【第49話】ロイリー・ノーゼン、アンバー・タッガオ②
「……えーっと、聞いてたッスよね……?」
気まずい空気を破ったのは、ロイリーだ。
レミアはそーっと、首を縦に振る。
「あ〜……っと、そうッスね……。忘れてもらうこととかって……」
「……」
レミアは「わかりました」と答えようとしたが、中々気になることだらけだったので、口を閉じる。引き下がりきれず葛藤を続けた結果、そのまま口を開いたり閉じたりと、ぱくぱくさせてしまった。
「……無理そうッス……よね」
「…………はい」
おずおずとそう言うロイリーに、レミアは申し訳なさそうにこくり、と頷いた。
「あ〜〜……、えっと、俺……、実はこの喋り方、作ってるって言うか……ホントの俺じゃないんスよ」
ロイリーはポリ……と、恥ずかしそうに頬をかきながらそう言う。
アンバーはというと、羞恥心に耐えられないらしく、耳まで真っ赤にして斜め下を向いていた。
すると、ロイリーが突然、「あ!」と声をあげる。
これ以上何事だ……?と思いながら、ロイリーを確認すると、彼は慌てた様子でこう言った。
「俺がレミアを追いかけてきたのは、決してストーカーとかじゃないス! ちょうど現場を遠くから見かけてて、それで作為的なものを感じて……」
「あ、わかってるので大丈夫です」
レミアはスッ……と右手を持ち上げると、手の平をロイリーの方に向けて、ストップ、の姿勢をとった。
その辺に関しては、ロイリーとアンバーの会話内容でなんとなく予想が付いていたし、レミアは何よりも先の話が聞きたかったのだ。
しかし、自分で思っていたよりも平坦な声が出てしまい、内心少し驚く。
「あ、そ、そっか……」
ロイリーは、あまりにもヌルッと流したレミアの態度に少したじろぎながらもそう答えた。
「まぁ、恥ずかしいんスけど、そんな感じで……。本当の俺とか偽りの俺とか、なんかポエムみたいっていうか、ガチ恥ずかしいス……」
ロイリーはそれだけ言うと、しきりに恥ずかしがるだけで、続きを話すような気配が感じられない。
「えっと……、あの、終わりですか?」
「え?」
「続きとか、経緯とかって……」
「え……!? いやいやいや! ないッス……! ガチ超恥ずいんで。キツいッス」
ロイリーは、慌てた様子で、首と手の平を横に振って否定する。
「いやいやいや! ここで切られたら気になりすぎますって……!」
「いやでも超無理なんス!」
(っていうか、バレたらまずいと思ってたポイント、喋り方だけ……!? 2人の関係性の方が気になりますよ!?)
痺れを切らした様子のレミアが、勢い余ってロイリーの両腕を掴み、顔を近付けて訴えていると、2人の間をジョキンと切るように、アンバーの腕が目の前にわりと速いスピードで振り下ろされた。
「ひっ……!」
レミアは驚いてロイリーの腕を離して一歩後ずさる。すると、その隙間に捩じ込むように、アンバーが体を割り入れてきた。
「俺が説明するからロイリー先輩に近寄んないで」
「へ?」
「えっ!?」
レミアがきょとん、としていると、目の前でロイリーがわかりやすく慌てる。アンバーには話してあるんだな……、とレミアは感じた。
(ん……? ていうか、今までのアンバーの嫌〜〜な態度って、もしかして私がロイリー先輩と仲良くしてたから……!?)
レミアはそんな可能性に気付いたが、ここは彼の協力を得てロイリーの過去を聞き出したいところなのだ。余計なことは言うまい、と、出かかった言葉を呑み込む。
「わかった。聞かせて」
レミアがロイリーから1歩離れてそう言うと、アンバーが口を開く。
「これは、ロイリー先輩が初等科4年生のときの話」
ロイリーは「えっ、ちょっ、待っ」など、色々と抗議していたが、アンバーは構わずに話し始めた。
――――――――――
「もうロイリー抜きでやろうぜ」
「え?」
ふと、リーダー格の男児が言う。
「さんせーい」
「オレも!」
放課後の学校のグラウンド。夕日に背を向けて、男児5人組がロイリーに対峙するように並んで立つ。長い5つの影が、ロイリーを襲う怪物のように伸びた。
「な、なんで?」
ロイリーは慌てた様子で、助けを求めるように5人に聞く。
「だってつまんないもん」
「ロイリーいると全部勝っちゃうじゃん」
「何でも出来るからおもしろくなーい」
「そーだそーだ!」
「天才は引っ込んでろー!」
5人は口々にそう言う。
ロイリーは、彼らがなぜそう思うのかが、全くわからなかった。
(なんで……? こんなに楽しかったのに? 楽しかったのは俺だけ……? どうしてみんなはこんなに機嫌が悪いの?)
