【第24話】王城会議②
──世界終焉の救世主
レオナードは突然出てきた言葉に一応警戒する。
ヘンリーの考えていることなど、おおよそ予想の範囲を超えることはないが、この機会に出来るだけ悪巧みの詳細を聞き出そうと思った。
「世界終焉の救世主……ですか。具体的にはどのようなことをお考えですか」
「えぇ。呪い子の予言の情報はもちろん共有されておりますな?」
「はい」
ヘンリーの言葉にレオナードは頷く。その場にいるジーク、カトレアもこくりと頷いた。それを見て、ヘンリーは続ける。
『約1年後、5人の呪い子が揃うとき、世界は滅びる』
「これが最新の予言ですな。彼女にはこの、世界を滅ぼす呪い子を倒す救世主となっていただくのです」
「……倒す、というのは? 齢15、16の少女に人殺しをさせるのですか?」
「い、いえっ……、まさか。そんなつもりはございませんよ。"初代"のように封印に留めるなど……」
レオナードの鋭い質問に、ハハハ、と笑って誤魔化しながら、ヘンリーは額の汗をハンカチで拭う。
それを聞いて、内心ため息を吐く。きっとその辺のことについては全く何も考えていないのだろう。
レオナードは心底呆れていた。
しかし、とりあえず考えているであろうことは全部聞き出す。
「……どのようにして救世主にするおつもりなのですか?」
「えぇ、えぇ! その件ですがな!」
ヘンリーは明らかに、「別のことを聞いてくれて助かった!よくぞ聞いてくれた!」という顔をして、声高に話し始める。
「彼女はユーヴェリア学園所属。生徒会に入ってもらうのです」
そうしてヘンリーは武大臣、ジークの方を確認する。
「生徒会には学校以外での仕事がありますな?」
「なるほど。私の魔法兵団での仕事に参加させようということか」
ジークは突然回ってきた話を即座に理解し、返答した。
「そうでございます。普段は兵団でのパトロールなどで鍛え、終焉のときに力を発揮できるよう備えるのです」
「ふむ。正式にそう決まった暁には引き受けよう」
ジークは腕組みをしたまま、堂々とした態度でそう答えた。
肯定するわけでもなく、否定するわけでもない。
あまりに堂々とした態度でそう答えるジークに、ヘンリーが少したじろぐ。
「……えぇ、お願いいたします」
コホン。
そして、ヘンリーは話題を変えるかのように咳払いをした。そして皆を見回し、大げさに手を広げて言う。
「世間にはこの予言は公表されておりませぬが、"病気"として呪い子の噂が広まってきております。噂がもっと大きくなり、世間が呪い子の存在に気付いたとき、皆きっと彼女の存在に安心し、大きく期待するでしょう」
そして彼女が呪い子を片付けたとき、呪い子問題の責任者である私が功労者として称えられ、地位も上がるに違いない、と密かにほくそ笑む。
そんなヘンリーの様子を、レオナードは冷めた瞳で見ていた。
「……わかりました。ジーク様、カトレア様、何かご意見はございますか?」
「俺は決定に従おう」
「……私も特にはございませんわ」
カトレアには思うところがあったが、今ここで言うべきことでもないと考え、そう答える。
「それではオルロード様、この件、いかがいたしますか?」
レオナードがそう言って、王であるオルロードを見た。
皆が固唾を呑んで、その返答を見守る。
「……後ほど、結論を出そう」
王がそう言うと、皆無意識にレオナードの方を見た。
きっと王ではなく、王を裏で操っているレオナードが決めるのだろう、そう思っているからだった。
「かしこまりました。では皆様、本日はお集まりいただきありがとうございました。それでは」
