【第42話】アフタースクール・ティーパーティー③
ルクスに休日の過ごし方を聞かれ、レミアは頭をフル回転させて、返答を探す。
何を隠そう、レミアにもあまり趣味がないのだ。
「えっとぉ……、私もあんまりコレというのは……。ん~……、休みの日にやること……べんきょ」
勉強、と言いかけて、急いで口を閉じた。
休日に勉強はしているし、嫌いではないのだが、別に趣味というほど好きではない。
「あ! 街歩くのとか好きです! 買い物してもしなくても、歩いて眺めているだけで楽しめます!」
レミアがなんとか答えを絞り出すと、ルクスは少し間を空けてから、「いいね」と一言、そう言った。
少し間が空いたあたり、あまり良さをわかっていなさそうだ。そしてたぶん、こちらが何と答えてもあまり共感してくれなさそうな気がする。
そんなことを考えていると、ルクスが重ねて質問をしてくる。
「何を見るのが好きなの?」
「え? 何を? そうですね……、街並みとか、売ってるもののデザインとか、人の往来とか」
「あぁ! なるほど。僕も人間観察は好きだよ」
「人間観察」
珍しく、テンションが少々上がった様子のルクスを見て驚いたものの、「人間観察」と言われ、思わず真顔で繰り返す。
レミアが見ているのは人の往来であり、人の流れをぼんやり眺めているだけなので、人間観察と言われるとちょっと違うような気がしてくる。
「街を行き交う知らない人々の物語を想像するのが好きなんだ」
「はぁ」
「例えば、数メートル先に男女のカップルがいるとする。それで、箱を持った男性はニコニコしているが、隣の女性はなんだか浮かない顔をしている。どうしたのかな、って思うだろう? 僕はその見えないストーリーに思いを馳せるのが好きなんだ」
「……へぇ」
知らない人のそんな細かいことなんて観察してないし、仮に見てたとして、どうしたのかな、なんて思わないレミアは、微妙な相槌を返す。でも何かそれだけじゃいけないような気がして、他に言うべき言葉を必死に探しているのだが、全然見つからない。
「おもしろいッスね! やっぱ会長の見てる景色って人と違う感じがしてすごいッス」
意外なところから助け舟が流れてくる。だが、本人は純粋にそう思っているようで、助け舟を出した自覚はなさそうだった。
「そうかな?」
そう言われたルクスも不思議そうな顔をして、ひとりごとのようにそう言った。
「そうッス! アンバーはどうッスか? やっぱ好きなのは読書ッスか?」
「あ、……はい。おれ……僕は小説とかを読むのが好きです」
ルクスの呟きに同意しつつ、ロイリーがそう聞くと、アンバーがおずおずと答える。なぜ知っていたのだろう、と不思議に思ったが、アンバーはロイリーの推薦で生徒会に入ったという話を思い出した。古くからの知り合いなのかもしれない。
「なんかおすすめの本とかあったらまた教えて欲しいッス! 気になったら読むッス!」
「いや、おすすめしても半分も読んでくれないじゃないですか」
「えっ! だってアンバーは一気に10冊くらいおすすめしてくるじゃないッスか……。俺忘れちゃうんスよ」
「は!? そういうのは先に言っといてくださいよ……!」
「わぁぁごめんッス……」
2人が仲良さげ(?)に話している様子を他3人が無言で見つめる謎の時間が発生する。
これが蚊帳の外ってやつだろうか、とレミアがぼんやり考えている内に、おすすめの本の紹介が終わったらしい。読書も好きらしいクラリス先輩が何も言わないあたり、知らない本だったのだろう。
(まぁ、あんまり本の趣味が被ってる感じもしないけど……)
「…………」
見事に趣味がバラバラの5人に、再び沈黙が訪れる。
そこで、ルクスが「さっきレミアが勉強って言いかけたけど……」と話を切り出したことで、学生の共通話題「勉強」が発生した。さすが優秀なメンバーを集めた生徒会、とでも言うべきか、この話題が一番盛り上がる。
風の魔法のコツはどうだ、とか植物の魔法はここが難しい、だとか、あの教科書は良くない、この参考書は最高だ、とか、○○先生は授業がつまらないだとか、△△先生は雑談が多いけど勉強になる、だとか。
しかもその中に、最近発表されたロベルト・アーレンウッドの論文がどうのこうの……、という話もあり、レミアは冷や汗をかきながら、何も知らない顔をしてやり過ごしたりもしていた。
すごい人らしいロベルトと知り合いだとバレると、それはそれで何か面倒くさそうな気がしたからだ。
そんなこんなでワイワイと話していると、いつの間にか時間が経ち、最終下校時刻がやってくる。
「じゃあ……、名残惜しいけれど今日はこれで」
ルクスがそう言って立ち上がると、みんなも続いて席を立つ。
「最後になって申し訳ないんだけど。レミア、改めて期末試験11位おめでとう。君の生い立ちを考えたらとても素晴らしいことだ。そして、生徒会へようこそ。レミア・ミュー、君を喜んで歓迎するよ」
ルクスが最後にそう言うと、みんながパチパチと拍手をしてくれた。
「あ、ありがとうございます……!」
改めてそう祝われて、少しうるっとくる。
レミアが瞳に少し滲んだ涙を拭っていると、3年男子2人が何やら目くばせして頷いているのが見えた。
どうしたんだろう?と思っていると、突然、ロイリーが、後ろにある花々の近くの、何も植えられていない土に向かって魔法詠唱を始めた。
すると、色とりどりの花たちがぽぽぽぽと咲き乱れる。そこに、ルクスが風の魔法を詠唱し、今生やした花を優しく抜き集める。さらに土まで払うと、それはルクスの手元へと着地した。
ルクスがそれを持って奥の方に歩いていったかと思うと、数十秒後には、綺麗に包まれた状態の花束を手にして帰ってきた。
「これを君に。僕らから、歓迎の証だ」
そう言って、ルクスは花束をレミアに差し出す。
「え……!? ありがとうございます!」
レミアは花束を受け取って、ペコリとお辞儀をした。
心に、花畑が出来たかのように、ぽかぽかとする。温かい。優しさが、気遣いが、その気持ちが。
こんなに優しくしてもらったのは、家族以外では初めてだったから。
こんなに受け入れてもらえたのは、初めてだったから。
こんなに心が温まったのは、初めてだったから。
(ありがとう、ございます)
レミアは花束を両手に抱えてにっこりと笑う。その拍子に、涙が溢れてしまったけど、気にしない。これは、嬉し涙だから。
そんなレミアの様子を年上3人が温かく見守る。
ティーガーデンには、柔らかい日差しが差し込む。花々は水滴を反射し、キラキラと輝く。どこからともなくそよ風が吹き、ふわりと甘い匂いが香る。それは花の香りか、スイーツの香りか。出口の扉に向かう5人を、歌う花がしっとりと見送った。
ロベルト・アーレンウッド=王立研究所で、検査をしてくれた人。レミアが「おじさん」と呼んでいる人。
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