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終焉の呪い子たち(さいごののろいごたち)  作者: 藤宮空音
第3章 生徒会編

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【第34話】正論

時は放課後。

レミアはドキドキしながら廊下を歩いていた。


(クラリス先輩にお願いするのって、どこでどうしたらいいんだろう……)


今日の放課後になったら声をかけよう! とは考えていたが、どのタイミングで? どこで? というのを全く考えていなかった。


(生徒会室で声かけたら、みんないて恥ずかしいよね……? うわ〜……、どうしよう……)


そんなことを考えながら、生徒会室の扉の前を右往左往していると、ちょうど目の前からクラリスが歩いてきた。


「あ! あの……、クラリス先輩……!」

「……何かしら?」


クラリスは(いぶか)しげな目でこちらを見ながら、一応足を止めてくれる。


「えと……、その、次の期末試験で学年総合10位以内に入りたくて……あの、良かったら実技の魔法の特訓に付き合ってもらえませんか……?」


レミアは緊張で、自分が何を言っているのかわからなくなりながら、おずおずとお願いする。


「断るわ」


クラリスは何の躊躇(ためら)いもなくそう言うと、レミアを通り過ぎて生徒会室の扉の方に向かってしまう。

それを、レミアは慌てて呼び止める。


「わ、私! あの、魔法を扱うのはほぼ初めてで……、でも昨日、皆さんに教えてもらって光を灯す魔法が使えるようになったんです……!」

「……それがどうしたの?」

「わ、私これからも頑張るので、頑張れるので、クラリス先輩にも教えていただきたいんです……! 烏滸(おこ)がましいお願いであることはわかってるんですが、お願いします……!」


レミアはそう言って、右手を前に差し出しながら、クラリスに向かって全力でお辞儀をする。


「……そういうのは、まずは自分で努力してみてから言ってくれる?」

「え……、で、でも私」

「あなたが今言っていたのは努力ではないわ。言われたことを自分の中で噛み砕き、落とし込んで頑張ったのは評価するけれども、結局は他人から言われたことをやっただけ。それに、あなたに協力するメリットが私にはないわ。悪いけど、とても忙しいの」


それだけ言うと、クラリスはガチャリと扉を開け、生徒会室の中に消えて行ってしまった。


レミアは、ぽつり、と1人廊下に取り残される。

そのまま、クラリスの背中が消えた場所を茫然(ぼうぜん)と眺めていた。


(……泣くな)


ギュッと唇を噛み締める。


(泣くな泣くな泣くな)


グッと拳を握り締める。


(クラリス先輩の言ってたことは間違ってなかった……! ここで私が泣くのは違う……!)


そう思いながら、レミアは何とか耐えようとするが、そんなのお構いなしに、じわじわと涙がせり上がってくる。


泣いているところを誰にも見られたくなくて、壁に向いて、俯く。気付くと、前髪に留めた母のピンをギュッと握り締めていた。


深呼吸をして涙を引っ込めようとしたが、さっきのことが勝手に脳内に(よみがえ)り、深く息を吸おうとする肩が、意思に反してさらに震えた。


涙がおさまらないまま、廊下の端から数人の足音と話し声が聞こえ始める。


「……ッ」


レミアは急いで涙を拭い、音がする方とは逆の方向に、パタパタと走って逃げる。

そしてそのまま、衝動的に寮まで帰ってしまった。



レミアはガチャリと自室の扉を開けて中に入る。

ノアの姿は見えなかったから、たぶん勝手に窓から出て、どこかに出かけているのだろう。


レミアは一直線に机まで向かうと、初等科や中等科のときに使っていた教科書やノート、図説などを引っ張り出す。


ズッと鼻をすすり、いまだに溢れ出続ける涙をそのままに、レミアは椅子に座って復習を始めた。


(クラリス先輩の言う通りだ……。私はアモさんが自分で見つけたコツを横流ししてもらっただけ。1からは自分で頑張れてない)


そしてレミアは、期末試験で試される予定のレベルまでの、様々な魔法の発動の仕方を頭に叩き込んでいく。

図説を中心に見て、言語化されて説明されている部分は、読んだらすぐにイメトレをして、実践に活かせるようにした。

そして、重要だと思うポイントはさらっとノートにまとめる。


座学が得意な自分は、ノートを作ったり、白紙を字で埋めて、その見栄えやまとめを作成した達成感で満足してしまう癖があるのをわかっていた。

だからわざとあっさり殴り書きでメモする程度に留める。

実技の練習に、より多くの時間を使った方が良いのは明らかだったからだ。



集中して黙々と勉強し続け、教科書の右半分よりも左半分の厚みが積み重なった頃。

ふと黒い毛玉が視界を遮り、机の上に広げた教科書類の上に、無遠慮に丸まった。


「ノア……! 邪魔しないでよ……!」


そう言って、ノアを抱き上げようとすると、背中やら肩やらの骨が、ゴキゴキゴキ……、と鳴る。


「あいててててて……」


レミアはノアを持ち上げるのをやめて、元の場所に戻す。

長時間同じ姿勢で居続けたせいだろう、体が固まってバキバキになっていた。


(そういえば、今何時だろう……)


レミアは、右肩と左肩を交互に回しながら、卓上に置いてあるアンティーク調の時計を確認する。


「え……! 22時!?」

「集中のしすぎだね」


ノアはレミアのおでこめがけて肉球やわらかパンチを繰り出す。


驚いたことに、時刻は22時を回っていた。

実に約5時間以上、ぶっ続けで勉強していたらしい。


「やばいやばいやばい! 食堂閉まっちゃう……!」


そして、レミアは学生証だけを手にすると、慌てて夕ご飯を食べに、食堂まで走っていった。



***


そしてまた、新しい朝が来る。


もちろん、期末試験は実技試験だけではないので、別の座学の勉強をしていたら、寝るのが3時になってしまった。

全くもって、今日は爽やかな朝ではない。


いつか言われた、

「お前は周りが実技の練習をしてる間に座学の勉強をしている。だから座学の成績が良いだけだ」

みたいな言葉を思い出して、時間差でグサリと刺される。


(本当にその通りかも……。っていうか誰に言われたんだっけ……)


ウ~ン……、と頭を捻っていると、脳内に朧気(おぼろげ)に声が響き始める。


――――――――――


「みんなが……をしている間に勉強……ズル……ね! 卑怯だわ!」


――――――――――


「……イレーナか」


レミアは「ハァ」とため息を吐く。

イレーナに図星を指されたとなっては、なんだかプライドが刺激された。


「……絶対座学の成績も落とさない! 実技も頑張る! クラリス先輩を見返す……って表現は違うけど見返す!!」


レミアは一人ベッドで拳を突き上げる。

勉強して、寝て、一晩経って。

たくさんの情報を取り入れ、入れ替えた心は昨日泣いて苦しんだことを押し流すように忘れていた。


彼女は前を向く。

どれほど打ちひしがれても立ち上がり、前を向く。


それは、レミアの長所だった。


「絶・対・学・年・10・位・以・内!!!」

「んぅ~~~。睡眠の邪魔だ~~~」


ノアが嫌そうな顔をしながら隣でさらに丸まるのも構わず、レミアは気合いを入れた。


不安になってきました。


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