【第29話】実技授業の思い出
「僕のね、名前ね、わかる?」
先生はそう言いながら、人差し指で自分の顔を示して、こてりと首を傾げる。
「す、すみません……」
レミアは、あまり人に興味を持たないタイプだったため、どんな先生が在籍しているかも知らず、当然、目の前にいる初老の先生の名前もわからなかった。謝りながら、首を横に振る。
「いいよいいよ、初めて会話するからね。僕はね、フートン。みんなからはフートン教授とかフートン先生って呼ばれてるよ。よろしくね」
「よろしくお願いします、フートン先生! レミア・ミューです」
さっきは名前がわからなくて失礼をはたらいたから、今度は印象を良くして巻き返さなきゃ!とレミアは気合いを入れて挨拶をする。
「うんうん、よろしくね。じゃあね、さっそくね、呪文が一言で終わる簡単な魔法からいってみようか。そうだね、じゃあ、光を灯す魔法にしようね。僕の後に続いて──ハイ、clgop」
先生がそう唱えると、人差し指の先に光が灯る。
その様子をしっかりと目に焼き付けて、レミアは先生と同じように呪文を唱える。もちろん、自分の真ん中から指先へと魔力を流すイメージも忘れない。
「clgop」
途端、目の前に巨大な閃光が現れ、目を焼き尽くす。
そのせいで、目がものすごくチカチカして、しばらく経つまで、まぶたを開けても閉じても、目の前が真っ白でよく見えなかった。
やがて、目が慣れてくると、目の前のフートンが顔のパーツを中心にギュッ!と寄せて顔を顰めているのが見えた。
「す、すみません……」
「ううん……、ありがとうね。……一応確認だけど、kltyiivじゃなかったよね?」
「……はい」
レミアも自信がなくなってきたが、clgopと言った気がするので、控えめに頷く。
「……そうだよね。う〜〜んと、じゃあ次は草を伸ばしてみようか」
そう言われて、フートンが見せた見本の通りに呪文を唱えてみるが、今度は全く草が育つ気配がない。
「hwiabmn! hwiabmn!」
何度も試すが、そのどれもが不発に終わる。
では、次は、以前イレーナを浮かせた浮遊魔法を……ということでチャレンジするも、浮かせた木の枝は、彼方遠くの方へ飛んで行ってしまった。
イレーナに使ったときは、まぐれで上手くいったと思って良さそうな感じだった。
他にも、風を起こす魔法、水を扱う魔法、笑わせる魔法、物を移動させる魔法……などなど、様々な魔法を試したが、そのどれもが、暴発か不発に終わった。
レミアは膝に手をついて、ぜぇはぁ、と肩で息をする。
(私ってこんなに魔法できないんだ……)
レミアは自分の魔法に期待していただけに、かなりのショックを受けた。
「ん〜〜……。まぁ、今日はこれくらいにしようね」
そう言われて、レミアは絶望感に満ちた顔で先生を見つめる。
すると、フートンは優しく笑ってこう言った。
「大〜丈夫! 君はね、よく出来てるよ。みんなに比べたらね、10年以上も魔法の扱いに差があるんだよ? それなのにね、頑張り次第で追いつけるところまで来てるからね」
フートンは、ぽん、と優しくレミアの背を叩く。
そして、「座学の勉強頑張ったんだね、偉いねぇ」と付け足した。その意外な優しさに、レミアは少し泣きそうになってしまう。
ここ最近色々あったが、頑張りが認められたのは、これが初めてだった気がした。
「君はね、魔力が大きいからね、みんなより扱いも難しいの。今日はよく頑張ったね。また次も頑張ろう。そうしていったら、もっと上手くなるからね」
「……ばい゙……。ありがとうございます……」
レミアは耐えきれなくなって、涙を流しながらそう返事をする。フートンは、そんなレミアの様子を優しく見守っていた。
***
そんなこんなで実技の初回授業は終わったのだが、結局得意な魔法は見つからず仕舞いだったのだ。
レミアはロイリーの方に向き直る。
「えっと……、得意な魔法っていうのは、まだなくて……」
「そうなんスね! オールラウンダーな感じスか?」
レミアが歯切れ悪くそう答えると、ロイリーは無邪気にそう聞いてくる。
「いや、……苦手な魔法しかないというか……どれも出来ないというか……」
「……えっと……、そうなんスね……」
(おっと…………!?)
まずいのだろうか。
何を言っても肯定してくれそうなロイリーが言葉を濁しているのを見て、レミアはものすごく不安になった。
(フォローも出来ないレベル……!?)
「ん〜……と、いや、う〜〜ん……。遠回しに言ってもしょうがないスよね……。他に言いようもないしなぁ……」
「……えと……」
ぶつぶつと不穏なひとりごとを呟くロイリーを見て、どんな宣告が下されるのだろうか、とドキドキしながらレミアは言葉を探す。
「生徒会って、毎回の試験で学年10位以内にいないといけないんスよ」
「……へ?」
「総合が10位ならOKってわけじゃなくて、筆記、実技それぞれで10位以内にいないといけないんス」
「……えと」
そう説明を続けるロイリーに、レミアは段々と嫌な予感が加速する。
「んで、10位に入れないと、除名になっちゃうんスけど……、レミアの場合は除名されるわけにはいかないんで……」
「いかないので……?」
「10位以内、必須ッスよ」
「む、むりです……」
今の状態から10位以内なんて入れるわけがない、と、レミアは青ざめながら首を振る。
「でも現実は残酷なんスよ」
「まだ何かあるんですか……!?」
「期末試験まであと2週間くらいしかないんスよ」
「……!!」
レミアは顔を引き攣らせる。
絶っっっ対に間に合わない。
「あの……、ちなみになんですけど……、もし11位以下だったらどうなるんでしょうか……?」
レミアがおずおずと片手を胸の前に上げながらそう聞くと、ロイリーは「ん〜〜」と考え込む。
「……ごめんッス。ちょっと俺にはわかんないス……」
「い、いや! そうですよね! こっちこそごめんなさい!」
ロイリーが申し訳なさそうに言うので、レミアは慌てて謝る。
「とにかく! ランクインのことだけ考えるッスよ!」
「は、ハイ!」
でも具体的にどうすれば……?と疑問に思っていると、その心の声を読んだかのように、ロイリーは答える。
「こういうときの、生徒会長ッス!」
「生徒会長?」
「会長は3年生の中でもぶっちぎりのトップなんス! 中間テスト、実技1位! 筆記1位! スよ! 頼もしくないスか!?」
「す、すごい……! 頼もしすぎる!!」
そうして、2人は「会長に助けてもらうぞ! オー!」と他力本願の掛け声をかけ、ルクスの元に急いで向かった。
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