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23.翌朝

「おはよお……」

「おはようございます。ライトさん」

「うん。おはよ。ショウちゃん。良い香りがするね。パンケーキ焼いてる?」

「はい」


ショウとリードのケーキを巡った攻防が繰り広げられたその翌日。時刻は朝八時過ぎごろ。

自由奔放な寝癖をつけたライトが大欠伸をこぼしながらのそのそと起きてきた。

昨日の朝とは交替制にして今度は先に起きていたショウに近づくと、台所に立って朝食の支度をする彼女に挨拶を伝える。

フライパンの上でひっくり返されている小麦色の朝食を覗き込んで嬉しそうに笑ってみたのだが、ショウからはどことなく距離感を感じさせる返事。

疑問を抱きつつも日課通りにボイスレコーダーを操作し、ライトはリードからの伝言を聞きながらソファにゆっくりと座った。

座ったのだが、どうにも様子のおかしいショウに落ち着かなくなってすぐ立ち上がってしまう。


「……えっと、ショウちゃん?」

「……」

「どうしたのかなって。昨晩なにかあった? 怖い顔になってるよ」

「いいえ……なんでもないです」


昨夜のリードの言動を引きずって怒り続けているショウに、リードと違って夜の記憶が引き継がれないライトは彼女の苛立ちはわかっても、その原因まで特定できない。

どうしたものかと少し考えたライトは、ふと。ひとつ思いつく。

動作がぎこちなく荒々しいショウの背後へ静かにこっそりと立つ。そうして、人の気配に気づいた彼女が振り向く前に、ぎゅーっと少し力を込めて後ろからハグをした。


「朝ごはん作ってくれてありがとう! はいっ! これ今朝の元気のチャージ! 僕からねっ」

「ひひゃああああああああっ?!!!」


暫定想い人にいきなり抱き着かれ驚嘆。突発的行動に勢い余って物理的に飛び上がる。

目を白黒させたショウの手から滑り落ちたマグカップがシンクに転がった。少し大きな音が響き渡る。ショウの頭の片隅のある変に冷静な部分が、カップが割れていないか確認しないと、と考えてはぐらかそうとしていた。


「ちょちょちょっと、ライトさんなに急に待ってまって、なに?!」

「リードとまた何かあったんでしょ? また報告になかったけど、リードも声の感じが変だったよ」


そう言ってボイスレコーダーを指すライト。図星をつかれ、ショウはライトの腕の中で縮こまった。

隠しておこうにもこの人に隠し事はできそうにない。一番近くで生活していることもあるから信頼しなくてはと思っているし、何よりも自分自身がライトに隠しごとはしたくないと本能的に感じてしまうのだ。

それは彼のことが好きだから……という盲目的な感情のせいなのか。それとも、元刑事たるライトの技術でそう思わせるよう仕向けられてるのか。いずれにせよ。

さっきは言い難くて少し口ごもってしまったが、ショウは包み隠さずに今の気持ちを話すことにした。


「ごめんなさい、ライトさん。わたし。ケーキのことで昨日……リードさんの好みを聞くって約束したんですけど……うまくできなくって……」

「そっか」


彼女の責任感と誠実さが声を震えて小さくさせてしまう。しどろもどろなショウの言葉だけで聡明なライトはだいたいの原因に思い至ったらしい。頷くとショウを囲う腕を解いて冷蔵庫を開け箱の中のケーキの数を確認した。


「ティラミスが残ったみたいだね。じゃあタルトのほうが好きだったのかな?」

「それはちがうんです。そっちも私が守ったっていうか、その、その……」

「いいよ。ショウちゃんのその気持ちだけで僕はじゅうぶん」


やっぱりライトさんは優しい。こちらの気持ちを汲み取って言葉をかけてくれる。

リードなんかとは全然ちがう。同じ人物だなんてまだ認められない。それはきっとこの先一生そうだろうとショウには思えた。

ライトとリードは同じ体。でもちがう。この人はこの人。

二人がどうしてこうなっているのかはまだ知れないけれど、病気や何かの原因であろうと私にはわかる。

別人として考えなくちゃという固い意志がショウの中に芽生えていた。


理解を深めるために聞くといって自らミッションを設け、それを喜んでくれたライト。

彼との約束を守れなかった自分を悔い、泣きそうになっていたショウは彼女を慰めるライトの心優しい笑顔につられてほころぶように微笑みを返したのだった。


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