表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終焉の呪い子たち(さいごののろいごたち)  作者: 藤宮空音
第3章 生徒会編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

48/68

【第46話】クラリス・ホンジール④

「……もーし! もしもし! あ、目が覚めたみたい」

「! ……?」


クラリスは、強めに肩を叩かれ、目が覚める。

目の前には、世にも美しい男の子がいた。薄っすらと青みがかったシルバーの髪は、月明かりに照らされて透けるように輝いていたし、蒼い瞳を縁取る長いまつ毛も、月光を反射してキラキラと光っていた。


(……王子様だわ)


彼を一目見て、クラリスはそう思った。

ちょうど最近、クラリスが密かにハマっていた恋愛小説の王子様に、彼はそっくりだったのだ。


家族から(しいた)げられてきた少女が、ひょんなことから王子様に見初(みそ)められ、結ばれるあの話。

そんな話の主人公みたいなことが、自分にも起こっている。


まるであの小説の出会いみたいだ。


「大丈夫?」

「……ぁ、えぇ。大丈夫よ」


なんとなく恥ずかしくて、少しだけ強がって答えてみたが、よく考えてみれば全然大丈夫ではなかった。段々と()めてきた頭は、色々なことを思い出し始めていた。

森で迷ったこと、ひとりぼっちで心細かったこと、見つけてもらえたこと、安堵(あんど)したこと。その全てが急に襲いかかり、「大丈夫」と言ったそばから、クラリスは突然顔を歪めて泣き始めた。


「わお、泣いちゃった」


その様子を見て、ルクスが珍しいものでも見るようにそう言う。


「こら、ルクス。ごめんね、お嬢さん。お名前はわかるかな?」


ルクスの後ろにいた男性は、前に出て膝をついてしゃがみこむ。そして、座り込んでいるクラリスの目線の高さまで合わせると、そう聞いた。その後ろには、隠れるように小さな女の子が立っていた。月光を背に、緩くウェーブを描いたプラチナブロンドが、透けるように薄っすらと光る。逆光ではあったが、これまた彼女が息を呑むような美しさで、まるでお人形のような容姿なのは明らかだった。


「……クラリス・ホンジールです」

「クラリスさんだね。じゃあお家の場所はわかるかな?」

「……わからなくて、迷ってしまいました。住所は、言えます」

「そうか、偉いな。私に教えてくれるかい?」

「はい……」


そうして、優しく聞いてくれた男性に、クラリスは自分の住所を伝えた。


「そうだね、そこならそんなに離れてないが……、君の足では随分と歩いただろう。馬車に乗せてあげたいところだが、生憎(あいにく)ここまでは入れなくてね。馬でも良ければ、乗せて送ってあげよう」

「……いいんですか……?」


(……あぁ、助かったんだわ)


クラリスはホッと安堵のため息を吐く。

しかし、また新たな不安が頭の中を占めた。


(この人たちを信用していいの?)


よく読んでいる物語では、安心したときや、幸せな展開に向かうと思ったときこそ、それが反転するのが定石(じょうせき)だった。

だから、クラリスはどうしても不安が拭えなかった。


見ず知らずの自分に、どうしてこんなに良くしてくれるのだろう、もっと更なる不幸がこの先に待っているんじゃないか、そんな考えが(よぎ)る。

しかしその一方で、こんな小さな子どもが森で倒れていたらこうなるか、と傲慢(ごうまん)にも冷静に考えている自分も頭の隅にいた。


「もちろん。さぁ、立てるかい? まずはあのコテージまで帰らなきゃ」


そう言って、男性はクラリスの左側の森を指差す。クラリスは、それにつられて左側に顔を向けた。よく目を()らして見れば、木々の隙間から、小屋の明かりが漏れ出ていた。


(……どうしてあのコテージに気付けなかったんだろう)


湖まで走ってきたあの時の自分が、自力で助かる手段に気付けなかったことに少し悔しさを覚える。


そんなことを思いながら、クラリスが立ちあがろうとすると、思うように足に力が入らず、フラリとルクスの方に倒れかかってしまった。


「おっと、大丈夫?」


ルクスは、自分よりも背が低かったし、スラリとしていたから潰してしまうかも、とクラリスは不安を覚えたが、意外にも彼はしっかりとクラリスを支えた。思いの外、体幹が強いのかもしれない。


「ご、ごめんなさい」

「いいよ。僕が支えるから、あそこまで一緒に歩こう」

「……ありがとう」


クラリスは少し赤らんだ頬を隠すように下を向いた。

そうして、湖に沿って歩き始めた2人を見守るように、男性と少女が後ろをついて歩いた。


「僕はルクス。君はクラリスだっけ? どうしてこんなところにいたの?」

「……考えごとをしていたら、迷い込んでしまっていたの」

「考えごと? 何を考えていたの?」

「私は正しいことをしているのか、それとも、間違っているのか……」


グイグイと質問を重ねてくるルクスに、クラリスはぽつり、ぽつりと答える。


「ふぅん。それは答えが出ることなの?」

「……え?」

「考えたら、正解って見つかるの? 誰かが、まるばつを付けてくれるの?」


クラリスはハッとして、思わず立ち止まる。それに合わせるようにして、ルクスも足を止めた。後ろの2人は、やや遅れるようにして、談笑をしながらゆっくりと歩いていた。


「あ、ねぇ見て。湖に(うつ)る夜空がとても綺麗だ」


ルクスは右横の湖を見て、突然そう言う。


(今……? たしかに綺麗だけど……)


クラリスは、ルクスのその自由さに少し困惑する。でも、たしかに湖は綺麗だった。1つの揺れもない、鏡のような静かな水面が、満天の星空をそのまま(うつ)していた。


「君は今どう思った? 僕の行動は正解だと思う?」

「え……」


唐突にそう聞いてくるルクスに、クラリスはまたもや困惑した。彼は、ジッとクラリスの瞳を見つめたまま、口を開かない。答えるのを待っているようだった。


「……そうね、他人(ひと)と話しているときは、あまり唐突に別の話題を持ち出すべきではない気がするわ……」

「そうだね」


そこでルクスはこくりと頷いた。そして、続けてこう言った。


「でも、じゃあ忘れない内に、君にも綺麗な景色を見せたいと思った僕は間違い?」

「……」


そう問われ、クラリスはじっくりと考えてみる。彼は間違っていたのか。


でも、いくら考えても、自分の答えも、彼の行動も間違いだとは思えなかった。


「……間違えては、いないと思うわ。素敵な考えだと思う。……だけどやっぱり、あまり関係のない話は割り込ませるべきではないと思うの……」


すると、ルクスは、ふふ、と今日初めて笑顔を見せた。


「そうだよね。どっちが正しくて、どっちが間違いかなんてないんじゃないかな。今やったみたいに、君自身がこれはこうあるべきだ、と信じたいものを信じたらいい。僕は、そんな風に自由に生きている」

「……」


クラリスは、目から鱗が落ちたかのような衝撃を受けた。今まで、そんな考えをしたことがなかった。でも、彼が言っていることが、とても()に落ちたから、感動したのだ。


「あ、ありがとう……」


やや放心状態でそう言ったクラリスを見て、ルクスはまた、ニコリと笑った。


「どういたしまして」


そして2人は、並んで歩き出す。

クラリスはもう、ルクスの肩を借りずに自分の足で歩いていた。


夜空を彩るたくさんの星々が、彼らを静かに、優しく、照らしていた。

閲覧ありがとうございます!

高評価、ブクマ、感想、リアクションなどなど、大変励みになっております!ありがとうございます!

まだの方もぜひ応援していただけるとモチベに繋がって嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