九十九話 裏事情
「洋平、昨日はあの後、狐調ちゃんとどうだったんだ? 父ちゃん気になるな~」
洋平と恭介は典両区の街並みが見える丘に居た。
「何もねェよ。狐調先輩が泣いてるのを隣で見てることしかできなかった。最後は『長い時間付き合ってくれて、ありがとうございました』って丁寧に挨拶されたよ。つか親父、どんだけ俺の恋愛事情気にしてんだよ……」
洋平は呆れてため息をつく。
「そりゃ、せがれの恋については気になるさ。まあ、狐調ちゃんも感謝してくれてるなら、ポイントアップかもな!」
「ポイント上げたくてした訳じゃねェよ。そもそも、好きな訳じゃねェからな」
「でも、あんな綺麗で、優しい女の子そうそう居ねェぞ? いいのか?」
「アホ親父。俺ァ狐調先輩のことそんなに知らん。狐調先輩も俺のことなんてほとんど知らねェだろ。そんな状態で好きにまでなれねェよ……」
「ふ~ん? 洋平は自分で思ってる以上に相手のこと分かってると思うぜ? ま、これ以上は野暮ってもんだな。メンゴメンゴ」
「ったく……。それより、聞きたいことが色々あんだけど、聞いていいか?」
「おう。俺も伝えることがあってここで会ってるからな。何でも聞いてくれ。ただ、どうしても答えれねェこともあるからそれは勘弁な」
「分かった。とりあえず、何で親父が天啓者やってんだ? まあ、俺もではあるけど……」
「いきさつは似たようなもんかな。父ちゃんは九年前から天啓者やってる」
「え⁉ そんな前からなのか? 全然気づかなかったぞ……」
「まあ、洋平に気づかれないようにしてたのもあるな。父ちゃんの固有魔法《幻影魔法》だし。小さい洋平を騙すことくらい訳ないさ」
「え、でも仕事は? サラリーマンで色んな所に出張行って、家に居ねェこと多かったのは分かるけど、自由に動けないんじゃ……?」
「う~ん。どう説明したらいいかな。父ちゃん、実は普通のサラリーマンじゃねェんだ。天啓者関係の仕事をしてる。詳細は伝えられねェんだけど、天啓者としてマナ災害を防いだり、フォローすることが仕事なんだ」
「何だその気になる仕事……。まあ、詳細聞けねェなら深くは聞かねェけどよ。ちなみに、マナ災害って?」
「マナは分かるよな?」
「この世のあらゆる物質、非物質に宿るエネルギーのこと?」
「そうだ。マナ災害とは地球の局所的なマナの過剰発生、減少、それと綻びにより発生する災害のことだ。地球には龍脈っていうマナが流れる道が、木の根っこみてェに張り巡らされてる」
恭介は《幻影魔法》で地球に見立てた球に、龍脈を模した線を張り巡らさせてみせる。
「ま、分かりやすく言えば、龍脈に異常が起こるとマナ災害が発生するんだ。他にも、自然的、もしくは『人為的』にマナが過剰発生、減少するパターンもあるけどな。それらを事前に防いだり、フォローをしていくことが俺の仕事だ」
「何かすげェことしてたんだな、親父……。正直驚いたぞ……」
「ハハハ! まあ、びっくりするよな! 今回助けにきたのも、狐全がマナ災害にあたるとバロンスに判断されたからだ」
「なるほど……。たしかに、マナの過剰発生はしてただろうな……。めちゃくちゃ危険な奴だったし……。そういや、親父と一緒にきてた南城朱音さんも同じ仕事してる人?」
「そうそう。朱音ちゃんとはしばらく一緒に行動してるんだ。一人で対処しきれない事案が続いてたからな。もうしばらく一緒に行動する予定だ」
「それで、一緒に助けにきてくれたのか! いやでも、マジ助かった! 皆の治療もしてくれたし。『死人が出ずに済んだ』のが本当に良かった。ありがとうな!」
