【第15話】負け犬に追い討ち
「レミア・ミュー!」
ゲーム・オーバーだ。
イレーナに名指されたレミアは諦めて歩みを止める。
「あなたのせいで私は大怪我を負ったわ! どうしてくれるつもり!?」
「……ご、ごめんなさい」
包帯を巻いた腕を指差しながら言うイレーナに、この件に関しては自分が悪いか、と思い、レミアは渋々謝る。
(あれ……? でも、そもそもそっちが理不尽に私を攻撃したのが悪いよね……?)
「ごめんなさいだけでは済ませないわ! お詫びに私の言うことを何でも聞きなさい! この先、一生よ!」
イレーナはカッカと顔に血を昇らせて喚き散らしているが、お願いだからあまり大きな声で叫ばないで欲しい。
ものすごく、目立つ。
それに、言っている内容がめちゃくちゃだ。
「自分勝手だなぁ……」
(あ、まずい。声に出ちゃった…。聞こえたかな?)
レミアはそっとイレーナの様子を確認する。
「なんですって!? そもそもあなた、魔法を使えるのを隠してたのか何か知らないけれども! 私と同じ高位魔法を撃ってくるなんて! バカにしているの!?」
運悪く、イレーナの耳に入ったらしい。先ほどよりも憤慨した様子で畳みかけてきた。
「……いや、私はずっと魔力なしだったよ」
あんなに虐げられてきて、魔法を使えるのを隠していたわけがあるか、とレミアは心の中で反撃した。
(……あれ? イレーナは私が魔法を跳ね返したんじゃなくて、同じ魔法を撃ったと思ってる……?)
「嘘よ! 急に魔力を得てあの魔法が使えるわけないわ! お黙りなさい!!」
そう言ってイレーナは掌をこちらに向け、何やら魔法を撃とうとした。
(まずい……!!)
せっかく魔力を得たのだから、やられっぱなしというわけにはいかない。
(ええい! どうとでもなれ!!)
レミアはまだ自分にも使ったことがなければ、そもそも実践すらしたことのない魔法を発動することにした。
(傷つけないやつといったらあれだ! 教科書の通りに……!)
意識を腕から指の先に流れるように集中させる。
(詠唱は口に出さなくてもOKだけど、出した方が成功率が上がるから……!)
「flvfae!」
レミアがイレーナめがけて浮遊魔法を発動すると、何かしらの魔法を詠唱中のイレーナがグワンと持ち上がった。
「やった! 成功した!!」
喜んだのも束の間、斜めに持ち上がったイレーナはどんどんと高度を上げて浮いていってしまう。
「やばい! どうしよう!!」
焦ったレミアは集中力を欠き、その拍子にイレーナが急下降を始める。さらに焦ったレミアが再び浮遊魔法で調整しようとすると、上手くいかずに今度はイレーナをぐるぐると回転させてしまった。
「いやああぁぁぁぁぁ! 助けてぇぇぇぇぇぇぇ」
イレーナの断末魔が響き渡る。また聴衆がわらわらと集まり始めていた。
「ど、どうしよう! 助けて!」
グチャグチャに飛び回るイレーナから目を離さず、何とかしようと試行錯誤しながら、レミアも助けを求めて叫ぶ。
すると、突然左からスッと手が伸びてきて、腕を掴まれた。
その人物はそのままレミアの腕をグイと降ろすと、浮遊魔法を解除させ、代わりに風の魔法でイレーナを包んでゆっくりと降ろす。
イレーナは醜い顔を晒し、自慢の髪の毛を乱して気を失っていた。
「あ、ありがとうございます……!」
お礼を言いながら左を向くと、そこにいたのは、なんとまぁ美しい顔!
──ルクスだった。
ルクスはこくりと頷くと、
「君の魔法は強いみたいだから気を付けて」
それだけ言って、去って行ってしまった。
「何事ですか!?」
返事をするタイミングを失い、その背中を見送っていると、誰かが呼んだのだろう、騒ぎを聞きつけた先生がやってきてしまった。
「彼女が空高く浮いているのが見えました。レミア・ミュー、あなたの仕業ですか?」
先生はイレーナを一瞥し、今にも怒り出しそうな顔で言った。
「はい……。すみません」
「仕業」というのは人聞きの悪い……などと思いながら、一応犯人なので素直に返事をする。
「素晴らしい! ……コホン、いえ、素晴らしいことではありません。人を危険に晒した件については反省するように。また、使ったことのない魔法を他人に向けて撃つのもいけません」
「……すみません」
レミアは予想外の言葉にたじろぎながら謝る。
(今、「素晴らしい」って言った……?)
「ただ! 浮遊魔法は本来、人をあんなに高く浮かせることができる魔法ではありません。それを成し遂げたあなたは素晴らしい! ぜひAクラスに──」
「ちょぉっと待った! それを言うならウチのBクラスに! 何せミューはまだ実践は中等科レベルかもしれないでしょう! いきなりAクラスっていうのはハードルが高いんじゃないでしょうかね!?」
「お二方だけで話を進められては困りますなぁ。実践をやったことがない……となれば初等科レベル。Cクラスから始めても良いのでは?」
どうやら聞き間違いではなかったらしい。
急に褒めたと思えば、教師陣が集まり、本人を置き去りにして、やんややんやと騒ぎ出した。
もしかすると、教師の間にもランクなり、何なりで待遇が違ったりと、何かがあるのかもしれない。
全員、優秀な生徒を抱えようと必死な感じが見てとれる。
話がまとまる様子がないので、仕方なくその場に留まることにしたレミアは、イレーナがそこで伸びていることを思い出した。
(なんかすごいかわいそうなことしちゃったけど、今までの仕返しだと思えば安いもんか)
レミアはイレーナに向かって心の中であっかんべーをした。なんだかんだ、イレーナに関しては、色々とスッキリしたかもしれない。
(誰も保健室に運んであげたりしないけど、いいのかな)
まぁ普段から人に恨みを買いすぎてる罰か~などと呑気に考えていると、やがて、話がまとまったのか、Aクラスの担任がレミアに声をかけた。
「ミュー。あなたの扱いについて、この場で結論を下すのは不可能だったため、校長に判断を仰ぎます。良いですね?」
「……わかりました」
良いも何も……、と思いながらレミアは答える。今日はとりあえずEクラスに出席すればいいらしい。
そうして野次馬にジロジロと見られながら、レミアはその場を離れる。目の端で、イレーナが先生たちによって運ばれてゆくのを確認した。
(そうだ、私って紫ピンズになったんだ……)
レミアは今更になって、事の重大さを身を持って実感した。
今までは、わかっていたのに、理解出来ていなかった。
特別強い魔力を得たのだ。
良い意味でも、悪い意味でも。
(普通、が欲しかったんだけどな)
あれほど望んだ魔力。それを得られたことは、この上ない喜びだったが、逆の意味で普通ではなくなってしまった。
隔離されたEクラスに向かうまでの道すがら、たくさんの人にジロジロ、チラチラ見られたり、ヒソヒソと囁かれたりした。
今日は朝から目立ちすぎた。
あぁ、長い一日になりそうだ。
呪文は適当にそれっぽくしました!
閲覧ありがとうございます!
高評価、ブクマ、感想、リアクションなどなど、大変励みになっております!ありがとうございます!
まだの方もぜひ応援していただけるとモチベに繋がって嬉しいです!