「ど、どうして……? 俺、何か悪いことしたの……? だ、だったら直すよ! みんなが出来るように教えたっていいし……」
ロイリーがそう訴えると、5人は顔を見合わせた。
「悪いことはしてないけど……」
「してるじゃん! 何でも全部勝つのはひきょー! ふびょうどう! りふじん!!」
「オレはロイリーから教わるなんてやだね」
そうして、わけがわからぬまま、ロイリーは遊びの輪から追い出された。
それからというもの、ロイリーは放課後が来ると、5人の後をついて回り、一緒に遊んでくれるように頼み込んだ。
何日か経った頃だった。
「わぁ〜かったよ。今日はサッカーやるから人足りないんだよね。コートの端っこに立ってて。線からは出ちゃダメだから」
そう言って、彼が指差したのは、コート全体の4分の1ほどのスペースだった。
「わ、わかった!! ありがとう!!」
ロイリーは目を輝かせると、許可をくれたリーダー格の男子にお礼を言った。そして、嬉々として指定されたコートの位置に立って、試合が始まるのを待つ。
試合開始から約10分。
(あれ……? サッカーってこんなにつまんなかったかな)
ロイリーは、狭いコートの中でウロウロしながらそう思う。あんなに遊びたくて仕方なかったはずなのに、待ちに待った、みんなとのサッカーだったはずなのに。全く楽しくない。
全然ボールが回ってこない上に、自分が持ったと思ったら、ボールはすぐに線の外に出て行ってしまうのだ。
もどかしい。もっと出来るのに。
コートの真反対の方で、団子のように、ボールを中心に固まっている皆を眺める。
「……あ」
(これ……か。みんなが感じてた気持ち)
参加出来ない。活躍出来ない。つまんない。
それから、
自分より活躍してる子がいると、おもしろくない。
っていう、ちょっぴり苦い気持ち。
「……何でも出来たらダメなんだ。……1人でやっちゃダメなんだ。みんなが、楽しくなれるように振る舞わなきゃ……」
ロイリーは、ぽつりと呟く。
「危ない!」ふとそんな声が聞こえた気がして、ぼーっとした頭を引き戻す。
瞬間。
目の前にサッカーボールが接近していた。
「……ッ!」
ロイリーは、首を捻り、それをすんでのところで躱した。
「ナイッスーー!!」
「うお、すげー!!」
ドッドッドッドッ。
ボールが地面につき、転がっているその間も、ロイリーの心臓はドキドキしていた。ロイリーは、思わず心臓を押さえて、その場で固まる。
(…………っぶな。び、びっくりした……)
「ロイリーボールとってー!」
「あ、う、うん……!」
ロイリーは遠くまで転がってしまったボールを取りに走る。やっと追いつくことが出来たボールを拾い上げて、ふと、思い付いた。
(わざと、失敗してみようかな……?)
心臓が嫌にドキドキする。
わざとゆっくり歩きながら、ボールを地面に置く。
「おせーよー!」
「ごっ、ごめん!」
声がひっくり返るかと思うほどの緊張を抑え、ロイリーは脚を後ろに蹴り上げる。それから、大きくブンッと振って、そして、
盛大に空振りをした。
グラウンドがシーンと静まり返る。普段は、耳に入ることのない、知らない鳥が鳴いている声が聞こえた。
「ぷっ、あはははははは!!!!!」
静寂を破って、みんなの笑い声がこだました。
「おまっ、気合い入れて超空振ってんじゃん!」
「めずらしっ! え、何、どうしたんっはっはっは!」
ロイリーは、成功を段々と確信していくとともに、目を見開く。終いには、満面の笑顔でこう言った。
「いやっ、俺っ、久々のサッカーで緊張してっ……!」
あはははは!
皆は大爆笑した。
おかしくて、おかしくて、おかしくて、おかしくて、おかしくて、嬉しくて。
ロイリーはその日以降、わざと失敗したり、出来ないフリをするようになった。
ふざけたり、おちゃらけたり、軽い感じで接すれば、更にウケが良くなる手応えを感じていた。ちゃんと出来る能力と、ちゃんとしてない態度のギャップが、上手く人を惹きつけるようだった。
そして、「〜〜ッス!」という喋り方も、この時に身につけたものだった。
それは、初等科5年生の冬、2つ年下のアンバー・タッガオと出会うまで続くことになる。
更新遅くなってすみません。時間は未定ですが、特に変更なければ明日次話更新します。
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