【第19話】王立研究所①
レミアは大きめの鞄を背負い、荘厳な扉の前に立って、先ほどから約10分ほどうろうろとしていた。
(病院と違って比較的誰でも入れる場所じゃないから緊張する……!)
右手を持ち上げて、扉を叩こうとしてまた下げた。
(え、いいんだよね……? 私ここに呼ばれたんだよね……?)
レミアはもう一度、王立研究所から届いた手紙を確認する。何度見ても、ちゃんと王立研究所から呼ばれていた。
そろそろ約束の時間になるため、時間ギリギリという印象を与えないように頑張って入ろう!と、レミアが決意した瞬間、ギィと扉が開いて、一人の女性が顔を出した。
「あら、もういらしてたんですね」
そう言って彼女は大きく扉を開く。
「ようこそ、王立研究所へ」
「あ、ありがとうございます……」
レミアはおずおずと会釈をしながら研究所に踏み入れると、目の前には、天井の高い、吹き抜けのエントランスホールが広がっていた。
手前には受付らしきカウンターがあり、あの、水晶に似た魔力測定器や、宝石のような石が嵌め込んであるステッキのようなものなど、何かしらの魔道具っぽい様々な物がごちゃりと置かれていた。奥の方は、エントランスというよりは共用スペースのような造りになっており、掲示板らしきものがあったり、休憩スペースのようなものがあって、研究について討論したりなどしている。
目の前を横切る人たちは、1秒も無駄に出来ないといった動きで皆忙しなく歩き回っていた。
「こちらです」
レミアが呆気にとられてぼーっとエントランスホールを眺めていると、その女性はレミアを左手の方に案内した。
様々な色やマークが書いてある扉の前を通り過ぎ、奥の方の部屋に案内される。
女性がノックをすると、部屋の中から「どうぞ」という声が聞こえた。
ガチャリと扉を開け、中に入ると、まぁまぁ広い部屋の中で、肩ほどまでふわりと伸びた見慣れた茶髪の男性がレミアを迎えた。
「よぉ、レミア。大変なことになってんだってな」
彼はそう言いながら、カチャリと眼鏡を手で押し上げると、唇の端を持ち上げ、ニタリと笑った。
「おじさん!」
レミアはパッと顔を輝かせて走り寄り、机を挟んで男性の目の前の椅子へと勝手に腰掛ける。
「だぁーかぁーら、俺はおじさんじゃない。ピチピチの37歳のお兄さんだ」
男性はレミアの眉間に細長くて綺麗な白の人差し指を伸ばし、ぐりぐりと突き刺した。
でも痛くない。ちゃんと手加減されている。
「じゃあ……、ロベルトおじさん」
レミアが中等科にあがったあたり──つまり約3年前あたりから、ロベルトは異様に「おじさん」と呼ばれるのを気にし始めた。
「”おじさん”はいらない。ロベルトさんと呼べって言っただろ」
「そのままじゃ物足りないかと思って。”おじ”で飾ってみた」
「その飾りがいらねぇって言ってんの」
ロベルトはそう言うと、先ほどまでよりも強く指を押し込んだ。
さすがに爪が刺さってちょっと痛い。
「わかったよ、ロベルトさんね」
レミアが降参すると、ロベルトは指を離し、満足げにふん、と鼻を鳴らした。
「盛り上がってるところ悪いけど、僕のことも忘れないで欲しいね」
突然、くぐもった声が聞こえたかと思うと、鞄の中からノアが顔を出した。そういえば、今日はノアを連れてくるために大きな鞄にしたのだった。
「お、ノアじゃん。元気してたか」
「まぁそこそこにね。ロベルトの方はどうだい?」
「俺はこんなところに連れて来られて、最悪の気分だね」
そう言うと、ロベルトは目線を逸らして自嘲気味にハッと笑った。
「そうだ、なぜ君がここにいるのか僕も知りたいと思っていたんだよ」
そう言うとノアは机にのぼり、前足をビシッとロベルトに向ける。
「あー……、なんつうか、まぁ……」
ロベルトは顔の横の髪を人差し指でくるくると巻きながら、なんとも歯切れの悪い話し方を始めた。
「アンタってこの部屋から出て行ってもらったりできない?」
(え……?)
急にそんなことを言われ、レミアは困惑した。
それに、「アンタ」なんて呼ばれるのは初めてだ。
「ロベ……」
言いかけてはたと気付く。
ロベルトの視線は、レミアの頭上を通り過ぎ、斜め上を見ていた。
(私じゃない……?)
振り向いて確認しようとすると、同時に背後から声がした。
「できません」
レミアは思わず驚く。
さっき案内してくれた女性が、音もなく、後方の壁の隅にひっそりと立っていたからだ。
「……だとよ。ってことで詳しいことは話せないね」
ロベルトはやれやれ、と言った感じでそう答えたが、レミアはどういうことか、いまいちよく理解できなかった。
「ど、どういうこと……?」
「ご覧の通り、国から派遣されている人間に、ここでの俺の言動、行動が見張られてるんでね。聞かれたくないような込み入った話はできない、ってこった」
ロベルトは壁の女性を親指で雑に指差しながらそう言った。
(見張られてる……? 監視ってこと……?)
レミアが訝し気な顔をしていると、ロベルトは付け足した。
「お国のお偉いさん方が俺の研究所を調査したいっつーから、ヤダって言ったらこうなった」
「……へ?」
「つまり、俺の研究所に立ち入らせない代わりに、俺が王立研究所で一定期間サボらず仕事をするってのが交換条件ってこと。そういう見張り」
(な、なんだ……、そういうことか)
ロベルトの自由が……、なんというか──国から侵害されているのかと心配したレミアはほっと胸を撫でおろす。
「じゃあまぁ、仕事をしますか」
そう言ってロベルトは立ち上がり、水晶玉によく似たアレを取り出す。
そう、魔力測定器だ。
「病院でもやったと思うが、改めてもう1度。レミア、ここに手をかざせ」
ロベルトはいつになく真剣な顔でそう告げた。
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