レオナードがそう言うと、王がスッと席を立ち、ゆっくりとした足取りで部屋を出る。レオナードはトントンと机で資料を整えると、さっさと扉の方に歩いて行き、それに続いて部屋を出た。それを追いかけるように、ヘンリーもそそくさと部屋を出て行く。
「ははっ。なんとも緊張する会議であったな」
「そうですねぇ。息が詰まるかと思いました」
部屋が静まった2、3秒ほどの沈黙を破り、そう言ってジークがワハハと笑うと、カトレアもふぅと息を吐いてそう答える。
「ではどうだ? カトレア殿。この後私と一杯」
ジークが酒を飲むジェスチャーをしながら、お茶目にウインクをしてそう言うと、
「あらあら、デートのお誘い?」
と言って、カトレアはうふふ、と笑った。
「ははは、そんな洒落たものは生憎用意できなくてすまんな。なに、この会議の慰労会のようなものだ。下町に美味い店があってな」
「ふふ、冗談よ。素敵。ぜひご一緒させていただきたいわ。私、お酒大好きなの」
そう言って、カトレアもジークに向けて茶目っ気たっぷりにウインクする。
「あっはっは! 貴女は医者であろう」
「それはそれ、これはこれ、だわ」
そうして残る2人も歓談しながら部屋を出て行く。
机には長い影が落ち、燃えるような赤が部屋全体を彩っていた。
***
オルシュレーの緑の山々がオレンジに染まる。
「ハァ……クソ……ッ。魔力が……切れる……」
そろそろ日の入りを迎えようという頃、エドワルドは魔力切れで鉛のように重い体を引きずり、なんとか家のリビングまでたどり着いた。
そして、扉の枠に体ごと肩を預け、ずるずると床まで落ちる。
「エド! 今日も特訓キツかったの……?」
「んん……」
薄紫色のふわりとした癖毛を、ツインテールにまとめた少女がエドワルドに駆け寄って、声をかけた。
彼女の薄水色の瞳は心配で揺れている。全体的に色素が薄く、儚い印象を受ける少女だ。
しかし、彼はまともな返答をする前に意識が途切れ、眠りについてしまった。
「寝ちゃった……。エド、こんなに毎日ボロボロで、大丈夫かな……」
「まぁ大丈夫じゃね。こいつ、強いし」
「そういう問題じゃなくない!?」
少女は、その吊り上がった目と凛々しい眉、真紅の髪が特徴的の男子の胸をポカポカと叩く。
「まったく! ヴァンはじゃくにくきょーしょくばっかり!」
「当ったり前だろ。この世は弱肉強食だ。殺らなきゃ殺られんの。てかフィオナ、お前その言葉の使い方ちょっと違ぇな」
「え!? ヴァンが教えたんじゃん!!」
エドワルドと同世代に見える男女が、近くでうるさく言い合いをしていても、エドワルドは目を覚ます様子がない。深い眠りについているようだった。
「てかとりあえずエドを寝かせた方がいいんじゃねぇの?」
ヴァンと呼ばれた男子が、親指でエドワルドを指しながらそう言うと、フィオナと呼ばれた少女はハッとした様子で「そうじゃん!」と言う。
2人は協力してエドワルドを持ち上げ、リビングのソファに横たわらせた。
「……エド、どこに行くんだっけ。ゆー、ゆーで……あ?」
「ユーヴェリアな。何しに行くのか知らねぇけど、ザーガのおっさんが何か考えてるらしいな」
「そう言えば、ザーガさんは?」
「さぁ。知らね」
「……」
「……」
「勉……強の続きはむりか」
フィオナは危うくエドワルドの上に座りかけて慌てて立ち上がる。
手持ち無沙汰になった2人は、それぞれ自室に戻ることにした。
「じゃあ、おやすみ、ヴァン」
「ん」
2人は手を振り合う。
ぱたん、ぱたんと同時に扉が閉じた。
外では星がキラリと輝く。
その輝きを地下の彼らは知る由もなかった。
お待たせいたしました!更新開いてすみません。
ジークは実は第14話(学校へ)にて名前だけ初登場しておりました!
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