【第44話】クラリス・ホンジール②
今度はいつもより長くなってしまいました…。
配分がド下手ですみません。
──昔話をしましょうか。
クラリスがそう言ったとき、ちょうど寮に帰ってくる生徒たちの話し声が聞こえ始めた。よく見てみれば、寮はすぐそこまで近付いていた。
2人で顔を見合わせる。
なんてタイミングが悪いのだろう。
なんとなく、クラリスは「また今度にしましょう」と言うような気がして、レミアは我先にと慌てて口を開く。
日を跨いだら、やっぱりやめましょう、ともなりかねないと思ったからだ。
「わっ、私の部屋でもう少しお話ししませんか……!? クラリス先輩が良ければですけれども……」
クラリスは少し悩んでいるようだったが、やがて、
「じゃあ……、お言葉に甘えてお邪魔させてもらおうかしら」
と言った。
***
レミアはやたら大きな扉を開き、中にクラリスを招く。
すると、中からニャ〜〜オ、と猫撫で声が聞こえてきた。もちろん、その正体は猫のノアだ。
(お願いノア! クラリス先輩の前では喋らないで……!)
レミアはそう念じながら、ノアの目を見つめる。すると、たぶん伝わったのだろう。ノアがコクリと頷いたようにも見える動作をした後、ニャ〜と言いながら、2人の足元に寄ってきた。
「わっ……! 猫?」
「あっ!!! そういえば猫大丈夫ですか!? 確認してなくてすみません!!」
レミアは焦りながら、足元のノアを即座に抱き上げた。もし苦手だったら大変だ。
「ありがとう、問題ないわ。猫、好きよ」
クラリスは優しくそう言うと、少し屈んで、レミアの腕に収まっているノアを愛おしそうに見つめた。本当に猫が好きなんだな、と感じられる柔らかな表情をしている。
「抱っこしますか?」
そんなクラリスの様子を見て、レミアはそう聞いてみた。
「! い、いいのかしら……?」
すると、クラリスはパッと顔を上げ、嬉しそうにしながらも、様子を伺うようにそう聞いた。
「大丈夫です!」
ノアには許可取りしていないが、たぶん大丈夫だろう。レミアは元気良くそう答えると、ノアをクラリスに預ける。ノアは大人しくしてくれていた。
「……あたたかい」
ノアを抱えたクラリスは、開口一番、そう言った。猫との触れ合いタイムを噛み締めているようだった。
「あ! どうぞ座ってください! ごめんなさい、ちゃんとした家具がないんですけど……」
レミアはそう言って、部屋の奥の2人掛けのソファを指差す。そのソファの前には、最近買い揃えた、微妙に高さの合っていないシンプルなローテーブルが置いてある。
不格好だが、ソファの方は最初から部屋にあったものなので、質は保証できるはずだ。座り心地が抜群だから、おそらく高級なものに違いない。
クラリスは、言われた通りソファに腰掛けると、ノアを膝の上に乗せて、優しく背中を撫で始めた。
ノアはその手つきにすっかりメロメロになっているのか、ゴロゴロと満足そうに喉を鳴らしている。
「かわいい……」
瞬間、ノアがカッと目を見開いて、レミアの方を得意気に見た。「さすが僕でしょ?」とでも言いたげな顔だ。
(あー、うんうん、わかったよ〜)
レミアはそれに対して、コクリと1回だけ頷くと、湯沸かし魔道具を棚から探す。
ノアはその反応が不満だったのか、くるりと上を見上げ、クラリスと目を合わせると、「ニャオ」と言った。
「かっ、かわいい……!」
「ンニャ〜〜」
ノアは満足したのか、またゴロゴロと鳴いている。
(かわいい子ぶっちゃって……)
レミアはその声を背中で聞きながら、湯沸かし魔道具に水を入れに行こうとして、水の魔法を使えば良いことに気付く。
(部屋の中なら見逃してくれるって言ってたもんね……。それに、お客様に出すお茶の水を洗面所から持ってくるっていうのも微妙だし)
そう思いながら、レミアが魔法を使おうとすると、後ろから声が降ってきた。
「何をしようとしてるの?」
「えっ!! いやっ、あっ、えっ?」
いつの間にか、クラリスが真後ろに立っていた。ノアは早くもベッドの上だ。
「ちょー……っと水を入れようかと……。…………すみません」
レミアは心臓をバクバクとさせながら、そう答える。
よく考えてみれば、クラリスはこういう規律に厳しそうだ。
「あぁ、そうなのね。じゃあ私がやるわ。飲み物の用意なんて、気を遣わせてしまってごめんなさいね」
「そ、それは全然大丈夫なんですけど、えぇ……!? クラリス先輩が!?」
レミアは怒られると思っていたから、思いがけない返答にものすごく驚く。
「あぁ、えっと……、ごめんなさい。私がやると何かまずいのかしら……?」
「あ、いや! 全く!! 怒られると思っていたのでびっくりしてしまって……」
クラリスが不安そうな顔で確認してきたので、レミアは慌てて答える。
「あら、これくらい怒らないわよ。私も紅茶が飲みたくて、自室でよくやっているもの。浄化も得意よ」
クラリスはそう言いながら、パパッと呪文を唱えて水を生み出す。
「浄化……? それってどうやるんですか?」
「イメージするだけよ。あなたが思う浄化を施すだけで出来るわ」
そう言っている内に、ポットに水がたっぷりと溜まった。
「火も付けちゃっていいかしら?」
「あ! ダ、ダメです!」
「? 部屋を燃やすかもしれないのが心配?」
レミアが制止をかけると、クラリスは不思議そうにそう言った。
「いやいや! クラリス先輩のことなので、そんな心配はしてないです……! そうじゃなくて、そのポット、湯沸かし魔道具なんです!」
