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終焉の呪い子たち(さいごののろいごたち)  作者: 藤宮空音
第2章 魔力発現編

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【第20話】王立研究所②

差し出された魔力測定器をじっと見つめ、レミアはごくりと唾を吞んだ。


(これで魔力がなくなってたら、どうしよう)


どうしようと思いつつ、一般的な数値に落ちていたらいいな、と少し期待する。

でも、それはそれで、今まで大騒ぎされていたのが恥ずかしくなる。とんだお騒がせお嬢になってしまうし、イレーナに、仕返しのチャンスを与えてしまうこと間違いなしだ。


レミアは意を決して測定器に手をかざす。


すると、真ん中が鮮やかに光り、数字が浮かび上がった。


色は──紫だ。


ホッとしたような、残念なような気持ちが同時に襲ってくる。


「107? 俺は105って聞いたんだけど」

「え、あれ……?」


レミアは自分も105だった気がすると思い、数字をしっかりと確認する。今目の前に浮かび上がっている数字はどう見ても107だ。


「えっと……、私も105だと思ってたんだけど……。もう一回やり直す……?」


やり直したところで変わるんだろうか、と思いながらレミアは提案した。


「いや、いい。変わんないだろうし」


ロベルトはそう言って、資料の「魔力値:105」に二重線を引き、107と訂正した。


「学生のうちは魔力が成長するからな。そんなに珍しいことじゃない。……が、」


そこで切ると、ロベルトはこめかみにペンを立てて黙ってしまった。

ロベルトが考え込むときの癖だ。


「約1週間で2はデカいな……。そもそも魔力成長も一生のうちに多くて10前後がせいぜい……。人生で一番魔力が高い時期が16~21あたりと言われているから今がピークに差し掛かり始めた時期ではあるが、その後減少することを考えても、あと約5、6年は伸び続ける可能性もあるな。その場合、人体への影響は? このペースで増えて大丈夫なのか。魔力過剰になったら肉体はどうなる。──そうか、チッ。まずいな」


ロベルトはぶつぶつ言っていたかと思えば、急に何か(ひらめ)いたようだった。

「まずいな」で終わっているのが少し怖い。


「……そうだな。(すう)、あ」


何かを言いかけたが、ロベルトの目がごちゃりとした机の上を見て止まる。何かを思い出したらしい。


「とりあえず紫ピンズおめでとう。やっと完成したんだと」


そう言って、ロベルトは国からの正式な紫ピンズを、なんだか重厚そうな装飾がたくさんついた箱ごと、片手で雑に渡してくれた。


「あ、ありがとう……」


(い、今……?)


話の流れ的に今じゃなくない……?、と思いながらレミアはそれを受け取る。


箱の蓋の真ん中には、国の紋章が描いてあり、それが国からの正式な魔力証明ピンズであることを示していた。


レミアは蓋の表面に指を滑らせる。金色で描かれたそれは、少しだけ盛り上がっていた。その手触りを少しだけ楽しむと、頭は彼のことを思い出していた。


『これさ、たぶん本物じゃないんだ』


(エド……元気にしてるかな)


本物じゃないと言っていた。きっとこの箱ももらったことがないのかもしれない。

彼はなぜ本物を持っていないのか。なぜあの日来なかったのか。


(仲良くなれたと思ってたけど)


結局知らないことばかりだ、と思った。


「開けねぇの?」

「あ、開ける!」


ロベルトに促されて、レミアは頭をこちらに引き戻す。そうだ、今は正式に魔力の証明品をもらったところなのだ。


二枚貝のようにパカリと開閉する箱を開けると、中にはふかふかのベロアのようなクッション生地が敷かれていた。

その真ん中には、驚くほど純度の高い透明な宝石が嵌め込まれた、ブローチのようなものが入っていた。


これがきっと魔力証明ピンズだ。

しかし、レミアはその中の宝石の色を見て首を(かし)げる。


「こ、これ、色は……?」

「ああ。それは、そこに自分の魔力を込めると色がつくんだよ」


魔力認証のときみたいに魔力を込めろと言われてレミアは困惑した。


「や、やったことない……」


寮の入り口の認証登録は絵画の少女に吸って(?)もらったため、自分で魔力を流すみたいなことはしたことがなかった。


「まじか。じゃあとりあえず人差し指を宝石に当てて、指先まで魔力を流すイメージで」


ロベルトは驚きつつも、慣れた様子で教えてくれた。レミアは言われた通りにやってみる。今回も、腕から指先に向かって何かが流れるような感覚がした。


成功だろうか?


