【第25話】生徒会へようこそ①
章のタイトルを変更し、小分けにしてみました。
(学園生活編→魔力発現編に変更。生徒会編追加)
視界は紫で埋め尽くされている。
誰かが自分の名前を呼んでいる。
あぁ、またこの夢だ、そう思った。
男の子が2人、女の子が1人、こちらを向いて何かを言っていた。
あともう少し。
もう少しで顔が見えそうなのに。
黒いモヤがかかったかのように、誰の顔も見ることは出来なかった。
──突如頭の中に声が響く。
奪え! 奪え!! 奪え!!!
ハッ!
レミアは汗だくでガバッと起き上がった。
寝起きの、よく回っていない頭で、ゼェハァと肩で大きく息を吸っている自分を段々と認識する。
「…………また、この夢……」
レミアはぼんやりとしながら、ベッドサイドの目覚まし時計を眺めていると、脳が急に時間を認識し始める。
(……。8時。…………。──8時……? 8時!?!?)
「ヤバッ!? 遅刻する遅刻する……!!」
かけ布団を大きく飛ばし、1人で寝るには随分と大きいベッドの、真ん中から端まで。
急いで移動して、降りて立ち上がる。時刻は8時。いつもより30分も遅い目覚めだ。
近くで寝ていたらしいノアが、飛んできた布団の中に埋もれ、にゃ~、とくぐもった不満の鳴き声をあげる。
「ぷはっ! んにゃ〜……、何? 人間は時間という概念に縛られて忙しないなぁ〜」
あれから結局、ノアは1人で寮まで帰ってきたらしい。さすがだ。
レミアは、机の上にそっと飾ってあるピンズを急ぎつつ、でも丁寧に取って首にかける。
エドワルドを真似して、ネックレスみたいになるように紐をつけたのだ。それをそのまま服の下に隠す。
首にかかるその重みが、少し嬉しかった。
何も紫である必要はなかったけど、魔力を得たことはやっぱり純粋に嬉しい。
「ノア! 私もう行くね!」
「行ってらっしゃ〜い」
ノアはバタバタと部屋を出て行くレミアを静かに見守り、大あくびをして二度寝についた。
***
レミアは朝ごはんも食べずに寮を急いで出たが、食べないのであれば、普通に歩いても余裕で間に合う時間だと気付く。
「……ごはん……食べると遅刻……。食べないと余裕……。食べたかった……!」
そんなことを呟きながら、学校の門をくぐる。
教室の前までたどり着くと、前方にイレーナが見えた。
イレーナはこちらに気付くと、一瞬だけ睨んでさっさと教室の中に消えていってしまった。
なんと、イレーナを飛ばし回したあの日から、イレーナは全く突っかかって来なくなったのだ。
(私に興味が失せたのかも……)
元々イレーナは誰彼構わず当たり散らすタイプだし、移り気の激しいタイプだということを思い出す。
(まぁそれならいっか。私もイレーナにはそんなに興味ないしなぁ)
「邪魔」
そんなことを考えていると、後ろから声をかけられる。
そういえば、教室の扉の前に突っ立っていた。
「あ、ご、ごめんなさい……」
「……」
レミアが急いで横に退くと、声の主は特に何か言うでもなく、こちらを見ることもなく、そのまま無言で教室に入っていった。
(……感じ……悪)
レミアはそう思いながら、癖毛の黒髪の彼の後ろ姿を見つめる。
(……ん!? あの人、生徒会のアンバーって人だ! この前の英雄伝説授業のときに、呪い子のことを知ってるだとかなんだとか言ってた……)
キーンコーン。
(まずい! 鐘の音だ!)
今日の朝は遅刻スレスレで飛び出してきたのを思い出す。
朝ごはんを抜いたことで時間に多少余裕が出来ていたが、扉の前でぼーっとしている場合ではなかった。早く席につかねば。
レミアはぐぅうう、と派手になるお腹を押さえながら急いで自分の席についた。
***
時刻は17時すぎ。
本日全ての授業が終わったところだ。
なんだか廊下が騒がしくて、自席からチラリとそちらを伺う。
開いた扉から人だかりが見えるくらいで、そこに何があるかまではわからなかった。
(なんだろ。後で見に行こうかな)
いや、でも後になっても「皆が興味のあるそれ」がそこにあるとは限らない、と思い当たる。
(生き物とかだったら動いちゃうよね……? みんなが興味のある生き物って何だろう……? ハッ! まさか――)
レミアはふと心当たりを感じて焦る。
(ノアなんじゃ……!?)
