【第36話】自主練
※前話(第35話)、ルクスがクラリスの様子を回想する部分に加筆をしています。
寮に着いたレミアは、とりあえず寮内を自力で探索しようとした。しかし、それでは時間が無駄になることに気付く。階段に置きかけた足を戻し、くるりと振り返ると、レミアはネネをめがけて一直線に歩いた。
「ネネさん」
「……なぁに?」
レミアの突然の呼びかけに、ネネはいつものように気怠げに答える。
「この寮内に魔法の練習をしていいスペースとかってありますか?」
「……それ、いいね。これからも持ち歩いた方がいい」
「え?」
ネネは話を聞いていないのか、突然、レミアの髪の毛を指さしてそう言った。
「……え? ヘアピンのことですか?」
(そういえば、これってネネさんの予言に出てきた……と仮定してる……ヘアピンとそっくりなんだよね)
レミアは、昨日から前髪につけ始めた、長方形で平べったいシンプルな銀のヘアピンを手で確かめるように触る。
「で、何だっけ」
相変わらずマイペースだ。レミアの質問には答えず、ネネは自由に喋り出す。
「あ、えと、そうでした。この寮内に魔法の練習をしてもいいようなスペースってありませんか?」
「ん〜〜〜…………」
そう聞くと、ネネは唸りながら頭の中で場所を探してくれているようだった。たっぷり数秒考えた後、一言。
「ない」
「ない、です……かぁ〜……」
レミアは落胆する。が、ネネのことだし、どこか見落としているかもしれない、と思って食い下がってみる。
「自室とかって……」
「完璧にコントロール出来るなら見逃してあげてもいいけど」
寮母としては良くなさそうな発言をするネネは、レミアが魔法をコントロール出来ないのをわかっているような様子でそう言った。
(ぐ……)
「や、屋根裏部屋……」
「さっきと同じ」
(コントロール出来るなら、ってことね……)
レミアは寮内マップを頭の中に思い描いて、色んな部屋を思い出してみる。どこもダメそうだ、と思ったそのとき、唐突に寮の外に良さげな場所があることを思い出した。
「じゃ、じゃあ、寮の裏の浅めの森……!」
言い終わってから、「浅めの森って何!? 林!?」とセルフツッコミをする。
「……あぁ、裏のあれね……」
ネネはふむ、といった様子でそう言う。
「わかった、じゃあ占わせてもらおうか」
「え?」
ネネは短くそう言うと、懐から、おなじみの木製のルービックキューブを取り出す。パチン、と指を鳴らすと、手の平からルービックキューブが浮き上がり、ひとりでにクルクルと回転し出した。
やがて、カチャカチャとした動きが止まると、それはネネの手の平の上にゆっくりと戻ってくる。そのルービックキューブを手に持ち、軽く一周させて、全方向から確認すると、ネネはこう言った。
「OK。いいよ、森。見逃してあげるから練習してきな」
「え、えぇ……。あ、ありがとうございます……」
こんな感じでいいのか……?と戸惑いながら、そんなこんなで、レミアはありがたく森で練習させてもらうことになった。
***
寮の裏の森に足を踏み入れる。森と言うには、そこまで霧が濃かったり、方向感覚を失いそうな感じはしないが、奥の方まで行ってしまうと、迷うか迷わないかギリギリといった感じだった。
しかし、言っても中心都市の、やや標高の高い場所にある森だ。結局大して本格的な森ではない。
レミアは少しだけ森の中に入り込み、薄っすら寮の建物が見えるくらいの距離に移動する。
寮生から見られたら、違反を密告する人がいるかもしれないからだ。さすがにそうなったら、ネネもそれ相応の対処をしなければならなくなるだろう。ちなみに、練習しているところを見られたら恥ずかしかったから、というのもある。
レミアはそこで、さっそく昨日頭に叩き込んだばかりの魔法を片っ端から試していく。
***
どれほどの時間が経っただろうか。
辺りはすでに真っ暗になり、森の闇が深まっていた。慌てて後ろを振り返り、寮の位置を確認する。後ろの方にはちゃんと、灯りが漏れるやや古めな、いつもの寮がそびえ立っていた。
そのとき、お腹がぐ〜〜〜と大きな音を鳴らす。
「そろそろ戻ろうかな……」
レミアはお腹をさすった。
腹が減っては戦はできぬのだ。
ちなみに、実技訓練の結果は……微妙。
教科書から得た理論を頭の片隅に置きながら、結局、数をこなして感覚に頼る戦法に落ち着いた。しかし、今日安定して成功させられるところまで持っていけた魔法は、光を灯す魔法と軽いものを浮かせる、比較的簡単な浮遊魔法だけだった。
「……大丈夫、まだやれる。……やれる、やれる、やれる」
レミアは言い聞かせるようにそう言いながら、寮の食堂を目指した。
***
そして、夕飯を食べた後も、次の日も、その次の日も、次の次の日も……何時間も何時間も練習した。
そうして過ごしている内に、いつの間にか、試験4日前になっていた。明日から、全日自習のボーナスタイムが始まる。しかしそれは、授業、という、他人から教わることが出来る貴重な時間が終わりを迎えたとも言えるのだ。
なんとか出来るようになった魔法は増えたが、期末試験で出る予定のメインの魔法がまだ、ほとんど出来ない状態でいた。
「元素を付与する類の魔法が全然出来ない……。私にとって上級すぎる……。火の魔法はここじゃ練習のしようがないから、明後日のフートン先生とのマンツーマンにかけよう……。それから、水の魔法と氷の魔法が全然扱えない……。どうしよう……。フートン先生との10分間にかけるにしてはあまりにもメニューが多すぎる……」
レミアはぶつぶつと独り言を呟く。
「ロイリー先輩とルクス先輩に……、いや、それは甘えだ……。こんな直前になったらお二人も忙しいはずだし、先輩方に頼って出来るようになったところで、私は、私を誇ることが出来ない。ここまで来たら、自力でやり切りたい」
俯いてずっと呟いていたレミアは、バッと顔を上げ、パァン!と勢いよく自分の両頬を叩いた。
「よし! 頑張る!!」
そして、立ち上がり、呪文を唱える。
「ouwlq lu fdeopn!」
全く何も出る気配がない。レミアはそれでも何度も呪文を唱える。
「ouwlq lu fdeopn! ouwlq lu fdeopn!」
レミアはゼェハァと肩で息をするが、魔力の消耗が激しいわけではない。叫び疲れていたのだ。
むしろ、これだけ練習しているのに、魔力の消耗などほとんど感じたことがなかった。
(まぁそもそも、それがどんな感覚なのかわかんないけどね……)
レミアは、きっと魔力が多いからだろう、と結論付けて、また呪文を口にした。――その時だった。
「ouwlq lu 」
「発音が違うのよ」
女性の声が聞こえた。
声がした方を振り返れば、そこには、クラリスが立っていた。
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一応着くべきポイントはちょこちょこ決めているのですが、半分くらい思い付きでやってるところもあるので、日々不安です。破綻しませんように。