「おうよ。マナ災害撲滅するだけが仕事じゃねェからな。被害を最小限にするのも大切だ」
「他に聞きたいこと……。あァ……急に色んなことあり過ぎて今思いつかねェな……」
「あ、じゃあ父ちゃんから聞いていいか? 俺と朱音ちゃんで《回復魔法》で皆を回復したろ? お友達は元気になったか? 洋平は割と元気そうだけどよ」
「あァ。皆元気にはなったよ。晴夏はしばらく家で安静。空乃は結構ピンピンしてんなァ。丈夫さが取り柄だってよ。他の人達も療養は必要だけど、大丈夫だってさ。また、六日後に裁奈さんの探偵事務所で祝賀会するから見とくわ」
「そうか、良かったよ……! てか、祝賀会すんのか~。いいなァ、父ちゃんも行こうかな」
「え? 親父も来んのか?」
「ウソウソ、冗談だよ。四日後には朱音ちゃんとまた移動しねェといけねェからな」
「マジか……。すげェ忙しいんだな……」
「まあ、マナ災害の予防も仕事のうちだからな~。元気と言えば、弘子は元気にしてるか?」
「母さん? 年始に実家帰った時は元気だったぜ。親父はしばらく会ってないのか?」
「最近かなり忙しかったからな……。電話で話したりはしてるけどな」
「そっか。まァ大事な仕事があるなら仕方ねェか。母さんも仕事のことは知ってるのか?」
「おう。ちゃんと説明して分かってもらってるよ。そのうち、洋平のことも言っとく必要あるな……。あと、最後に父ちゃんが伝えないといけないことがある。心して聞いてくれ」
「お、おう。急だな。……言ってくれ」
「結論から言うぞ。もし洋平が良ければ、宮宇治家に入ってほしい。陰陽師として……魔導士としての研鑽を積んで強くなってくれ。そんで、今後増えると予測されてるマナ知覚の覚醒者に備えてほしい」
「おいおいおい。随分ぶっ飛んだ話だな。昨日まで戦ってた宮宇治家に入れって……? それに、今後に備えるってどういうことだよ?」
「宮宇治家に入るのはさっき言った通り、強くなるためだ。魔法や法術に精通してる人間はそう多くない。宮宇治家が現状適任だ。前当主、狐全がいなくなったことで、おそらく狐調ちゃんが当主となるだろう。適した統治のもと、マナ知覚の覚醒者を教育する組織が必要だ」
「その組織に宮宇治家がなると……?」
「そうだ。この話は既に狐調ちゃんをはじめ宮宇治家の人間には話している。すぐに回答しかねるが、前向きに検討するとのことだ」
「そんな話になってたのか……。今後に備えるってのもマナ知覚の覚醒者の教育に備えるってことか……」
「そ。あと、魔法を使って悪さする奴も出てくる可能性がある。そいつらに対抗できる組織が必要だ」
「……かなり先も見た話なんだな……。この話は俺以外の晴夏達にもするのか?」
「おう。人員は多い方が良い。俺が最初に伝えたのは洋平が最初だ。今頃、朱音ちゃんが裁奈ちゃんにも伝えてると思う。明日以降で晴夏達にも伝える予定だ」
「そっか……。……この話って選択権あるんだよな……?」
「もちろん! ただ、洋平達の身のため、そして他の人々のためには宮宇治家に入るのがオススメではある。まあ、ぶっちゃけ、そうしてくれた方が、父ちゃん達バロンスサイドは助かるかな」
「……なるほど。よく考えとくわ」
「あァ。また、狐調ちゃんから連絡あると思うから、そん時に結論出してくれ。そんじゃ、俺ァ後片付けとかあるから行くわ。洋平元気でな! もし、困ったことあれば俺に言えよ! 仕事の合間縫ってでも必ず助けに行くからな!」
「おう! ありがとな親父!」