だから自分で火を付ける必要はなくて……とレミアは急いで説明した。すると、クラリスが怪訝な顔で聞き返す。
「湯沸かし魔道具……?」
「あ、えっと……、ここのボタンを押すと……」
と、言いながら、レミアはポットのボタンをカチリ、と押す。
すると、ブーン……カラカラカラ、という音がした数十秒後、ポコポコとお湯が沸騰する音がして、ピーーッ!と高い音でポットが鳴る。沸騰した合図だ。
「これで出来上がりです」
「な、これは、え、何……? ……どういう仕組みで動いているの……?」
動揺した様子で聞くクラリスに、レミアがうろ覚えの知識を引っ張り出しながら説明する。
「えっと……、何だっけな……。まず、このポットが二重構造になっていて、内側に水が、外側にえっと……何かの石みたいな化学物質? が入ってます。それで、うーんと、ボタンを押すと、中の魔法陣が発動して、外側がなんかすごい細かく振動して、熱……、エネルギー? 熱くなるらしくて、えっと……、それが、水にも伝わって、えと……、……、お湯の出来上がりです」
「…………全くわからないわ」
クラリスが眉を少し下げてそう言う。
「すみません。そうですよね〜……アハハ……」
レミアは、笑って誤魔化しながら謝る。ロベルトの説明は、早口で専門用語だらけなのでよくわからないのだ。
そんなロベルトから受けた説明を、何とか頭から引っ張り出した状態だから、仕方ない、ということにして欲しい。
「でもこんな魔道具、見たことがないわ。どう考えても最新鋭のものよね?」
「あ〜〜……っと、じ、実家にあったものを持ってきて……」
レミアはしどろもどろにそう答える。ロベルトの研究所、というほぼ実家のような場所から持ってきたため、嘘はついていない。
「……実家は研究所か何かなのかしら?」
「え、や、売ってるのを買ったんだと思います!」
なんでわかるんだ!?と思いながら、レミアは悪あがきをする。
「こんなの売ってないわよ」
クラリスはピシャリとそう言う。
そういえば、「試作品だから扱いには気を付けろよ」とかなんだとか言っていたかもしれない。
「……ぁう……」
レミアの敗北だ。
「じ……、実は研究所なんです……」
「……。そうなのね。それにしても、ロベルト・アーレンウッドレベルのクオリティだわ」
「え゛っ、ど、どうしてですか……!?」
実家が研究所であることを隠したレミアをやや訝しげに見たが、それよりも魔道具の方が気になるらしい。ポットを見て、考え込みながらそう言うクラリスに、レミアが慌てて聞き返す。本当にどうしてこんなにバレるのだろうか。
「これは、どう見ても高レベルな魔道具……。彼以外にこれを作れる人はいないと思うわ。今のルンノベ王国の魔道具の研究・開発分野に於いて、彼の右に出る者はいない、と言われているの」
(お、おじさん〜〜!? 活躍しすぎ……!!)
レミアは心の中で、泣きながら叫ぶ。
「でも、彼に子どもがいるなんて話、聞いたことがないのだけれど……」
そう言いながら、クラリスはチラリとレミアを見る。
遠回しにロベルト・アーレンウッドの子どもなのかどうか、確認されてしまった。
「まっ、まさか……!! 家の者が誰かから譲り受けたんだと思います! きっとロベルト教授の物が、巡り巡って私の手に……」
レミアはハハ……、と引きつった笑みを浮かべながら、それらしいことを並べる。
「……まぁ、その可能性も捨てられないわね」
「ねっ! そうですよね! 今はそんなことよりも!」
レミアはそう言って、クラリスの肩に手を置き、くるりと半回転させる。
「さぁさぁ、お席にどうぞ! すぐお茶をお持ちしますから! 今日は、クラリス先輩のお話が聞きたくて、お招きしたんです!」
「……それもそうだったわね」
レミアが勢いで押しながらそう言うと、クラリスもそれを思い出して納得した様子を見せた。
数分後。
膝の上に戻ったノアを撫でながら待つ、クラリスの前に紅茶を置く。これは、特別な夜に、ご褒美用に、とロベルト研究所内の女性から持たされた、少しばかり高級なフルーツハーブティーだ。
「ありがとう。……いい香りね」
クラリスは、ティーカップの持ち手と、ソーサーを上品に持つと、まず香りを楽しんでからカップを口に運ぶ。
「美味しいわ」
そんなクラリスを真似して、レミアも上品に香りを楽しんでから、紅茶を味わう。
口に含んだ瞬間、瑞々しいフルーツの香りが鼻を抜ける。遅れて、少々スパイスのきいたようなハーブの香りも、鼻を抜けていった。こくりと飲み込めば、ほっとするような温かさが、体の芯から全体に広がっていった。香りも味も、非常に多層的で味わい深い。
「おぉ……、美味しい……」
「初めて飲むの?」
「は、はい、恥ずかしながら……。特別な日用に、と持たされたので、ずっと取って置いちゃってて……」
「そうなのね。気持ちはわかるわ。なくなってしまうのが惜しいものね」
「そうなんですよね……」
そう言って、2人はしばらく紅茶を愉しむ。
やがて、カップの水面を静かに見つめていたクラリスが、ゆっくりと口を開いた。
「昔話をすると、言ったわね……」
そう言って、コトリ、とティーカップを机に置く。
「……今から7年くらい前。そう、あれは、私が10歳くらいのとき──」
クラリスはそうして、静かに話し始めた。
ルンノベ王国=レミアたちが暮らしている国。
ソーサー=ティーカップの下に置く受け皿
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