【第12話】豪華
学園に戻り、豪華すぎる馬車から解放されたレミアは、重厚な扉を開けて寮の中に入る。
すると、待ち構えていたかのように、絵画の少女が嬉しそうに話しかけてきた。
「あら、おかえりなさい。うふふ。魔力の注ぎ方はわかる?」
「い、いいえ……」
「いいわ、じゃあ特別にこちらから吸わせてもらうわね」
「吸う……」
そんなこともできるのか、と少女の話をぼんやりと聞いていると、指示を出される。
「絵に向かって手をかざしてちょうだい。あなたの魔力を登録するわ」
レミアは言われた通り、右手を絵画にかざすと、何かが腕を通って流れ出るような感覚がした。
「これでもういいわ」
「……ありがとうございます。これで今度から私も認証が使えるってことですか?」
「そうよ」
レミアがそう聞くと、少女は短く答えた。と、同時に絵画が横にスライドして、壁の穴が現れる。
本当に、自分にも魔力があるんだ、といちいち感動してしまう。
(でも、どうして私に魔力が発現したことを知ってるんだろう……)
そんな疑問が過ったが、カトレアから話が来ているのか、と自分で解決した。
壁の穴をいつものようにモタモタと通り抜けようとして、浮遊魔法を使えるようになったらこれも解決できるんだ、と思い付く。
不安もたくさんあったが、なんだか今はこれからのことにワクワクがとまらない。
ロビーに降り立ち、絵画がゴゴゴゴ……とスライドしている最中、その音に紛れて「うふふ。きっと本当におもしろくなるわ」という声が聞こえた気がした。
そういえば、彼女は先週、事件が起きる朝にも同じようなことを言っていた。
(もしかして、最初からわかっていた……?)
少し薄気味悪さを感じて背中が冷える。
足早に自室の屋根裏部屋に戻ろうとすると、ネネに声をかけられた。
「ミュー。あなたの部屋が変わったから案内するよ」
「え、あ! ありがとうございます」
自分のランクが変わったことをすっかり忘れていた。
ネネに案内されるまま後ろをついていくと、廊下の時点でどんどんと豪華な部屋に近づいていくのがわかった。
やがて、ネネは大きな両開きの扉の前で止まると、鍵を取り出して、ガチャリと扉を開ける。そのまま中に踏み入れて、壁のスイッチを押してシャンデリアを点灯させると、
「ここだよ」
と言った。
「わ、わぁ……」
(すごい……)
あまりの豪華さに、レミアは間抜けな感嘆をもらすことしかできなかった。
改めて部屋を見渡す。先ほどネネが点灯させたシャンデリアは、おそらく最新式のものだ。壁に設置されているスイッチを押すと、シャンデリアに内蔵されている魔法陣が起動し、光が灯るものだ。つまり、シャンデリア自体が大きな魔道具なのだろう。
屋根裏部屋に比べれば、天井もやたら高く、部屋は一人で暮らすにしてはアホみたいに広い。屋根裏部屋の10倍くらいはありそうだ。
両開きのガラス張りの窓は、上の方がアーチを描くデザインになっており、透明度が高く、外の景色をよく見渡せるようになっていた。その窓が、ざっと見ただけで5つ前後ある。
そしてその、広い広い部屋には、色々と装飾がついたビロード生地の天蓋付きキングサイズのベッドが一つと、その奥の窓際に、勉強用のデスクと椅子が置いてあった。
逆側の隅の方には、大きめのクローゼットも見える。
「ここはこの寮の最上級の部屋。まだ誰にも使わせたことがないらしい」
「え……、そんな部屋、使わせてもらっちゃっていいんですか?」
「あなたが使わなきゃ誰が使うの」
「す、すみません……」
ネネの抑揚のない声でそう言われると、なんだか怒られている気分になり、咄嗟に謝った。
(そっか……、私本当に紫ピンズになったんだ)
まだこの扱いに慣れないレミアは1回ごとに噛みしめる。
「あ、そうだ。私のせいで他の人のランクが落ちたりとかは……」
「今のところないね。そもそもこの寮は満員じゃないし、部屋はわりと余ってるから」
レミアはそれを聞いて少しホッとする。誰かが屋根裏部屋に行くことになったら少し可哀そうだからだ。もちろん、積極的に住ませたい奴もたくさんいるが……。
(まぁでも、恨みはあんまり買いたくないしね)
レミアは寮にイレーナがいなくて良かった、と思った。
このユーヴェリア学園は全寮制ではない。王都の中心部にあるため、家が近い人は毎日通いで来ている。どちらかと言えば、通いの人の方が多いのが現状だ。
「じゃあ荷物も移させてもらってあるから。あとこれ、鍵ね」
そう言ってネネはレミアに鍵を手渡す。
(鍵だ! 鍵付きの部屋だ……!)
レミアは、鍵などついていなかった屋根裏部屋を思い返して感動した。
「あ、そうだ。今ちょうど昼だし、食堂で豪華な食事でもとってきたら? 今日は授業に出なくていいって言付かってるから。明日からは学校に来いってさ」
ネネはそう言い残すと、手をひらひらと振って去っていってしまった。
(そっか……、みんな今は学校にいるんだ。じゃあ、のびのびとご飯でも食べちゃおう!)
レミアは、部屋の物色もほどほどに、軽い足取りで食堂へと向かった。
***
食堂に着くと、人は全くおらず、閑散としていた。
(え、こんな中私のためだけに料理作ってもらってもいいのかな……? 休憩中とかだったり……っていうかそもそも厨房に人、いる……?)
そう思いながら、料理が出てくる窓口や、食器を片付ける窓口の隙間から厨房を覗こうと試みたが、結局よく見えなかった。
(ええい……! なんでもいいや! お腹空いてるからご飯をください!)
レミアは意を決してカードリーダーに学生証をかざす。
しばらく待つと、いつもの数倍の大きさはあるトレーに、豪華な食事が乗って出てきた。
「わ、わぁ……!!」
メインのお皿には、薔薇の形に盛り付けられたローストビーフ。脇を見れば、美味しそうな半熟卵の乗ったシーザーサラダと、こんがり焼けたポテトグラタン。クリーミーなポタージュスープに、バターが香るふわふわのパン。さらに、デザートには、たくさんのベリーが乗ったタルトケーキが用意されていた。
「すごい! すごい……! 美味しそう!!!」
レミアは感激の声をあげながら、目についた席に急いで座って、その全てを味わって食べた。
「ん~~!! 美味しかった~!! ノアにも自慢しなきゃ」
そう呟いて、はたと気付く。
(あれ……、ノア、あの部屋にいたかな?)
レミアは感謝を込めて食器を丁寧に片付けると、急いで先ほど与えられた広い自室に戻る。
「ノアー?」
ベッドの下や、机の下、クローゼットの中など、思いつくところをいくら探しても見つからない。
レミアは、試しに屋根裏部屋の方に探しに行くことにした。
閲覧ありがとうございます!
高評価、ブクマ、感想、リアクションなどなど、大変励みになっております!ありがとうございます!
まだの方もぜひ応援していただけるとモチベに繋がって嬉しいです!




