8.ライトとリード
態度を一変させたライトは助手席で固まるショウを睨みつけると、侮蔑の混じった言葉を吐いた。
「おまえさ、ライトに抱かれに来たんだったら素直にそう言えばいいじゃん。性欲丸出しの変態尻軽下心女ですって」
「っはあ?! そんなんじゃないですけど!!」
「だったらなに? 男の車にたやすく乗せられてるくせに」
「それは……だって、ライトさんは刑事さんで」
「大昔の話でしょ、それ」
純粋でささやかだった願いを汚い憶測で一方的に決めつけられ、ショウは怒りのまま言い返した。彼女自身でも驚いたことに、ライトへの反抗の言葉は遠慮も容赦もなく飛び出す。冷めを通り越して沸いた怒りのまま、シートベルトを掴む拳を握りしめる。
それを受けとるライトのほうはというと、心底どうでも良さげに「あっそう」と返す。
ちらと横目でショウを見る目は先ほどの万倍鋭く、別人そのものだ。
変貌したライトは鬱陶しそうにショウを見やってから、陽気なラジオの音量を耳障りだとばかりに舌打ちして下げた。
「……別に俺もライトも好みじゃないけど。おまえみたいな子供」
「ガキじゃない! なんですか、急に失礼な! っていうか、俺もライトもって……あなたライトさんじゃないわけ?!」
「だるいな……ライトから聞いてないのかよ」
「なんですか、それっ」
今の今までライト本人だと思っていた人物が、あたかも自身はライトとは他人で別の個体だとでもいうような言い方をしてくる。
ならばこの人は誰? 私は知らない人の車に乗ってしまった?
あのボスと呼ばれていた刑事さんに嘘を吐かれていた?
ライトさんって実は双子だったの? この人たちは私をからかっている? 一体どこに連れて行かれるの?
言葉使いも態度も雰囲気も何もかもが再会した時から急激に変わってしまった。
数分前のライトの様子が夢か幻だったのかと疑ってしまうほどの急変にショウは頭を抱えて叫び声を上げそうになる。
自分は人生を終わらせるつもりで、最期に会いたかったライトに会いに来た。その予定さえもついさっき変更になったばかりなのに、ここから急転直下で見知らぬ赤の他人に殺されて終わるなんて嫌すぎる。こんな生きる理由の見出し方もともかくなのだが。
今、この状態から死なないためにできることは?
最悪な未来の打開策が急速回転した思考から乱雑に弾きだされ、ルーレットのようにカチリと止まる。
ひとつはドアを開けて走行中の車から飛び降りる。ふたつめは、ハンドルを奪ってこの男ごと道連れにしてやる。
前者の方が成功するかも、と覚悟を決めた彼女がドアのレバーに手をかける寸前。
「俺をライトと別の名前で呼びたいならリードでいい。ライトとはこの体を共有してる」
他でもない、真隣でハンドルを切る不審な男の発言によって最悪な未来は回避された。
意味を上手く咀嚼できなかったショウは眉をひそめてゆっくり首を傾げる。
「それってどういう意味……?」