【第38話】期末試験
レミアは、まだ眠い目をこすりながら部屋のカーテンを開ける。途端、眩しい朝日が部屋に差し込み、ぼんやりとした頭を鮮明にさせた。
今日は、ついに実技魔法の期末試験日だ。
クラリスからノートを受け取ったあの日から6日。3日に渡る全日自習期間と、前半の筆記試験の日程が昨日ようやく終わったところだった。
「今日……か」
レミアはグッと両手を上に伸ばし、体全体をストレッチするように伸ばす。
全日自習期間は、クラリスのノートを参考にしたり、フートンのレッスンを活用したりして、成功の確率を上げにかかった。
だが、依然として成功率の低い魔法もあり、結局不安を抱えたまま当日を迎えてしまった。
「……よし。もう、やってきたことを、出し切るだけだ」
レミアはそう呟いて、制服の袖に腕を通す。
ちゃちゃっと着替え、鞄を手に持つと、まだスヤスヤと寝息を立てているノアにそっと手を振って、いつもより早めに部屋を出た。
***
「次、レミア・ミュー」
「は、はい」
実技の試験が始まり、ついに自分の番が回ってきてしまった。
試験は1人ずつ呼ばれ、先生の前で指定の魔法を発動する形式のもので、1つの魔法につき、3回挑戦していいことになっていた。今回試されるラインナップは、水の魔法、火の魔法、風の魔法だ。
ちなみに、離れたところに待機中のクラスメイトたちがおり、こちらを時たま品定めしているので、たまったものじゃない。
そのせいもあってか、レミアはものすごく緊張していた。
そして、今からやるのは、クラリスに教わった水の魔法だ。レミアが呼ばれて前に出ると、先生がこちらを見て合図をした。
「はじめ」
レミアはゆっくりと息を吸い、心と体を落ち着ける。絡まった糸を解すようなイメージで深呼吸を終えると、ゆっくりと人差し指を立てた。そして、5メートルほど先に、的として机に立てて置かれている木の棒を見据える。
(空気中から水を借りるイメージ……!)
レミアは魔力を自分の中心から指先まで流れさせながら、呪文を唱えた。
「ouwlq lu fdeopn」
すると、空中からチャポッと水の玉が生まれ、それが水の流れとなり、木の棒に綺麗な螺旋を描いて巻き付いた。
(や……ったぁ……!!!!!)
レミアは心の中で特大のガッツポーズをする。
(初回で成功出来たのは、何気に初めてだ……!)
クラリスが教えてくれたこと、自分が今まで積み上げてきたこと、そういったものが思い出されて、少しうるっと来てしまう。
(まだまだ……! 気を抜くな!! 始まったばっかりなんだから!!)
レミアはそう思って、気合いを入れ直す。
気付けば、周りのクラスメイトたちはどよめいていた。
「一発成功した……」
「前までまともに光も灯せてなかったよね……?」
「……なんかズルしてんじゃねぇの?」
「え、すごくね」
様々な声が聞こえてくる。皆思い思いのことを口走っているようだった。
皆が、今のがまぐれかどうか確認するように、値踏みするように、鋭い視線でレミアに注目する。
クラスメイトたちがお喋りをやめたことで辺りが急に静まり返り、レミアは更に緊張してきてしまっていた。
(み、みんなが見てる……。絶対、成功しなきゃ)
次に待ち構えているのは、火の魔法の試験だった。水のときと同じように、5メートルほど先にある、お皿の上に置かれた木屑に炎を灯し、木屑が燃え切るまでそれを維持する、といった試験内容だ。
「では、はじめ」
手元の用紙にさっきの評価を書き終えたらしい先生が、顔をあげて開始の合図をする。
……そして、気付けば実技の試験は終わっていた。
頭が真っ白になりすぎて、全く記憶がなかった。
レミアがその場に立ち尽くしていると、次の人を呼ぶからと、どくように指示される。
(……え、終わった……?)
