し指をクイと小さく動かすと、目の前まで迫っていた魔法がバチンッと()ね返り、180°方向を変えてイレーナの方に向かって行った。


その魔法は、イレーナにぶつかったのとほぼ同時に、綺麗さっぱり消え失せる。代わりに、イレーナの下の床がパカリと開き、彼女は落下していく。そのまま、レミアの視界もぐらぐらと回転し出した。

暫くして、視界が安定する。気付けば、レミアは2階ほどの高さから、下を見下ろしていた。そこは、紫色に禍々(まがまが)しく揺らめく炎に包まれていた。その中に、イレーナがだらりと四肢(しし)を投げ出して横たわっている。よく見れば、イレーナの右、左、下……、至るところに(おびただ)しい数の人が積み上がっている。


レミアはそれを見て、数歩後退(あとずさ)る。


「……ア、レミア」


ふと、隣に立っている男性に呼ばれた。

彼の顔は、ぐにゃぐにゃと渦が歪んだような模様が張り付いていて、よくわからない。ただ1つ、逆光かのように真っ黒な体の首元を飾る、青色のペンダントだけが光って見えた。


突如、男性の口元が裂けて穴が開き、様々な質の音が何重にも重なった、不快な声で1つの単語を叫び始める。


「奪え! 奪え! 奪え! 奪え!!!」




「ハッ!」


レミアは、がばりと上体を起こす。前に伸ばした自分の右手が視界に入った。その手は少し、震えている。そろりと腕を下ろしながら、ゆっくりと辺りを見回せば、ふかふかのベッドと、足元で丸く縮まる猫の背が見えた。


どうやら、夢を見ていたようだった。


「……またこの夢……」


レミアは頭を抱える。最近あまり見ていなかったから油断していたが、夢の内容はいつもちょっとずつ違っていて、ストーリーが少しずつ進んでいくようだった。しかも、あまり気分の良くない方向に進んでいく。


夢の内容も、感じた感情も、まだ覚えている。部屋に差し込む朝の淡い光とは反対に、腹の奥に何か黒くて重いものが沈澱していくような息苦しさを覚えた。

レミアはそれを押し出すように、深いため息を吐く。そして、机の方まで歩いていくと、鍵のかかる引き出しから、母の形見のヘアピンを取り出した。


「最近それ、よく付けてるね」


いつの間にか、ノアが机の上に登って正面からレミアの手の中を覗き込む。


「……うん。期末試験のちょっと前くらいからかな……? お守りみたいな感じで付けてるの」


ネネさんにも「付けといた方がいい」みたいなこと言われたしね、とレミアは付け足す。


「ネネさんの言うことって、なんだか守っとかないと大変なことになりそうで怖いんだよね……」

「ふぅん。ふぁあ……」


レミアの言葉に、ノアは眠たげな様子で相槌を打つ。レミアはそんなノアをジト目で見つめた。


(話しかけといて興味ナシですか)


「……。早く学校行く準備しよーっと」


レミアはこれ見よがしにそう呟いて、そそくさと机の前からクローゼットまで移動する。

そう、何はともあれ、今日は1学期最終日。明日からは夏休みに入るのだ。そうすれば、実家であるロベルトの研究所に戻れる。何だかんだ生徒会メンバーと仲が深まってきたとは言え、皆友達と呼べるかは微妙だし、学校自体の居心地はあまり良くない。だから、一度心休まる実家に帰れることは、レミアにとって心待ちにしていたことでもあるのだ。


「行ってきまーす」


扉を開きながらノアに向かってそう呼びかけるが、なんともう、主のいなくなったベッドの真ん中を占領して、二度寝に(きょう)じていた。


「……」


さすが猫様は朝から優雅なものだ、と少々皮肉めいたことを思いながら、レミアは学校へと向かって行った。



***


レミアは、聞き耳を立てながら、ゆっくりと廊下を歩く。


「ねぇ! 知ってる!? どんなに苦しくても死なない病気、みたいなのが王都で流行ってるって噂!」

「知ってる知ってる! 毒に一日中苦しむとか、身体の自由を急に奪われるとか、ってやつでしょ? 怖くない?」


「え、ねぇねぇねぇ! AクラスのレブリーンとEクラスのザヌアが付き合ってるらしいよ!」

「まじ!? 階級差ヤバない!?」


「なぁ、シャユン先生のテスト、よく探すと問題文に全部答えが書いてあったらしい。まるで謎解きだよな」

「ほー、さすがやんな。ほんま難しいテストやと思っとったけど、そんなカラクリがあったなんてなぁ……」


期末試験が終わり、夏休みを目前にして、皆浮かれた様子で話している。廊下のあちこちから、さまざまな噂が聞こえてきた。


(なんか怖い病気が流行ってるのかな……? おじさんなら何か知ってるかも)


レミアはそう考えながら、いつも通り教室に向かう。

皆噂話に夢中なのかと思いきや、時折レミアの方を見ながらヒソヒソと噂する2人組などもいた。最初に比べれば随分減ったが、魔力なしから魔力発現、さらには歴史上5人目の紫ピンズになった人間は、やはりまだ珍しいようで、いまだにこうして好奇の目で見られることがあった。


