【第39話】ティーガーデンへ
レミアは今、これから裁きを受ける者のような顔をして、生徒会室に立っていた。
手前の大きめの机には、アンバー、クラリス、ロイリーが座り、その奥の執務机にはルクスが座っている。
レミアはちょうど今しがた、10位以内に入れなかった報告をしたところだった。まさに、その処遇についての返答を待っているのだが、この短い沈黙の間にも胃がキリキリと痛む。
「そのことだけど」
ルクスが、真顔、よりもなんだか少しだけ怖く感じる顔でそう言うので、レミアは冷や汗を滲ませながら、ごくりと唾を飲み込んだ。
「特に問題ないって」
「……へ?」
全く表情を変えないままそう言ったルクスに、レミアは思わず聞き返す。
(特に問題ないって聞こえたけど……?)
「レミアの件はそもそも異例のことだし、結果ではなく過程を見て、良しとしましょう。とのことでした」
ルクスはニコリと笑ってそう言った。
「よ、良かったぁ〜……」
それを聞いて、強張らせていた肩の力がフッと抜ける。
そして、ルクスは手を軽くパンと叩きながら、こう言った。
「さて、期末試験も終わったことだし、今日はみんなでお疲れパーティーでもどうかな?」
レミアの歓迎会も兼ねてね、とルクスは付け足す。
「おーっ! いいッスね! 俺、参加したいッス!」
「私も参加するわ」
ロイリーとクラリスが、その提案にすぐに反応する。
「アンバーはどうかな?」
「僕は…………」
アンバーは目を右往左往させて、言い淀む。外せない用事があるのかもしれない。
「難しそうッスか?」
「……ぁ、えっと……」
ロイリーからそう言われ、アンバーはわかりやすくたじろぐ。
「無理はしないで欲しいッスけど、アンバーともパーティー出来たら、俺嬉しいッス!」
「い……、行く……」
それは何の表情なのか。ロイリーから、曇りなき眼でそう言われたアンバーは、顔をギュッと歪めて参加の意思を表明した。
「ほんとッスか!? 嬉しいッス!」
「レミアは? 今日で大丈夫かな」
「あ、だ、大丈夫です! ありがとうございます……!」
ロイリーが喜ぶ横で、ルクスがレミアの方を向いてそう言う。急に自分の方に話の矛先が向いてきて、レミアは焦って答えた。
「オーケー。じゃあ、せっかくだしティーガーデンでやろうか」
「ティーガーデン……?」
レミアは初めての言葉に聞き返す。なんだかオシャレそうな響きだ。お茶会専用の庭だろうか。
「行ってからのお楽しみ」
ルクスがそう言い、席を立つ。皆もそれに続いて席を立った。どうやら、「ティーガーデン」なる場所に移動するようだ。
***
レミアは皆の後をついて行った。3階にある生徒会室を出て、1階まで階段を降りていく。
生徒会メンバーが揃って歩いている姿が珍しいのか、はたまた1人ひとりの人気故か、歩くだけで人が集まり、群衆がザワザワと色めきたっていた。よく見れば、そんな周りに対する反応もそれぞれ違っている。
ルクスは生徒会メンバーに見せるような笑顔は一切見せず、冷め切った真顔でただ前だけを見て歩いているし、ロイリーは遠慮がちに困ったようにヘラリと笑っている。クラリスは、模範生としての自覚があるのだろう。キリッとした顔をして、お手本かのように、しっかりとした足取りで歩いていた。そんな中、アンバーは目線を床から離すことなく、淡々と足を動かしている。
(な、なんか……、生徒会メンバーって……冷たい……?)
皆こんな態度なのに、なぜキャーキャー言われるのだろう……、とレミアは不思議がる。この距離感の遠さが良いのだろうか。
そんなレミアはというと、キョロキョロと顔を動かし、左右にいる群衆たちの誰かしらと目が合う度に、顔を逸らすのを続けていた。だが、途中から、前を歩くクラリスの背中の一点を見つめ続けることでやり過ごした。
そうこうしているうちに、クラリスの背中が目の前で止まる。前を見てなかった、というか、クラリスの背中しか見ていなかったレミアは、到着したことに気付かず、危うくクラリスとぶつかりかけた。
(あ、危ない……。止まれて良かった……)
クラリスには気付かれずに済んだが、斜め前を歩いていたアンバーには、醜態を見られたらしい。アンバーは、こちらをチラリと見て、ハンと鼻を鳴らした。
(かっ、感じ悪ぅ……! あの時認められたと思ったけど、もしかしてまだ全然嫌われてる!?)
一体私の何が気に入らないんだ、と頭を悩ませていると、ルクスの声が聞こえてきた。
「着いたよ」
(そうだった!)
レミアは目の前のガラス張りの建物を見上げる。
円柱型のこじんまりとしたそれは、温室に似ていた。でも、こじんまり、と言っても、他の建物と比べたらの話で、そんなに狭いわけではなさそうだ。ガラスには、細かい細工がされており、綺麗な模様で埋め尽くされている。その凹凸によって、中の様子はよく見えなかった。
「ここが、生徒会メンバーだけが使用できるティーガーデンだよ」
ルクスがそう言ってカチャリと鍵を開け、皆を招き入れる。一歩踏み入れると、肌に触れる空気や光、香りが柔らかく、穏やかで優しいものに変わったのを感じた。
ガラス張り故に、夏の厳しい日差しを浴びて、熱帯のように暑くなっているかとも考えたが、さすが、魔法で温度調節がされているらしかった。
中は天井が高く、中央には、白くて大きい台座のようなものがあった。それは、大きさの違う円が3段重なることによって、階段状の円形ステージのようになっている。その上には、これまた細かい装飾が施された、高級そうなテーブルとイスが並び、その台座を囲むように、様々な種類の樹木や草花が周りに植えられていた。
眺めていると、数十秒後には、じわじわと色が変わっている花や、美味しそうなクッキーのような匂いのする樹、近くを通ったときだけ、音楽が聞こえる草など、楽しすぎる空間に、レミアはテンションが上がっていた。しかも、音楽が聞こえる草は、人によって聞こえるメロディが違うというから驚きだ。
「ここにあるものはね、どれも珍しいものらしい。他では見られないものも多いから、よく堪能しておくといいよ」
そんなレミアを見て、ルクスはそう説明してくれる。
「そうなんですか!」
レミアがウキウキ全力でそう言うと、ルクスはフフと優しそうな顔で笑った。まるで、妹を愛でるかのような視線に感じ、レミアは少し恥ずかしくなる。
(ちょっとはしゃぎすぎたか……)
そう思って、赤らむ顔を隠すように俯いていると、ふと、後ろの方で扉が開く。
「お待たせいたしました」
そう言って、メイドのような服を着た女性が、ワゴンにたくさんのスイーツと、紅茶を乗せて現れた。その女性に、ルクスが「ありがとう。待ってたよ」と声をかける。
そして、皆の方に向き直ると、こう言った。
「さぁ、パーティーの始まりだ」
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連載を始める前に、「雰囲気ギスギス!? 生徒会歓迎会!」みたいな、女児アニメっぽいリズムのタイトルも考えていたんですが、使いどころがなかったです。なんか思いの外仲良くなっててびっくり。