レミアは猫撫で声でかわい子ぶりっ子しながらゴロニャーと鳴くノアを想像する。
(絶対そうだ……! みんながあんなに夢中だなんてもう猫しかない!! ついに学校までついて来ちゃったのか……!)
そんなことを考えながらレミアが頭を抱えて俯いていると、ふと、視界の端に影が落ちる。
人の気配を感じてバッと顔を上げると、目の前にはなんて綺麗な顔──。
ユーヴェリア学園高等科、生徒会長のルクス・ウォーレーが立っていた。
相変わらず、薄っすらと青みがかった、透けるようなシルバーの髪と、色素の薄い蒼い瞳が美しすぎて目立つ。
「……睫毛長」
「……」
思わずポロリとひとりごとが零れる。目の前の彼は特に何も言わなければ、にこりともしない。
(怖すぎ……! 怒らせた……!? ごめんなさい! 脳と口が一時的に直結しちゃってただけなんです! ……誰か助けて!!)
レミアはぶるりと震える。よく見てみれば、教室中のみならず、廊下の群衆たちからも一斉に注目されていた。
(何!? 助けて!! ノア! おじさん!! やっぱり紫ピンズは嫌です!! でも魔力は欲しいです!!)
レミアは焦りのあまり、この場にいない者にまで助けを求め始め、思考は変な方向に行く。
(っていうかみんなの注目の的って──ウォーレー先輩……! 全然ノアじゃない! 生き物だったけど!!)
レミアは顔には一切出さず、内心暴れまくっていた。
端から見れば、ものすごく冷静に対処しているように見えるだろう。「睫毛長」とは言ったが。
「……君がレミア・ミュー?」
「……そ、そうです」
(この人が自分に、一体何の用……?)
レミアは怪訝に思いながらもそう答える。
「そうか。じゃあ、一緒にこっちへ」
そう言うと、ルクスはくるりと背を翻して教室の扉までさっさと向かう。
(えっ……。ついてこいってことですか……!?)
レミアは焦って追いかける。
ルクスが近くに来ると、群衆は皆距離を取り、バッと行く先を開けた。
人でいっぱいで、先も見えなかった廊下に、瞬く間に一本道が現れる。
(なんか……磁石みたいだ)
ルクスと群衆が、まるで、弾き合うN極とS極のようだ、と思いながらルクスの3歩ほど後ろを歩く。
群衆が常に両脇にいて、ジロジロと見られる。
心地の悪い花道を通っているような気分だった。
「着いたよ」
ルクスがそう言い、他と違って白く、大きな扉の前で止まる。扉の上を見上げれば、「生徒会室」と書いてあった。
(……生徒会室!? なんで!? 私何かした!?)
そんな心配をよそに、ルクスはガチャリと扉を開ける。
促されるまま中に入ると、大きな机を囲み、3人の生徒が着席していた。
にっこりとしながら、こちらにひらひらと手を振ってる1人を除き、残りの2人は見向きもしなかった。
そのうちの一人をレミアは知っていた。癖のある黒髪に、黒縁メガネ。アンバーだ。
「みんな、連れてきたよ」
ルクスがそう言うと、他の2人もやっとこちらに目を向ける。……睨まれているように感じるのは勘違いだろうか……?レミアが思わずそう感じるほど、2人の表情は険しいものだった。
「改めて。……あれ、改めてないか。まぁいいや」
そう、ぶつぶつ呟いたかと思うと、ルクスはこちらを真顔で見据える。相変わらず感情が読めない──と、言うよりは、表情の乏しい顔で彼はこう言った。
「レミア・ミュー。君をユーヴェリア学園高等科、生徒会に歓迎します」
「………………………………え?」
この場にいる、ほとんどの人間から歓迎されているとは到底思えない空気の中、レミアは1人困惑する。
(「生徒会に歓迎します」……!?)
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