【第13話】ノアという黒猫
「ノアー?」
見慣れた屋根裏部屋の扉を押し開けて、ガランとした部屋の中に声をかける。
途端、音もなくするりと影からノアが出てきた。
「ノア! 良かったいた!」
抱き上げようとすると、ノアはその腕を踏み台にして、あっという間に前かがみになっているレミアの肩の上まで登った。
「ちょ、ちょっと! 私起き上がれないじゃん」
何を言っても、少し起き上がる素振りを見せても、降りようとしないので、諦めてピンと背筋を張る。それでもノアは肩に乗ったまま落ちてこなかった。器用なやつめ。
「もーいいや、このまま新しい部屋まで運ぶからね」
ノアにそう声をかけ、「なんで荷物と一緒に運ばれてくれなかったかなー、もー」などと、ぶつぶつ呟きながらレミアは屋根裏部屋のドアを後ろ手で閉めた。
「僕は誇り高き使い魔の黒猫。知らない人間に運ばれるなんてまっぴらごめんだね」
ふと後ろから声がして振り向く。
当然、後ろには人などおらず、ドアしかない。
「……は?」
思わず呟く。
(え、今の、誰──?)
「どうしたのレミア、行かないの?」
またもや後ろ──否、肩の方から声がした。
「え、やっぱりノアだよね? ノアって喋れたの……!?!?」
「なんと! あぁレミア! やっと僕の声が聞こえるようになったんだね!」
ノアは嬉しそうにそう言うと、ゴロゴロと喉を鳴らした。
「先週、レミアから僅かな魔力を感じてたんだ。やっぱり、魔力が発現したんだね。あぁ、さすが僕の主の子。こんなに高い魔力を有しているなんて」
ノアはそう言うとレミアの首にすり寄った。
なんだか知らない人と話しているみたいで、レミアは少し戸惑う。
「あの、えっと……」
(あれ? 待って、そういえば今「主の子」って言った?)
「ねぇ、ノアの主は私のお母さんなの?」
そう聞くと、ノアは2本の前足を無遠慮にレミアの頭の上に置くと、嬉しそうに肩の上で立ち上がる。
「もちろん! 僕の主は後にも先にもヨンナだけ。契約上、僕はレミアの使い魔ではないからね。君のことは、ロベルトに言われて見守っているだけさ」
「おじさんに……?」
「そうさ! ロベルトもツンケンしてる割には子ども思いだねぇ」
(そういえば、おじさんがノアの同行を勧めてくれたんだっけ……)
ガタン。
突然、階下で物音がした。
まだ授業中の時間だが、もしかしたら、風邪を引いて寮で休んでる子がいる可能性も否めない。
「1回、新しい部屋に戻ろうか」
そうして2人──1人と1匹は豪華な部屋へと向かった。
***
「ノアのことはペットで申請してるんだけど……。使い魔に変えないといけないのかな?」
部屋に戻ってくるなり、レミアはわりとどうでもいい心配をし出した。そんなレミアを見て、黒猫は退屈そうに答える。
「僕は知らないさ。何だっていいんじゃないの? 人間の取り決めは面倒くさいったらありゃしない」
そう言いつつ、ランク制度という、人間の取り決めで勝ち取った、ふかふかのベッドの上でノアは堂々と寝そべる。
そんなノアを見て、レミアもまぁ何でもいいか、と思った。どっちにしろ、ノアはレミアの使い魔ではない。
「それよりも! 使い魔と契約できる奴は少ないんだ。契約魔法は高位の魔法になるからね。それに、使い魔はみんなプライドが高い奴が多くて、気に入った人間としか契約しない。つまり! 使い魔の僕を連れて歩けば大注目の的、間違いなし!」
ノアは声高らかにそう言うが、大注目の的になどなりたくない。魔力発現の件ですでに大注目の的になっているであろうことを思うと、ノアを絶対に寮に置いて行こうと密かに決めた。
「そういえば……私はどうして急にノアの声が聞こえるようになったの? 魔力が発現したから?」
「そうさ! 使い魔の声っていうのは別に魔力があれば誰でも聞ける。僕が聞こえる相手を選ぶ魔法を使っていれば話は別だけどね」
思い出した疑問を聞くと、ノアは得意げに説明してくれた。
じゃあ、今までは魔力がなかったから、ノアのことをただの猫だと思っていたのか、と納得した。
「え、待って、ノアは魔法が使えるの?」
「もちろん! 使い魔を何だと思ってるのさ! 主のサポートが主な仕事だよ。魔法が使えなきゃ、ただの喋る猫になっちゃうよ」
ノアはややぷんすこしながら答える。前足をたしったしっとベッドに打ち付けていて、なんだかかわいい。
「あとは、人間よりも魔力探知に優れているのも特徴かな。先週、レミアの僅かな魔力に気付けたのも、僕だからこそだ」
ノアはまた、得意げに鼻をふふん、と鳴らしながら答える。
なるほど、先週ノアが不安そうにしていたのもそういう理由だったのか。
気付いてたなら教えてくれても……と、思ったが、その時点ではノアの声は聞けない状態だったから無理だ、と気付く。
「ふぁあ~。いっぱい喋って疲れちゃった。僕は寝るよ」
そう言ってノアは勝手に、キングサイズのベッドのど真ん中で寝始めてしまった。
(えぇ……、そこ、ベッドの真ん中……)
自由気ままなノアにレミアは困惑したが、幸い、まだ寝るには幾分早すぎる時間だったため、ノアをそのままにして勉強を進めることにした。
魔法が使えるようになったのなら、使ってみたい魔法がいっぱいあるのだ。
そうしてレミアは机に向かう。
窓の外では、オレンジからピンクを経て水色へ。
綺麗なグラデーションの空が広がっていた。
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