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1.未遂と出会い

星が見えない。月は遠い。ぼんやり眺める街は、黒い夜空をバックに白と青。

それからときどきちらついている赤と黄色の反射光。

発しているのは遠くの車か建物か。乱雑な明かりに彩られてキラキラとしていた。


雑居ビルの屋上。

沈むような海色の虚眼(まなこ)に悪趣味なイルミネーションを映しながら、ふ。と、ため息を落として笑う少女がいた。

少女……ショウはこれから自分の意思で死のう思っていた。それなのに、夜景を綺麗だ汚いだなどと表現できる感性がまだ残っているなんて。なんだか自分でもおかしくなってしまったのだ。


彼女が視線を下に移すとビル下の道には数台のパトカーが止まっていた。

警官らしき制服の男女がたむろしていて、

「バカなことはやめて降りてきなさい!」

「はやまらないで! 落ち着いて!」

と、拡声器を使ってしきりに声を上げているが言葉は音となってショウの耳をすり抜けるばかりでなに一つ届かなかった。

熱心な仕事ぶりで「若い女の子の飛び降りを引き留めようとする」彼らの周囲で立ち止まり、ちらほら散っている人々は下世話なギャラリーだろう。みな一様にショウのいる屋上を見上げて様子をうかがっている。

心配しているとは思えない野次馬たちだ。ただ刺激的な事故の目撃者になりたいだけの彼らは、顔も知らないショウをスマホのムービーに上手く撮り収めることにしか興味がない。


「…………」


「落ちるなら頭からにしたほうがいいよ」


てすりを乗り越える直前。焦点を合わせられない目で街を見下ろしていたショウの背に男の声がかけられた。

この場には自分だけと思い込んでいた彼女は、唐突な第三視点者の登場にビクリと肩を跳ね上げた。

振り返って姿を確認するまでもなく、男は話を続けながらショウの隣に並んでにこりとほほえむ。

待ち合わせていた友人と合流できたときのように気安い笑顔だ。


「半端に怪我すると最悪だからさ。ああでも、ここからじゃあちょっと高さが足らないかも」


男は先ほどまでショウが眺めていた下をひょいと覗き込み、集まった群衆に「おーい」と親しげに手を振った。

「おい! こら! ライトー!」と、機械を通して響き渡る野太い怒号を清々しいほど綺麗にかわし、たじろいでいるショウを振り返ると向かいの高層ビルを指さした。


「ほら見て」


その指先はガラスのはめ込まれた窓の側面をなぞりながら上へと辿り、屋上でピタリと止まる。ライトと呼ばれた男の垂れ目がちな紫の瞳がショウの瞳を覗き込んでささやく。


「あっちのビルのほうが確実。下手に死に損なうとすっごく痛いし、いろいろと後悔するだろうし……きみがもし本当に死にたいなら、あっちまで行って飛び降りない? 連れていくよ?」


死……何日も、何時間も考えて考えて考えて、考え抜いた。そうして出した結論だった。

ほんの数分前にもパトカーと人がひしめく地面を見たときだって怖くはなかった。はずだった。

柵を乗り越えて、空に足を踏み出して、全身で空気を掻き分ける。そうすれば、地面に激突してサヨウナラ。

頭の中でした予行演習だってバッチリだったのに、いざ他人に指摘されると夢の泡が弾けたように、一気に「死」が迫ってきて目の前がグラグラ揺れ出した。


「……おっと」


這い登る恐怖に足を震わせ倒れかかったショウを男が危なげなく抱き留める。

途端、爆発するかのようにわっと泣き出した少女の肩を、先程ビルを指さした手で撫ぜながらここまで絶やさなかった人好きのする笑顔で言う。


「あれ? 死ぬのヤんなっちゃった?」


少女は泣き叫び、無意識に男の服を強く握りしめていた。

新連載です


4万字くらいの中編を予定していますのでどうぞごゆっくりお楽しみください~


☆☆☆☆☆評価、ブックマークとてもはげみになります!

ありがとうございます

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