【第4話】予言
※魔法至上主義→魔法絶対主義という表現に変えました。(あらすじ、第1話改稿しています)
※前話(第3話)、更新後にレミアの心情を1文追加し、改稿しています。読み直しが必要なほど変えてはいませんが、ご注意ください。
朝。
目を覚ます。いつもと変わらない屋根裏部屋。
でも、気持ちの良い目覚めだ。
陰鬱とした平日を終え、土曜日がやってくる。いつもだったら、平日よりは人に会わなくてマシ、程度のものだが、今日は違う。ご褒美みたいな休日だ。
なんていったって、エドワルド・サンダーに会えるのだ。
(やっと……土曜日だ)
レミアは軽やかな足取りで出かける準備を進める。自分でも引くほど、気分が高揚していた。
(らしくなさすぎ……)
レミアは一旦、ふーーーーーーーっと息を吐くと、深い深い深呼吸をして気持ちを落ち着かせた。黒猫も、それを見て不思議そうな顔をしている。
普段は仏頂面のレミアの、そんな様子が余程珍しいのだろうか、黒猫は後ろ脚を蹴ったかと思うと、ぴょんと少女の肩に跳び乗った。
「わっ!? ノア危ない!!」
ノアは肩乗りサイズの小さな猫ではない。
落ちてしまうであろうノアをキャッチできるように手を用意するが、全く落ちてこない。それどころか、どこ吹く風で「ナーン」などと鳴いている。よく見ると、体の半分は肩から浮いているような気がする。
尤も、顔のすぐそばに乗られているので、よくは見えないが。
(え、重心どこ? なんで乗ってんの?)
「ノア……もしかしてアンタ、魔法使えるの?」
「ンナァ?」
魔法だとしたら、浮遊魔法とかかな……などと思いながらレミアがそう聞くと、ノアは何?とでも言いたげな声を出す。その後、ズルズルと落ちていったが、さすが猫。シュタッと華麗に着地した。
「まぁ、まさかね……」
ぽそりと呟くと、パッと切り替えてひとりごとのように黒猫に話しかける。
「ねぇノア、服どうする? なんか気分が上がるのがいいよね」
そういいながらレミアは両開きの小さなクローゼットを開ける。改めて自分の服を見渡すが、生憎かわいい服など持っていない。
「……ん〜、なるほど。気分を落ち着かせる服の方がいいよってことだ」
そう呟きながら、あの綺麗な人の隣にギリギリ立てるくらいの服をなんとか探す。
「これは……地味すぎて目立つか。じゃあこっちは……あ、待ってヨレすぎ」
そして結局、ちょっとだけ刺繍の入った小綺麗なシャツと膝丈の黒いプリーツスカートを選んだ。
それを身につけ、軽く髪をセットして、長方形で平べったいシンプルな銀のピンを取り出す。
付けようとして、やっぱりやめた。
「行ってきます、お母さん」
そう呟いてピンを、チェストの鍵のかかる引き出しに大事にしまう。
このピンは母の形見だ。とても大事なものだから、失くしたくないと思って、今日は置いていくことにした。
「っさて、ショボい朝食でも食べに行きますか」
「ンナァ〜」
気を取り直して伸びをしながら元気良くそう言うレミアに、ノアも元気良く返事をした。
「行ってくるね、ノア!」
寮の食堂に着くと、すでに学生たちがちらほらといた。しかし、休みの日なので人はまばらだ。
レミアはカウンターに向かうと、カードリーダーに学生証をかざす。カードリーダーは特殊な魔法が込められた魔道具で、厨房に「何々ランクの誰が来た」という情報を伝える。
少し待てば、自分のランクに応じた食事がトレーに乗って出てくる。今日は、じゃがいもの冷製スープだ。
今日も、じゃがいもの冷製スープだ。
「もうこの札、いらないんだけどな」
レミアはそう呟きながら、「ヴィシソワーズ」とメニュー名が書かれた札を流れるようにゴミ箱に捨てる。
(じゃがいもの冷製スープはヴィシソワーズね)
