【第10話】魔力発現
※第4話のタイトルを「女子寮にて」→「予言」に変更しました。
眼下には、紫色の炎に包まれる街が広がっている。
両隣には、人影が2つずつ。
どこかで見たことがある光景だと思った。
「レミア」
ふと、隣に立つ男性に名前を呼ばれた気がして振り向く。
彼の顔は、逆光でよく見えない。
でも、この人を知っている。
そんな気がしていた。
***
ぱちり、と目を開く。
急に入ってきた白い光に目が焼かれる。
段々と視界が光に慣れてくると、目の前に広がる白が天井だとわかった。長らく目を閉じていたからだろうか、その天井の白すらも、眩しい。
(夢──か)
レミアは先ほどの夢を思い出す。すでに記憶が抜け落ち、どんな夢だったか曖昧になり始めていたが、一度見た、あの夢に似ていたからなんとか記憶に留めることに成功した。
街が瓦礫の山になって、紫の炎で燃え盛る夢。
なんだか世界の終わりのようで、恐怖を覚える夢だ。
そんなことを思いながら、見える範囲で部屋の中を見回す。だが、寝そべったままの状態では、結局白い天井しか見えなかった。
(保健室……? いや、学校──じゃ、ない……?)
ゆっくりと起きあがろうとすると、ちょうど看護師のような出で立ちの女性がガラリと部屋の扉を開けた。
「えっ、あっ、え! 目が覚めたんですか!」
彼女はこちらを見て、目を丸くしてそう言うと、慌てた様子で駆け寄ってきて、レミアが上体を起こすのを手伝った。
「ちょっと待ってくださいね! 今院長を呼んできます!」
「い、院長を……!?」
そんな大層な人を呼ばれても困る、と思ったが、彼女はもう部屋をとっくに出て、院長なる人を呼びに行ってしまった。
やはり、ここは学校ではないらしい。
(と、なると──病院……?)
レミアは、白基調で物が少なく、やたら衛生的であることを感じさせる部屋を見渡してそう考える。
しばらくすると、先ほどの看護師とともに、小柄でふわふわとした印象の、かわいらしい女性が現れた。
「あら、本当だわ。目が覚めたのね」
そう言ってその女性だけが部屋の中に入ってきた。看護師の女性はペコリと一礼して、ドアを閉める。そのまま向こうへと足音は遠のいていった。
「レミア・ミューさんね」
女性はベッドの近くに椅子を寄せて腰掛ける。
よく見てみれば、ここは個室だ。
「おはようございます。ここは王立病院。私は院長のカトレア・シェンメリー」
「お、おはようございます……。って王立病院!?」
大層なところに連れて来られてしまった。王立病院は国に1つしかなく、国で一番大きい病院だ。
「あれ……、カトレア・シェンメリーって医大臣の……!」
「あら? 気付いてしまった? よく勉強してるのね」
カトレアはふふ、と笑うと詳しい自己紹介をしてくれた。
「カトレア・シェンメリー。現医大臣兼、王立病院院長を務めさせてもらっているわ」
「す、すごい……。医大臣って国王三大補佐官の内の一人ですよね?」
「そうね。武大臣、文大臣、医大臣が三大補佐官と呼ばれているわ。でも血筋が一番の要素だから大したことじゃないわね。それよりも今は──」
カトレアはおもむろに立ち上がり、レミアの顔をガシリと掴むと、診察を始める。
「うーんと、熱はなし。眼球運動も正常ね。口を開けて──うん、異常なしね」
その他色々とチェックして、テキパキと診察を終えると、どこから取り出したのか、バインダーに挟んだ資料にサラサラと何かを書き込んだ。
「そうね、見たところ問題なさそうだけど……、記憶の方もチェックしておきましょうか。あなた、丸々1週間も昏睡してたから」
「い、いっしゅうかん……!?」
それを聞いて、レミアは驚く。だって、筆記試験で1位をとって、イレーナに絡まれたのはつい昨日のことのようだ。
(あれ……、イレーナに絡まれて、それからどうしたんだっけ……?)
「どこまで覚えているのかしら? 自分の名前や年齢、普段何をしているか……、とかの基本的なことはわかる?」
「あ、はい……。レミア・ミュー、15歳。ユーヴェリア学園高等科1年生……で、魔力はありません」
「……ふむ、そうね。じゃあ倒れる前のことは覚えてる?」
「えっと……」
レミアは慎重に記憶をたどる。朧気なもやの中から記憶を取り出すように思い返す。イレーナに絡まれて、それから……。
あぁ、そうだ。イレーナが大きな魔法を打って……
(それから……、魔法が跳ね返った……?)
まさか、と思い、口ごもる。やっぱり記憶が正常じゃないのかもしれない。
「間違っていてもいいわ。あなたの脳が記憶していることを、そのまま教えて」
口に出すことを遠慮しているレミアの様子を見て、カトレアはそう促す。それを聞いたレミアはおずおずと口を開いた。
「イレーナ・ジュビムーンという子がいて、その子が私を魔法で地面に打ち付けました。……それから、私はなぜか立っていて、イレーナが私に向かって何か大きな魔法を打ったのを覚えています」
そこでレミアは一度切る。しばし沈黙して、あの場面を思い返す。
(イレーナは、なぜか怯えていた……)
どんなに思い返しても、イレーナの歪んだ顔と、魔法が向こう側に戻っていく様しか思い出せなかった。
「……その魔法は、私を襲わずに相手の方へ跳ね返ったように見えました」
「……なるほど。ありがとう」
カトレアはそう言って、またサラサラと万年筆でメモをとった。
「そうね。記憶にも問題はなさそうだわ」
カトレアはパラパラと資料をめくる。それから視線をこちらに移して、真剣な眼差しでこう告げた。
「今から大事なことを言うわ。とても重大なこと。
そうね……、あなたの人生が変わってしまうようなこと」
レミアは思わず背筋を伸ばす。そしてごくり、と唾を呑んだ。レミアの準備が整ったのを確認したカトレアは、目を見据えてゆっくりと、確かめるようにしっかりと言った。
「あなたには魔力がある。それもとても大きいわ。こんな数値はほぼ見たことがない。間違いなく紫ピンズレベルよ」
レミアは耳を疑った。
だってありえない。今度は耳に異常が出たんじゃないだろうか、そう思うほどだった。
「私に──魔力がある……?」
そう、小さく繰り返すことしか出来なかった。
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