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21/23

21.弱点

パーキングに車を停めてケーキを置いて歩くこと数分。

ボスたちからろくに説明もききもしないままショウを伴ったリードが足を止めたのは、主要な道路から離れた通りにあるビルの前だった。

人通りの多い場所とは一線を画す位置取り。雑居というにはかなり小洒落た雰囲気で一階部分は店舗になっている。


「ここですか?」

「うん」


全体が明るいグレーとピンクのストライプの外観はショウも見たことがあるお店だった。

とはいっても近所に住んでいただとかではないし、来店したこともない初めて訪れる店舗。一見またケーキ屋のようにも見えるファンシーな佇まい。

偶然、いつだったかのネットニュースで話題になっていた、たくさんの猫と遊びながらお茶ができる場所。

ショウが物心ついたかどうであったかぐらいのときはブームだったこともあるらしいが、動物に対するの法の整備はトウキョウ州でも毎年のごとく変更を繰り返す。

そんな時勢、今やこの国でも珍しいか相当懐かしまれるであろう「保護猫カフェ」がオープンした。そういった見出しで話題になっていたのを覚えていただけだ。

店名がなんだったかまでは覚えていなかったが、行ってみたいと思っていたことで外観と猫カフェという特徴を一致させることができたので間違いないだろう。

二人はスマホで検索しながら店の入り口に寄っていく。


ドア前に置かれたボードには店のメニューと何匹もの「本日出勤中の猫スタッフたち」という写真が貼られていた。

写っているのはベッドでくつろぐ白黒のハチワレ猫、おもちゃを狙うきりっとした茶色のトラ猫、窓の外を眺める優雅な灰色の毛の長い猫。

写真の猫たちはみんな大切にお世話され活き活きと暮らしているのが見て取れた。


「さっき橋の下で見た遺体はここのオーナーだ。おまえ、客のふりして中で聞き込んでこい」

「え、ええ……? 私がするんですか?」

「助手じゃなかったのか? なんでもするって言っただろう」

「言いましたけど……」


鋭い眼光で顎をしゃくるリード。

自分が助手として置いて欲しいと言った手前「嫌です。帰ります」なんて言える度胸もなくショウはしぶしぶと歩みを進め、いつか機会があれば行ってみたいと思っていた看板を見上げる。

こんなことで来たのでなければ純粋に猫と戯れられたのに。猫ちゃんは好きだけど……偉そうに命令されて行くような思い出になるのはちょっとなあ。

リードも自身の雇用主の一人であるけれども。本当に探偵とは言い難い、ド素人の女の子を単身で乗り込ませる気なのかと彼を振り返ると、心なしか嫌そうな顔をして「早く行けよ」といわんばかりに手でシッシと追い立てられる。


おやおや〜? これはもしかするともしかする?

リードが初めて見せた表情が珍しくて、ショウの中にちょっとからかってやろうという意地悪な気持ちが芽生えた。


「……まさか。リードさん猫ちゃんが苦手なんですか? アレルギーとか?」


自然とニマニマとした笑顔になってしまう。ショウはリードをさらに煽るために口へ手を当てて笑った。

これまで散々こちらが言葉で突かれてきたのだ。このくらいのかわいい意趣返しも罰は当たるまい。そのチャンス。

ショウの予想では、返事は舌打ち、もしくは心底バカにしきった顔とか、とにかく売られた喧嘩をリードもそのまま買っていく姿だったのだが、そのどれとも違っていた。

リードがスッと視線を明後日の方に向ける。


「そ、そんなわけないだろ」


そしてそのまま淡々と、いつもより早口で猫の悪口を列挙していく。


「いいか。猫は爪が鋭くて痛い。衣服や家具をダメにするしトイレも臭う。気まぐれで自分勝手で寝てばかりいる。そのうえいつもどこを見てるかわからなくて不気味だ。やつら人間に見えないものが見えるだなんだのって、悪寒がする」

「へええ」

「なんだよ」

「なんでもないですよー」


へー、ほー、ふーん。敵への対処のために良く敵を知る。を体現する悪意の数々を聞いて満足した。

心底不快そうに身震いするリード。この様子はやっぱり猫が苦手らしい。

ショウ自身、リードと過ごした時間はそう多くないがそれでもこれまでの印象からして、唯我独尊、口が悪い、態度がデカいと欠点ばかり挙げ連ねられるいけ好かないヤローであった。

ここに来て始めて見る意外な一面。ますます面白がるショウの様子を察し、リードは尖った視線と力強い舌打ちを送る。


「なんだ、リードさんもかわいいとこあるじゃないですか」

「うざい。黙れ」

「黙ってたら聞き込みにならないんで~」


満足するまでひとしきりリードをからかった後。

しつこくしすぎて怒りの導火線に火がつく前に賢く撤退したショウは、本来の目的を果たしに「さあ聞き込みと参りましょうか」と店の入口に向き直る。と、ちょうど店から出てきたエプロンを身につけた店員とぶつかりそうになる。


「わわっ、ごめんなさい!」


ショウが店員より先にパッと一歩離れて頭を下げたとき、店員の持つ札が目についた。

猫の形の看板にはカフェのかわいらしい雰囲気に合う丸い書体で「CLOSE」と書かれている。

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