周りを確認すると、ほとんどの人がこちらなど全く見ることなく、雑談に興じていた。
(あぁ……、きっと失敗したんだ……)
レミアはそう考えながら、フラフラと試験を終えた者たちの待機場まで歩く。その道すがら、小石に足を引っ掛けてしまい、倒れそうになった。
そんなレミアの肩を誰かが掴んで支える。
「っぶな」
「あ、すみませ……」
ぼんやりとそう言い、その人の方を見ると、目の前にはアンバーの顔があった。
「あ!ンバー……くん……!」
何と呼んだらいいのかわからず、とりあえず「くん」を付けた。
アンバーは男子にしては身長が低めだったので、思いの外近くに顔があり、レミアはびっくりする。
「……ちょっと。そろそろ自分で立ってよね」
「え!? あ、ごめん!!」
頭がハッキリとしてきたレミアは、急いでアンバーから離れた。言われてみれば、バランスを崩し、肩を預けたままだったのだ。
「落ち込みすぎ。……火と風は惜しかったけど、よくやったんじゃないの」
そう言うと、アンバーはさっさと向こうに消えて行ってしまった。
その言葉を聞いて、レミアは胸がジーンと熱くなる。自分の頑張りが誰かに届いていたことに感動したのだ。
クラリスだけでなく、自分に対して当たりの強いアンバーからも、ちゃんと認めてもらえたのだ、と実感できて嬉しかった。
「そっか……。私、頑張ったんだなぁ……」
火と風の魔法は失敗しちゃったけど、「全力を出し切った」「頑張った」って胸を張って言えることを誇りに思おう。
なんだかそう思うと、気分が軽くなった。
レミアは、晴れ渡る空を見上げながら、少しだけスキップをして待機場に向かった。
***
そして、あっという間に結果が貼られる時期になった。
レミアの心臓は早鐘を鳴らす。ドコドコと鳴りすぎて、誰かが内側から絶え間なく叩いているようだった。
(お願い……!)
まずは比較的自信のあった筆記の順位から確認することにし、1位から順に目を滑らせる。
(1位……ない。2位……も違う。……3、4も別の人)
そして、
「あった! 8位……」
実技の練習に押されながらも筆記の勉強を必死にしていたが、前回の1位からは7つも順位を落としてしまった。
「悔しい……」
実技など初めてだったのもあって、筆記の勉強にあまり時間が割けなかったとは言え、8位まで落ちたのは悔しかった。
自分の上にどんな人がいるのか知りたくて、7位から上の名前を順々に見て行く。1位まで行ったところで、見知った名前が出て来た。
(……アンバー・タッガオ……か。あの人も優秀だって、クラリス先輩に褒められてたしな……)
ふーん、と思ったレミアには、本人も知らない内に、アンバーへのライバル意識が芽生える。
そして、そろそろ……、と思い、実技の結果の方に視線を動かした。
(頑張れ私……!)
祈ったところで結果が変わるわけでもないのに、全力で天に祈った。
そして、上から順に探していく。
ありえないだろう、ということで、1〜5位はサッといっぺんに見た。やっぱりなかったし、1位は相変わらずアンバーだった。
そして──
「あ、あった……! じゅ、」
そこまで言って、レミアは止まる。
(15位だ…………)
もしかして総合なら……!と淡い期待を抱き、レミアは縋るように総合順位の方を見る。
結果は──、
「11位……か」
レミアはがっかりしたものの、意外とそこまでのショックを受けていないような気がした。
「ま、頑張ったし、あれが全力だったからしょうがない」
(でも、みんなが私のために時間を割いてくれて、あんなに教えてもらったのに、こんな結果になっちゃったのは申し訳ないな……)
そう思いながら、これまでの日々を思い返してふと気付く。
「あれ……!? ていうか!! 生徒会メンバーでいるために10位以内じゃなかった!?」
10位以内!だけが印象に残り、当初の目的をすっかり忘れていたレミアは、慌てふためく。
(え、どうしよう──!?)
これで除籍とかになったらどんな顔をしてればいいんだ、とレミアは頭を抱えた。
(生徒会、別に入りたかったわけでもないのに……! もう……!!)
レミアの胃は、ストレスでキリキリとし始めていた。
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