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終焉の呪い子たち(さいごののろいごたち)  作者: 藤宮空音
第3章 生徒会編

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【第47話】クラリス・ホンジール⑤

それから、クラリスはルクスと1頭のポニーに乗って森を抜けた。


心臓がドキドキして、頬が熱くなって、後ろに乗っているルクスのことしか考えられなくて。

だから、このときのことはあまり覚えていない。


ただ、背中に伝わる体温と、馬の揺れに合わせて、時折聞こえてくる荒い息遣いだけを、妙にずっと覚えていた。


──それから、中等科に入るまで、彼と会うことはなかった。


――――――――――


「どこからか、風の噂でね。彼がユーヴェリア学園の中等科を受験予定だと聞いたわ。そのときに、1つ年上であることも、ウォーレーの血筋だということも知った」


クラリスはそう言って、一口、紅茶を口に含む。


「到底叶う相手ではないと知りながらも、物語のヒロインに憧れていた私は、両親に無理を言ってユーヴェリアを目指すことにしたの」


そうして、クラリスは淡々と続ける。



(うち)は裕福な方ではなかったから、ユーヴェリアなんてまず選択肢に入らないような家庭だったんだけど、私の恋心を知ってか知らずか、両親は「クラリスが行きたいなら」と優しく快諾してくれたわ。もしかしたら、両親も玉の輿(こし)を少し期待していたのかもしれないけれど……。


私は自分が優秀であると自惚(うぬぼ)れていたから、ユーヴェリアには頑張って勉強すれば入れると思っていた。それに、実際入れたのよ。両親はものすごく喜んでいたし、私もとても嬉しかったわ。


だけど、ユーヴェリアに入ってから気付いたの。自分が井の中の(かわず)であったことを。


田舎の初等科じゃ常に1番だったけど、国最高峰のユーヴェリアに入って最初の試験を受けて。何位だったと思うかしら。


下から10番目よ。


そこから必死に勉強して、高等科1年のときに生徒会に入って、彼に再会して。……それで、今があるの。



クラリスはそこまで話すと、ふぅ、とソファの背にもたれかかった。


「あの人の隣に立ちたくて、相応(ふさわ)しい人になりたくて……。だから、ずっと頑張って来れたの」


そう言ってこちらを見ると、クラリスは花がほころぶように、優しく笑った。その表情には、今までを懐かしむような感情と、少しばかりの疲れが滲んでいるように、レミアは感じた。


「……ぁ、えと、ルクス先輩のことは、えっと、まだ好きなんですか……?」


レミアはこの手の話題に(うと)く、どう言えば良いのか迷いながらも、そう聞く。

恋人どころか、友達すらいないようなレミアに、恋の話はかなり遠いものだった。


(結局今のクラスでも友達出来なかったしな……)


Aクラスの皆には、一定の距離を置かれているし、そもそもAクラス全体が、友達同士でも腹の内でバチバチしているような雰囲気を感じるのだ。


そんなことを考えている間に、クラリスもレミアの質問への答えを考えているようだった。(しばら)くして、クラリスがゆっくりと口を開く。


「……そうね。好き、ではあるわ。だけど、あの頃のように、熱く恋焦がれたような気持ちはもうなくて……。ただ、この人の生き(ざま)を見守りたくて、その背中を追いかけたくて、そして幸せでいて欲しい。そんな気持ちだけが残っているわ」


クラリスはどこか斜め上の方をぼんやりと眺めていた。


「素敵だと思います」


レミアは、決してフォローなどではなく、本当に素敵な関係だと思ってそう言った。すると、クラリスはこちらを向いて、眉を下げながら笑った。


「そうかしら……? ありがとう」

「ルクス先輩も、そんな風にクラリス先輩のことを思ってくれているんでしょうか?」

「うーん……。ないと思うわ」

「えっ……、ど、どうして……!?」


あまりにもクラリスがきっぱりとそう言うので、レミアは慌てる。


「会長は私のことなんて覚えてないはずだもの。まず中等科のときに関しては大して知らないと思うわ。高等科の生徒会に入ってきて、そこで初めて話した女子生徒の1人、くらいの認識じゃないかしら」

「……え!? 昔の出会いから、高等科生徒会まで全く話さなかったんですか!?」


レミアは驚いて、思わず大きな声が出てしまった。


(運命的な再会の詳細を、恥ずかしいからって()えて教えてくれてないだけかと思ってた……)


「当たり前じゃない。彼はこの学園で1番の知名度があって、1番の人気者なのよ? こんな一般人が、用もなく軽々しく話せる相手じゃないのよ」

「そ、そっか…………。いや、……ん!? そ、そういえばさっきルクス先輩はクラリス先輩のこと覚えていないって言いましたか!?」


レミアは納得しかけたが、先ほどのクラリスの言葉を唐突に思い出し、再び混乱する。


「……えぇ。それも当たり前よ。私なんかその辺にいるただの人なんだから、覚えてなくて当然よ。会長のような美貌も、目を惹くような特徴もないわ。昔とは見た目も変わってしまったし。再会しても特に何も言われなかったわ」


クラリスは、やや目を伏せて、少しだけ悲しそうにそう言った。


「いやいやいや! ルクス先輩が異常レベルで綺麗なだけで、クラリス先輩も十分お美しいし、ハニーブロンドの髪もエメラルドの瞳もほんっとに綺麗です!!」


レミアはそう叫んでからハッと我に返る。つい熱くなりすぎてしまった。クラリスは少し恥ずかしそうに目を見開いて、こちらを見ていた。


「す、すみません……」

「いえ……」


2人の間に、若干気まずい沈黙が流れる。

レミアはまた焦って、頭に思い浮かんだことを口走る。


「そ、そうだ! ルクス先輩のことだから、知らないフリしてるだけってこともあるかも……」

「……ありがとう。もういいのよ」

「…………」


(や、やってしまった……? 色々衝動で言いすぎちゃったかも……)


レミアが何も言えずにいると、クラリスはこちらを見て優しげな声色(こわいろ)でこう言った。


「私は別に不幸ではないのよ。彼を近くで見れるところまで来た今、とても幸せだわ」

「……! そ、そうですよね、全部クラリス先輩が頑張って来た結果ですもんね! おめでとうございます!」


レミアがハッとしてそう言うと、クラリスは今度はにっこりと笑ってくれた。


「ありがとう」


そして、「あら、もうこんな時間。遅くまでごめんなさいね」と言って、立ち上がる。


時計は、19時半を指していた。

別にまだいてくれてもいいのに、とレミアは思ったが、明日も平日だ。あまり引き留めても良くないと思い、クラリスを扉まで送った。


「今日はありがとうございました! た、楽しかったです……!」

「こちらこそ。楽しかったわ。あなたのことも、応援してる」


レミアが緊張気味に、素直にそう伝えると、クラリスもそう(こた)えてくれた。


2人は手を振り合って別れを告げる。

少しだけ近づいた距離に、レミアの心はぽかぽかとしていた。


閲覧ありがとうございます!

高評価、ブクマ、感想、リアクションなどなど、大変励みになっております!ありがとうございます!

まだの方もぜひ応援していただけるとモチベに繋がって嬉しいです!


中々気に入らなくて、丸ごと書き直していたら、更新が遅くなってしまいました。すみません。

クラリス編(?)これにて終了です。そして、第一部終了まであと一山って感じになります。

引き続きよろしくお願いします。

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