【第16話】建国神話
結局、レミアは一番上位クラスのAクラスに行くことになった。
なんと、イレーナの所属クラスだ。
教壇に立たされている今、イレーナからはものすごい形相で睨まれている。
思わず目を逸らし、他の人の顔にざっと視線を滑らせたが、ほとんどがこちらを凝視しており、居心地が悪い。
結局レミアは遠くの天井を見ることにした。
「では、ミュー。自己紹介をしてください」
レミアは「本当に? 嫌なんですけど……」という思いを込めて、おずおずと担任──クレディ先生の顔を見つめる。
クレディには特に伝わらなかったらしく、こくりと頷かれた。早く自己紹介をしろということだ。
「レミア・ミューです。……よろしくお願いします」
レミアはそれだけ言うと、ペコリと頭を下げた。
ぱらぱらとまばらに拍手が鳴った。あまり歓迎はされていない様子だ。
それよりも、ざわめきの方が大きい。
よく耳を澄ませば、
「なんであの子が?」
「学期の途中にクラス変更なんて聞いたことないけど」
「おもしれぇじゃん」
「急にAに来てついてこれるのかな」
「でもあれでしょ? イレーナをぼこぼこにしたって噂の」
などなど、色々と言われていた。
イレーナの件は、もう全員忘れてほしい。横暴なイメージが付くのは遠慮したいところだ。
(まぁAクラスはプライド高そうだし、みんな自分が1番を目指してる人だから歓迎はされないよね……)
紫ピンズということと、魔法を初めて扱ったわりには出来ている方、だったらしく、その2点を考慮しての結果らしい。学期の間にクラス変更など、本来はあるはずもなく、今回はレミアだけの特別移動措置となった。
(クラスなんてどこでもよかったのに、よりにもよってAだなんて……)
レミアはこっそりとため息を吐く。
そんなこんなでレミアはAクラスに編入することになったのだ。
***
一転。
レミアはAクラスの授業を楽しんでいた。
(さすがAクラス……! 教えてくれる先生の質が高いし、段取りもしっかりしててわかりやすい……!)
先ほど受けた魔法数学の授業が大変わかりやすかったために、レミアは興奮していた。
Eクラスを受け持っていた先生など、ボソボソ喋るし話が飛ぶし、計算式も飛ぶしでわかりにくいことこの上なかったのだ。
「では皆さん、今日は建国の歴史について学びます。現代史にも繋がるところがありますから、しっかりと勉強するように」
そう、今は魔法史の授業が始まるところだ。
「みなさん、創始の魔女、メリー・ルンノベのことは知っていますか?」
魔法史担当のクレディ先生は教室を見回し、生徒の反応を確認する。
頷いている人もいれば、何かしらメモしている人、ぼーっとしている人、すでに眠気と戦っている人……など、皆それぞれの反応を見せていた。
メリー・ルンノベについては、もちろんレミアも知っていたので、少し頷いてみせる。
「そう、彼女こそがこのルンノベ王国建国の母。有名ですね」
クレディはそう言うと、建国神話を語り始めた。
――――――――――
──昔々、世界は一つでした。
その時代、魔法は存在していませんでしたが、あるときから、魔力を持った人間がぽつぽつと生まれ始めました。
「なんだ! この光は!?」
「とっ、特別な力だ! 緑を再生し、土地を豊かにすることができるぞ!」
それが、最初の魔導士たち。私たちの遠い遠い祖先です。
最初、人間と魔導士は、助け合いながらともに暮らしていました。
「井戸の水が重くて運べないんだ」
「そうか、では私が魔法で持ち上げて運ぼう」
しかし、段々と人間は魔導士たちの魔法に頼ってばかりいるようになり、さらにその上、魔導士たちのことを恐れ、数の優位を使って差別するようになったのです。
「おい! 魔導士! ここの草を刈っといてくれよ!」
「ひぃぃぃ! そこの魔導士が森をまるごと燃やしているところを見たんだ! このままじゃ俺たちの村もいつか焼かれちまう!」
「ちっ、ちがう! わざとじゃないんだ……! どうか怖がらないでくれよ……!」
「出ていけ! 人殺し!!」
「な、なんで……、どうして……!」
そこで、魔導士たちは考えました。
彼らと我々は別々に暮らすべきなのだと。
「人間とはもう一緒に暮らせない。お互いに傷つけあってしまうのなら、離れて暮らそう」
そして、当時一番力のあった、メリー・ルンノベに相談しました。
「そう、いい考えね」
すると、彼女はその類稀なる頭脳と、魔力、魔法操作で異空間を作り出し、結界を編み上げ、そこに王国を築いたのです。
「おぉ! なんと素晴らしい! メリー様万歳!!」
「王国の名前は、メリー様の名前からいただいて、ルンノベ王国にしよう」
それが、表世界との断絶、ひいては裏世界の起源であり、ルンノベ王国の始まりだとされています。
――――――――――
クレディは余韻たっぷりに語り終わると、なんともアンニュイな表情で窓の外を見た。
なんと、建国神話(迫真の演技付き)だとは恐れ入る。
「これが、建国神話です。諸説あるとは言われていますし、メリー・ルンノベにここまでの力があったかは──」
クレディは余韻に浸っていたのかと思えば、こちらに向き直り、また淡々と説明を始める。
なんだか思っていたのと違っておもしろい人だ。
「これ以降、メリー・ルンノベの血を引く、ルンノベ家が代々国王を務めています。現在の王は、有史以来、第136代目と言われており、オルロード・ルンノベ様が務めておいでです」
レミアは真剣に授業を聞き、感動していた。
今までこんなに詳しく学ぶ機会など、本の中以外ではなかったからだ。
(Aクラスに来れて良かった……!)
どうでもいいと思っていたクラス分けだが、質の高い授業を受けられたことは、レミアにとって代えがたい体験となった。
「では、次は英雄伝説についてです」
(次はどんな風に教えてくれるんだろう……!?)
クレディがそう言うと、レミアはワクワクした表情で彼女を見つめた。
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