【第17話】英雄伝説
※第9話(本当の始まり)内の「歴史」を→「魔法史」に改稿しました。
クレディは、続いて英雄伝説について話し始めた。
「建国神話と並んで有名なのが、英雄伝説です。建国神話以上におとぎ話性が強いものになりますが、現行の統治制度に大きく影響を与えているため、その辺とも絡めてしっかりと覚えましょう」
――――――――――
昔々──、ですが、メリー・ルンノベの時代ではありません。
あまりにも強すぎる魔力を有している男がいました。
「きゃあああ! 彼の風魔法が竜巻を起こしたわ!」
「おい! ろうそくに火を灯してくれと言ったんだ! 俺を丸焦げにするつもりなのか!?」
「奴の魔法で川が増水した! 氾濫に飲み込まれないように逃げろ!」
その力は成長とともに大きくなってゆき、その強大な魔力をコントロールすることが出来なくなってしまいました。
「たっ、たすけてぇー!! あの子の魔法が人を襲った!!」
「逃げろ!!!」
「きゃぁあああ!!!」
「うわぁぁーーん!!!」
男は暴走するその力で多くの人を屠り、やがて街を壊滅させてしまいます。
そこで力を尽くしたのが3人の英雄、ジャック・ウォーレー、オリバー・グレゴー、エリーゼ・シェンメリー。
3人とも優れた魔力を持ち、ジャックはその身体能力で、オリバーはその頭脳で、エリーゼはその治癒の能力で、当時の王とともに彼を封印し、街の復興に貢献しました。
「オイオイオイ! 派手にやってんなぁ!? 俺の力で全てをねじ伏せてやるぜ!」
「いけません、脳筋。その方法では上空からの攻撃を防げないでしょう。攻めるなら、こちらからです!」
「いいわよいいわよ!! 怪我をしたらすぐに私のところに来なさい! 腕の1本2本3本!! 治癒魔法で何本でもすぐ生やしてあげるわ!」
王はその3人の功績を称え、それぞれに王の補佐官としての立場を与えました。
それ以降、ウォーレー家は武大臣、グレゴー家は文大臣、シェンメリー家は医大臣として、今に至るまで、王の補佐官を務めています。
――――――――――
クレディは先ほどよりもやや淡々と話し終える。
(お、おもしろい……。
でも「彼」はどういう人だったんだろう……? 全然出てこなかったな。それに、封印されたってどういうことなんだろう?)
レミアがそんな風に疑問に思っているうちにも、クレディの授業は進む。
「この英雄伝説を元に、様々に脚色された多くの文学作品や演劇作品がありますので、ぜひ自分の気に入った作品を見つけてみてください」
(……なるほど、色んな作品がある分、あまり先入観を持たせないように、なるべくフラットに話してくれたのか)
レミアはそう勝手に解釈し、納得した。
「余談ですが、ウォーレー家は代々男児しか生まれず、シェンメリー家は代々女児しか生まれない不思議な家系となっています。テストに出すかもしれないので頭の片隅にいれておいてください」
「じゃあ余談じゃねぇじゃん」
どこか近くの席の男子がそうポツリと呟く。
幸い、クレディには聞こえていなかったらしい。特に何の反応も見せず、話し続けている。
それを聞いたレミアはと言えば、ノートにメモを取るべきかで迷っていた。テスト関係なら……と思いつつ、すでに知っていたことだったからだ。
「ちなみに。”彼”については一切調べてはいけません。十数年前から、彼の研究などは全て禁忌となりました」
え、どうして?
クラスの大半がそんな反応をしていたが、授業中ということもあってか誰も口には出さなかった。
「ではここからは教科書を使った授業に入ります。では、魔法史Bの教科書25ページを開いて──」
(どうして彼のことが禁忌になってしまったんだろう……)
レミアはそればかりが気になり、モヤモヤを抱えたまま、授業は右から左に流れていった。
***
授業が終わり、クレディが教室から出て行った途端、みんなが一斉にざわざわとし出す。
「彼って何?」
「なんで調べちゃいけないの?」
「お前知ってる?」
「知らない」
「あたし小説何個か読んだことあるよ。でも彼の名前と性格だけ全部違ったんだよね」
ざわめきは大きくなっていく。教室のあちこちで会話が交わされていたが、その全てが”彼”に関する話題だった。
「なぁ、アンバー、お前なんか知らない?」
やがて、とある男子がそう問うと、クラス中がシン、と静まり返る。
皆が彼の返答に注目しているようだった。
アンバーと呼ばれたその男子は、教科書に落としていた視線をゆっくりと上げると、質問をした男子を見つめる。
(あれ? なんか見たことある……!? っていうか名前も聞いたことあるような……)
レミアは、その癖毛の黒髪と黒縁メガネを見て、うーん、う~~ん……と頭を捻るが、悲しきかな、思い出すことが出来なかった。
彼はたっぷりと間を置くと、やっと口を開く。
「呪い子。僕が知ってるのはそれだけ」
それだけ言うと、また教科書へと目線を移してしまった。
「のろいご……?」
レミアは口の中で小さく呟く。ドクンと心臓が鳴る。
初めて聞くのに、なんだか、胸がザワザワとした。
教室はまたざわめきだしていた。
「呪い子って知ってる?」
「知らない」
そんな会話がたくさん耳に入ってくる中で、レミアは唐突に思い出していた。
この前学校に来る間に、見かけた彼らを。
(あのアンバーって人、生徒会の人だ……)
エリーゼ、個人的に結構好きです。
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