覚えちゃったよ、もう、と思いながら、顔を少しだけ上げて、空いている席をサッと探す。幸いなことにガラ空きだったので近くの席に座ることにした。
なるべく誰とも顔を合わせないように下を向いて歩く。
レミアが席について食べ始めようとすると、後ろを通る女子生徒がクスクスと笑う。いいじゃないか、別に。じゃがいもの冷製スープだって。レミア自身もショボいなどとは言っていたが、さすがユーヴェリア学園。最低ランクの食事でも、味は普通に美味しい。
レミアはそんな彼女たちをいつものようにスルーし、いつもはのんびり食べるスープを無意識に早く飲み込む。さっさと食べ終えると席を立ち、食堂を後にした。
廊下に出て、下へ降りる階段に向かう途中、運悪く同じクラスの女子生徒2人に出くわす。
「あれ、レミア・ミューじゃん」
「屋根裏部屋は快適〜?」
クスクスクス。
(アンタらだって落ちこぼれなのにね。寮のランクが違うだけでこんなことしちゃってさ)
レミアは心の中でそう呟きながら、無言で彼女たちの横を通り過ぎる。1秒だってこいつらのために足を止めてやる暇はないのだ。
寮のランク──そう、それは成績順に分けられた学園でのクラスを元に決められる。学園内でのクラスは全部で5つ。成績順に、上からA→B→C→D→E。至ってシンプルだ。
それを元に、寮ではランクをもう少し細かく分けているらしい。だが、レミアはよく知らない。別に知らなくたってどうせ1番下だ。
(魔力がなきゃ上がりようがないし。
はぁーあ、それにしたってほんとにルールだらけ)
そう、この世はルールだらけ。
だけど仕組みは簡単。
根本にあるのは魔法絶対主義。
(出来る奴が上で、出来ない奴が下……ね)
レミアはもう一度深くため息を吐く。
(ま、それだけ、か。
まぁ、なんでもいいや! 今はね!)
いつもはこういう嫌味を気にしないようにしていたが、今日は全く気にならない。
これ以上くだらない言葉で時間を無駄にしないよう、レミアは足早に寮を出……ようとした。
「鈍く光る白。それは留めるもの。手に入れなくちゃいけないのに、それはあなたのものじゃない」
「……? あの……?」
急になぞなぞだろうか……?
意外にも声をかけてきたのはネネだ。
「予言の魔法、知ってる?」
ネネは相変わらず感情の読めない顔で問うてくる。
「そ、存在は知ってます。占いの魔法の精度を上げたもの、ですよね……?」
「そう。魔法の中で一番しょうもない魔法」
「……そ、そんなこと」
実際に見たことも使ったこともないレミアは、予言の魔法がどの程度のものかわからず、とりあえずフォローを入れる。
「授業でもやんないでしょ。趣味の領域の魔法なんだよ」
「……はぁ」
話の本題が見えないレミアは、何とも間抜けな相槌を打つしかなかった。
「あたしの一番得意な魔法、それ」
そう言いながら、ネネは木製のルービックキューブを摘んで見せた。
通常のルービックキューブよりもやや小さいそれは、特に色などもついておらず、表面の1マス1マスに何か模様のような、マークのようなものが書いてあるだけだった。
遠目からでは揃っているのかいないのか、サッパリわからない。
「さっきのは、あなたに向けた予言」
「……え」
レミアがその言葉を理解しようと固まっている内に、ネネは立ち上がって寮母室の奥へと消えていってしまった。
「…………えぇ……?」
ネネ…初登場第1話。女子寮の寮母。
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情報が多くてすみません。重要な情報は後にもう一度出したり、後書きで補足しながら進めたいと思うので、ちょこちょこ忘れても大丈夫です。