【第11話】紫ピンズ
※第9話(本当の始まり)の、最初のノアとのやりとりのところを加筆修正しました。
私に──魔力がある……?
もう一度、頭の中で繰り返す。おかしい。
いや、だって、今まで、15年間魔力なしとして生きてきた。
「魔力が後から発現するケースは歴史的に見ても極めて珍しいわ。前例のない、初めてのことよ」
カトレアは話を進めるが、レミアの頭にはちっとも入ってこなかった。
(なんで? どうして? 今更になってそんなこと……。本当に……?)
「混乱しているところで悪いんだけど、さっそく正式に魔力検査をしてもらいたいの。その方があなたも実感が湧くはずよ」
カトレアはそう言うと、ドアの方に向かって歩き、廊下に控えていたらしい看護師から水晶玉のようなものを受け取って戻ってきた。
何度か見たことがある。これは、魔力検査装置だ。
数年に1度、これで魔力を測らされてきたが、この水晶が反応したことなど、ただの一度もなかった。
「これに手をかざして」
レミアは半信半疑でカトレアと水晶玉を交互に見る。カトレアはこくりと頷いて、レミアの行動を促した。
少しの不安と少しの期待が入り混じった気持ちで水晶玉に手をかざす。
すると──、
水晶玉の真ん中が鮮やかな紫色に光った。
よく見ると、真ん中には105という数字も現れている。
(ひ、光った……!)
レミアは感動した。
この装置が自分に反応したのは初めてだった。
(ほんとうに、私にも魔力がある……!?)
高揚した気持ちのまま、この色と数字が何を示すのか聞きたくてカトレアの方を向く。
「あの……! これって──」
「し、信じられないわ……」
カトレアの目は水晶玉に釘付けになっていた。レミアが言いかけた言葉は耳に入っていないようだ。
「どっ、どうしたんですか?」
何をそんなに驚いているのか聞きたくて、前のめりになりながらレミアは聞いた。
「あぁ……ごめんなさいね。えっと、この色が示すのは魔力証明ピンズの色。──だからあなたの地位は紫ね。それから……」
カトレアは動揺を隠しきれない様子で説明してくれたが、ピンズが紫と聞いて、レミアは思考が停止していた。
(むっ……、紫ピンズ……!?)
そういえば魔力を測定される前にも言われたような気がしてきたが、今初めて聞いたかのような衝撃が隠せない。
「大丈夫? 聞こえているかしら?」
「え? す、すみません!」
カトレアに覗き込まれて、自分から聞いておいて話を全く聞いていなかったことに気付く。
「ううん、大丈夫よ。もう一度言うわね。真ん中の数字は魔力量を具体的に数値にしたものよ」
「はい」
丁寧にもう一度説明してくれるカトレアに、心の中で謝罪と感謝をしながら、今度こそ聞き逃すまいとしっかりと返事をする。
「基本的に一番人口が多い層の黄色~緑が大体50~70付近ね。
赤が30以下で、オレンジが40前後、水色になると優秀と言われる領域に入ってきて、大体80前後ね。
青になるとかなり稀少で90前後だわ。
紫を見るのはこれが初めてだから、一般的なことは言えないけれど、100前後ってところかしら……」
「ってことは……」
レミアは自分の105という数字をもう一度見る。
(もしかして、すごい……のか、私)
戸惑いながらカトレアの方を見ると、「これって100を超えることもあるのね……」とぶつぶつと呟いている。
しばらく色んなことをぶつぶつと言っていたが、突然パン、と手を合わせるとこう告げた。
「とりあえず、この魔力検査は医大臣である私が見届けましたので、正式な魔力証明ピンズを後日しっかりと手元に送らせてもらいます」
カトレアはそう言って書類にサインをする。そしてこちらにもその書類を渡すと、
「あなたのサインもここにちょうだい」
と言った。
レミアは言われた通りに書類にサインをする。
そして、じっくりとそれを眺めた。
本当に、自分にも魔力がある。
それを証明できるものがここにある。
そう実感して嬉しくなった。
「ピンズを渡すのは先になってしまうけれど、あなたの待遇が紫色保持者相応になるように、私から学校に進言しておくわね」
「あ、ありがとうございます」
(そうか、学校での待遇も変えることが出来るんだ……)
なんだか、何もかもが大事のような気がして、少しソワソワとする。