(でも、今日が終われば2ヵ月くらいは学校来ないで済むもんね)


そんなことを考えながら歩いていると、ふと、気になる噂が耳を(かす)めた。レミアはそれを聞きたくて、廊下の壁際で鞄の中をまさぐるフリをしながら、その場に立ち止まる。


「ユーヴェリアの七不思議が一つ……。呪いの絵画のお話をして差し上げましょう……」

「この学園、七不思議とかあんだ」

「……いや、あたしが今勝手に作った」

「おい」

「でもでもぉ、呪いの絵画の話はホント! 毎年、夏休み前になると、生徒が数人……死んじゃうの。それも、決まった絵画の前でだけ……。魂を抜かれたように皆パタリと一瞬で……!」

「えぇ? 偶々(たまたま)倒れただけなんじゃないの」

「ほんとだってば! 昔の学園新聞に載ってるんだから!!」

「えー……?」

「信じてないでしょ! ソルナの肖像画の前で人が死ぬの!!」

「でもアンタの目では見たことないんでしょ?」

「……うっ、ない、けどぉ……」


(ソルナの肖像画ってどこだろ……? 怖いの嫌だし、近くを通らないようにしよう……)


あまりずっと立ち止まっていても不自然なので、レミアは歩き出し、そのまま教室へと向かって行った。




***


ユーヴェリア学園で終業式が始まる頃、女子寮の入り口に、珍しい人影が一つ。


「こんにちは」

「こんにちは。認証をしてちょうだい」

「あら、そうだったわね。懐かしいわ」

「ん? あら。カトレア・シェンメリーじゃない」


絵画の少女がぱちりと目を開き、相手の姿を確認すると、そう名前を呼んだ。


「十数年ぶりかしら。大きくなったわね。王立病院院長、兼、医大臣のカトレア様」

「やめてよ、私の実力だけでなったわけでもないのに、恥ずかしいわ」

「ふふふ。それで、今日はどんな用件で来たのかしら? 事前申請は来てないけれど」


絵画の少女が、にこりと笑ってそう言う。例え卒業生でも、申請なしでは入ることは許可出来ない、と暗に告げていた。


「ええ。寮内に用があるわけではないの。貴女(あなた)に用があって来たのよ。レミア・ミューの魔力について、聞きたいことがあるの」


カトレアはにこりと笑ってそう言った。2人とも、無言で微笑み、見つめ合う。

すると、コンコンと叩く音がして、内側から声がした。


「ルナリア。遅刻の生徒が出たいみたいなんだけど、取り込み中? 不審者?」

「……いいえ。今開けるわ」


ルナリアと呼ばれた絵画の少女がそう答えると、絵画がゴゴゴゴ……、と音を立てて横にスライドする。遅刻の生徒は、出口が見えるなり、急いで寮を出て行った。


「……ね、姉さん……?」


カトレアは、壁に開いた穴から、寮のロビーに立つネネを見て、ぽつりとそう呟いた。

姉さんと呼ばれたネネは、一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐさま眉根を寄せ、顔を歪めた。そして、


「閉めて!」


と叫ぶ。


2人の様子を確認したルナリアは、ネネの味方をすることに決めたらしい。絵画が先ほどと同じように、横にスライドし始めた。


「ま、待って! 姉さん! ねぇ、探したのよ!? どうしてここに……!」


カトレアはそう叫んでいたが、穴に飛び込むのは危険だと判断したのだろう。その場から動けぬまま、2人を繋いでいた壁の穴は塞がった。


「姉さん! ねぇ! 一度でいいからまた話がしたいの! 私、いつでも病院にいるから……。今度……、来てよ…………。ねぇ……」


それ以降、カトレアの声は聞こえなくなった。


それから暫くして、ルナリアがネネに話しかける。


「帰ったわよ」

「……そう」


ネネはそれだけ言うと、「予言……、いや、占いだけでもしておけば良かった」と呟いた。


「今度来たら、追い払っといて。ついでに、レミア・ミューに関わるのは危険だって言っておいて」

「……約束出来ないわ」

「……」


ネネは、無言でルナリアの絵画のある方を見つめた。その様子を背中で感じ取ったのか、ルナリアは静かに問いかける。


「……もう、二度と会えなくなってもいいの?」

「…………いいよ」

「死に別れても?」

「……………………いいよ」


ネネは俯いて、爪を見つめながら言った。


「あたしはもう、シェンメリーの人間でもないし」


少し間を開けて、ルナリアは「そう」と、それだけ言った。


ロビーには、ネネがルービックキューブを無意味に動かす無機質な音だけが、静かに鳴り続けていた。


今回も大変お待たせいたしました。

これにて第一部終了になります!

ここまで長らくお付き合いいただきまして、本当にありがとうございました。これからもどんどん盛り上げていきたいと思っているので、引き続きどうぞよろしくお願いします!



閲覧ありがとうございます!

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まだの方もぜひ応援していただけるとモチベに繋がって嬉しいです!

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