じっとピンズを見つめていると、じんわりと、中心から外側に向かって、鮮やかな紫色が出現し始めた。


「わぁ……。すごい」


レミアは思わず感嘆の声を上げる。

素人目(しろうとめ)にも、相当高度な魔道具だとわかった。


「よし、OKだな。ピンズはそのままでもペンダントみたいにしても、どんな形でもいいから必ず持ち歩けよ」

「わかった」


レミアは改めて紫色のピンズを見て、少し気持ちが浮つく。


(う、嬉しい……。これが私に魔力があるっていう証明品! しかも綺麗……!)


レミアが密かに喜びに浸っていると、ロベルトは次の検査に案内してきた。


「じゃあ次はこっちな。これは王立研究所(ここ)にしかない特別な魔道具。この魔法陣の上に立つだけで身体(からだ)全体のデータがスキャン出来る」


(あ、さっき言いかけたことは教えてくれないんだ……)


レミアは「まずいな」で終わったことについて詳細を聞きたいと思っていたが、この検査の後でもいいかと思い、とりあえず黙って従うことにした。


ロベルトは(すみ)の方に巻いて置いてあった黒い布を引っ張り出し、部屋の真ん中で広げながらそう言った。

布には四角い箱みたいなものもついており、そこからは少し紙がはみ出ているようだった。そして、布には、ピンク色の魔法陣が描かれている。


「へ〜、病院にこそありそうなものだけど……」


レミアが思った疑問をそのまま口にすると、ロベルトはチッチッチッ、と言って首を横に振った。


「これはとんでもなく不便なんだよ。まだほぼ実験段階と言っても過言じゃない。魔道具のくせに最後の術式にわざと空欄が設けてあって、発動に術式の構築と魔力を必要とするから術者の腕が問われる。これがまた難しい」


「……ほぇ〜」


話の半分くらいがよくわからなかったため、レミアは適当に相槌(あいづち)を打つ。


(まぁでも、魔道具は「発動に魔力を必要としないため、術者のレベルに依存せず、誰にでも扱えるもの」ってことにはなってるもんね……)


「そして最大の不便ポイントはこれだ」


そう言ってロベルトはびっっっしりと数字が書かれている紙をレミアに見せてきた。


「うぇ……何これ?」


近づいて見ても、遠目から見ても、ほとんど数字しか書いておらず、レミアは思わず顔を(しか)める。


「データだ。この魔道具がスキャンしたデータは全て数字で出力される。ここが一番のウンザリポイント。絵とかで出力してくれりゃわかりやすいところを、全部データで出しやがる。これを解読可能な奴が数えるほどしかいない」


そう言ってロベルトは心底嫌そうな顔をした。

たしかに、このデータを全て人体に置き換えて考える作業は、想像するだけでも、ものすごく骨の折れる作業だろうということはわかった。


「まぁ、めんどくせぇだけあってそんじょそこらの検査よりも圧倒的に精密な検査が出来るんだよな……。解読を間違えなければ」


「……間違えなければ、ね……」


レミアは繰り返す。


(そこを間違えたら元も子もなくない……?)


つくづく不便な魔道具なんだな……と、レミアが哀れに思っていると、準備が終わったのか、ロベルトが声をかけてきた。


「よし、レミア。じゃあこの魔法陣の真ん中に立て」


レミアは緊張しながら、黒い布を踏んで魔法陣の上に立つ。よく見ると、魔法陣の線だと思っていたところは全部、小さな数字や文字で構成されており、魔術式がびっちりと書かれることによって図形を形成していた。


そんなことを考えている横で、ロベルトが詠唱を始めた。


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