「さて、ここでやらなきゃいけないことはこれくらいなのだけれど……、何か聞いておきたいことや不安なことはある?」
「えっと……」
そう言われても色々と頭が追いついていないので、何も思いつかない。
「ないです」と返事をしようとして、一つ疑問を思い出した。
「あの……どうして後から魔力が発現したんですか?」
レミアがそう聞くと、カトレアは眉を下げて困ったように笑った。
「ごめんなさいね、色々と調べてはみたんだけど……。原因についてはわからなかったの。
……ただ、一つだけ」
そこでカトレアは人差し指を立てて言葉を切る。
「魔力貯蔵器官自体は最近出来たものではないようだったわ」
「え……」
レミアは中等科のときに学んだ人体学を思い出す。魔力貯蔵器官とはたしか、そこで魔力を生み出し、魔力を貯めている臓器のことだ。
「で、でも今までの検査でそんなものがあるなんて言われたこと……」
「考えられる要因は2つね。魔力が作られなかったことで、臓器がものすごく萎んでいて観測できなかったか。または、かかっていた病院のレベルが低かったかの2択だわ」
「そ、そんな……」
もし後者だったとしたら、受けなくていいはずの理不尽をずっと受けていたかもしれないのだろうか。
そんな考えが過ったが、いや、ありえない、と否定する。
(結局魔法が使えなかったら、魔力があることの証明にはならない)
「王立病院でわかったのはこれだけ。申し訳ないけれど、もしかしたら今度は王立研究所にも呼ばれてしまうかも。あなたは知らないと思うけど、この件、国レベルの大事になっているの。何せ歴史上初めてのことだから」
カトレアは淡々とした口調で重要そうな情報を立て続けに言う。
(次は王立研究所……? 国レベルの大事……?)
「色々言ってごめんなさいね。他に聞きたいことはあるかしら?」
「……」
色々考えてみたが、何かを聞けばまた新たな疑問が浮かんでエンドレスになるのは目に見えていた。レミアは、とりあえずは自分で情報収集をしてみようと決める。
「だ、大丈夫です……。今のところは」
「良かったわ。もし何か他に聞きたいことが出てきたらいつでもここに来て私を呼び出してちょうだいね」
「……ありがとうございます」
レミアは苦笑いを浮かべて答える。
こんな場所は気軽に来れるところじゃないし、この人は気軽に呼べる人ではない。
「あぁ、そうだったわ。紫ピンズは歴史上数人しかいない貴重な人材よ。身の安全には注意することね」
「えっ……」
(身の安全に注意……!?)
これから私はどうなってしまうんだろう。
手に入らないことが苦しいから、望むことすら諦めていた、魔力。
それを得た喜びでいっぱいだった心が不安で染まっていく。
不安を抱えたままカトレアと別れの挨拶を交わせば、入れ替わりで看護師が部屋に入ってきて、退院の説明と準備を始めた。
「外に迎えを用意してありますので」
「む、迎えを……?」
病院から学園まであまり離れていないため、自分で帰れると断ったが、どうしてもダメらしい。
(やっぱりもう身に危険が迫ってるのかな……)
拭えない不安感を抱えたまま王立病院を出ると、やたら豪華な馬車と、高級そうな服を着た執事のような男性がレミアを待っていた。
(め、目立つ……!)
レミアは足早に馬車に近付くと、執事の男性に挨拶をして、エスコートされるままにそそくさと馬車に飛び乗った。
馬車の中は思っていたよりも広く、多くの装飾がついていて、目が痛いほどにギラギラとしていて落ち着かない。
立っているのも微妙なので、とりあえず椅子に座ってみると、ものすごく柔らかかった。
(ふ、ふかふかだ! すごい……!)
こんな高級な馬車に乗るのは初めてで、レミアは少しはしゃぐ。
馬車の窓から外を見ると、病院に出入りする人が物珍しそうにこちらをチラチラと見ていた。
(は、恥ずかしい……! すごいけど、やっぱり早く帰りたい……!)
そんなことを思っていると、やがて、馬車は学園に向かって走り出す。
あの事件から、1週間後の水曜日、お昼。レミアは学生寮へと向かっていった。
魔力証明ピンズの地位の順番
紫→青→水色→緑→黄色→オレンジ→赤
数値のところは話半分で大丈夫です。紫が一番上なんだな〜くらいで。
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